第2章  異次元の時 〜 デートの約束

 デートの約束




「久しぶりに今度の休み、2人でどこかに出かけない?」

 今から思えば、俺が自分からこんなこと言い出すのは、随分久しぶりのことだったように思う。なんだか浮かない表情の未来を見ていて、俺は思わずそんなことを言ってしまった。ところが未来は、「うん、そうだね……」と、何とも気のない返事を返してくる。 

 ――こんなふうになったのは、いったい、いつの頃からだろう? 

 俺は未来の部屋を訪れると、しょっちゅうこんなことを考えるんだ。

 学生の頃までは毎日のように逢っていたし、今度の休みにどこに行きたいとか、いつも未来の方から言ってきた。ところが最近はこっちから誘っても、なぜか気のない返事ばかり。それでも俺は忍耐強く、笑顔を崩さず更に言った。

「遊園地なんてどう? 最近はぜんぜん行ってないしさ……」

「いいけど……」

 ――どうして、そんな顔するんだよ?

「別にいいよ……瞬、嫌いでしょ? 人の多い場所……」

 ――いったいいつから、俺って人混みが嫌いになった?

 そう思いながらも、そんな素振り見せずに俺は説得を続けるんだ。

「そんなことないって、行こうよ、遊園地にさ……」

 そうしてようやく、向かい合う未来の顔に、少しだけ笑みが戻った時だった。勘弁してくれよ! 俺は思わずそう言いかけて、慌てて未来から視線を外して下を向いた。

「どうしてあんたは、変な時にばっかり出て来るんだよ?」

 もちろんこれは下を向いたまま、未来に聞こえない程度に小さな呟きだ。とにかく、こいつを見るのはもう3回目だった。これ以上放っておけば、いつ何を言い出すか分からない。だから俺は仕方なく、

「未来ゴメン、またすぐに連絡するから!」

 用事を思い出したからと続けて、すぐに未来のマンションを後にした。何か言ってくるかと思ったが、未来はただ黙って悲しそうな顔を見せるだけ。きっと、こんなことだからいけないんだ。もちろんそう度々じゃないし、これまでだって、何度打ち明けようと思ったかしれない。だけど結局俺は、何も伝えられないまま今日という日を迎えている。そして今この瞬間も、俺はいつものようにそいつらのところへ向かっていた。


 

 ――未来ゴメン、すぐに連絡するから。

 急な用事を思い出したからと言って、瞬は扉の向こうへ消えていた。その瞬間、未来は瞬の姿など追ってはおらず、ただじっと真正面を見つめたまま……。彼の笑顔があった辺りに目を向けて、誰に言うわけでもなく呟いた。

「いつまで続くの? いったい、いつまでこんなことが……」

 悲しげに響くその声は、やがて途切れ途切れの嗚咽に変わる。その時なぜか、未来の横顔は真っ赤に腫れて、膝から血の筋が伝わり流れた。 

「もう……いやだ……」

 絞り出すような声の後、彼女は己の膝を抱え込み、身体全体を震わせ……泣いた。

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