第3章  見知らぬ世界 〜 金田裕次(4)

 金田裕次(4)




 もしこの時香織が警察に捕まれば、金田はただでは済まなかったろう。彼女がどうして矢島を殺したのかは分からない。しかし何がどうあれ、香織が警察の取り調べで、事実以上のことを言い出すのは安易に想像できたのだ。

 単に、〝浮気〟という〝罠〟を仕掛けただけに留まらない、

「殺せって、そう命令されたんです!」

 彼女は力強くそう訴えて、殺人教唆だと言い張るに違いなかった。

 そんなことを金田は咄嗟に判断し、現場に香織がいたという証拠をことごとく消し去った。更にPCにある使用人のデーターを偽造して、前日で解雇になっていたように見せ掛ける。

 これで万一香織が逮捕されても、〝矢島への恨みで刺し殺した〟で辻褄が合う。と、そんな心もとない安心感を頼りに、金田は香織の行方を必死になって探した。駆け付けた自宅には鍵がかかっていて、一緒に住んでいる男へも連絡が取れない。

 きっと今頃、屋敷は警察の人間でごった返しているだろう。

 そして愛菜は、打ち合わせた通りに警察と上手くやっているだろうか? そんなことを考えれば考える程、屋敷への足が鉛のように重くなった。既に日は完全に沈んでいる。大通りを後100メートルも歩けば、いつもなら右手に門灯が見えてくる筈なのだ。ところが明かりはまるで見えず、代わりに点滅する赤い光が連なって見える。

 警察車両だった。

 そんな認知と共に、彼の足は根が生えたように動かなくなった。

 その時、胸ポケットが急に震え出し、聞き慣れたメロディ音が響き渡る。慌ててポケットに指先を突っ込み、最新型の携帯を引っ張り出す。見ればディスプレイが点滅し、愛菜という文字が浮き上がっている。金田の心臓は一気に高鳴り……、

 ――鳴り止んでくれ!

 天を仰ぎ心からそう思った。

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