第2章 異次元の時 〜 遊園地(2)
遊園地(2)
「未来、いいよいいよ、もう俺は充分だよ……」
そう言ってから、ゆっくり席を立って見せたんだ。そうすれば、きっと未来だって立ち上がるだろうと思ってだ。ところがまるでそうはならない。立ち上がった俺の方を見ないまま、未来は憮然とした表情を崩さなかった。どうして? 素直にそう思ったよ。ウエイターは皿を戻していなくなり、俺はまた座るなんて気持ちには到底なれない。
「俺、先に表に出てるからさ……」
できる限り穏やかな感じで言って、俺は未来を残してそこを出た。それからどんな顔して出てくるかと、レストランの前でドキドキしながら彼女を待った。ところがだ。さっきまでの仏頂面はどこ吹く風。何とも機嫌のいい笑顔をして、未来は俺に手まで振って見せたんだ。
「瞬が出て行っちゃったから、セットのコーヒー飲み損なっちゃったよ! 残念〜」
どう転んでも文句とは思えぬ声で、未来は明るくそう言ってきた。
それから俺たちは、自動販売機で缶コーヒーを買って、レストラン脇にある広場のベンチに腰掛ける。そしてホッと一息、まさにそんな感じだったのに、最近の俺はどうしてこうなってしまうのか?
その広場は、「本当に遊園地の中?」と言いたくなるくらいに閑散としていて、白い柵で仕切られた花壇が5つ6つ点在している。そんな中、一番遠くに見える花壇の中に、俺はあの晩出会った少女を見つけてしまった。遠目でもはっきり分かるくらいに、周りの景色から浮き上がるように見えている。
――ゆうちゃん……。
そんな心の声が聞こえたように、少女が一瞬笑ったように見えた。そしてその直後、歩く素振りなど見せぬまま、スーッとベンチの方に近付いてくる。顔半分を覆っていた爛れは消え去って、シミ1つない真っ白なワンピース姿。そんな少女はまさに地下室で目にした写真の中の……、〝ゆうちゃん〟そのものに見えるのだった。
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