第32話 最終決戦①

 ドミニク大公は目の前で起こっていることが信じられなかった。今日は自分にとって一番記念すべき日となるはずだったのに、貴賓室の巨大ディスプレには自分がこれまで犯した悪事が全星に向けて配信されてしまった。そんな最悪の事態に加えて死んだと思っていたウロボロス団長が目の前に現れた時は何かの冗談かと思いたくなった。


 ドミニク大公は目の前にいる男が本当にウロボロス団長かどうか確認するために質問した。


「お…お前は何故生きている?」


 ドミニク大公に言われウロボロスはゆっくりと話し始めた。


「そうだ。あの日海賊だった儂は死んだ……ここにいるジークによってウロボロス海賊団の母船ガレリア号は壊滅寸前まで追い込まれた」





 ウロボロスは肩で息をしていた。先程、目の前のこの少年から一撃で吹っ飛ばされて壁に強か体を打ち付けて以来、左の半分が思うように動かなくなった。おそらく左側を打ち付けて全身の骨が折れているのだろう。


 ウロボロスはこのままでは勝てないと思い咄嗟に腰につけていた自爆装置に手をかけた時、一枚の写真が胸ポケットから落ちた。


 俺がその写真を見るとそれは幼いエミリアとウロボロスが写っている写真だった。


「何故お前がエミリアと一緒に写っている? ルビオラ星の関係者なのか?」


「お前には関係ない!」


 ウロボロスはそう言うと写真を拾って大事そうに胸ポケットにしまおうとした時、関係あるわ!、と言う声が聞こえたので二人で声のした方を見るとそこにはパルタが立っていた。パルタはゆっくりとウロボロスに近づくとウロボロスを見つめながら言った。


「あなたはあの子の父親ね」


「何? ウロボロスはルビオラ星の王様なのか?」


 俺が信じられないと言った口調で言うとパルタはすぐに否定した。


「違うわ! エミリアはその男とルビオラ星の王妃との間に生まれた子供よ」


「何?……」


 俺は意味がわからずウロボロスを見た。ウロボロスはパルタを真っ直ぐに見つめて問いかけた。


「何故そんなことがわかる?」


「私はネオAIよ。この世の全てのことを見通せる存在」


 ウロボロスはそうか、というと暫く黙った後に観念した様に話し始めた。


「お前の言う通りエミリアは儂と王妃の子供だ。残念ながら王と王妃の間には長年子供ができなかった、そのことで王妃はひどく差別されていた、王族の中で孤立していた王妃を見るのが儂には耐えられなかった。王妃は自分が苦しい状況でも周りの人をいつも気遣っていた。儂はそんな王妃が好きだった。」


 ウロボロスはそこまで話すと次に海賊になった経緯を話し始めた。


「儂はルビオラ星の親衛隊長だった。王と王妃の身辺を警固するのが儂の役割だった。やがて儂と王妃の間にエミリアが生まれた。王は自分に子種がないことを知っていた……それでも儂や王妃を責めることはしなかった。自分の子供ではないとわかっているのにまるで自分の子供のようにエミリアを可愛がってくれた。儂はそんな王を見るのが忍びなかった。そんな時だった、ドロイド星の宇宙船がルビオラ星に戦争紛いの行為をしてくるようになった。何かにつけてルビオラ星の領空を侵すようになって王と王妃は困っていた。儂はすぐに自分の部下で信頼できる奴を集めて海賊団を結成した。海賊団であればもし捕まってもルビオラ星には迷惑がかからないと思った。それがこの海賊団の始まりだ」


「それでなんで今になってエミリアを攫ったの? エミリアに父親であることを告白でもするの?」


 パルタが聞くとウロボロスは否定した。


「違う。ルビオラ星の幹部数人がエミリアをさらってドロイド星に連れて行こうとしていることが分かったから」


「それを阻止するために攫ったってことなのね」


「海賊だからな」


「そいつらはどうしてエミリアをドロイドに引き渡そうとしていたの?」


「ルビオラ星の幹部の中にエミリアが王の血を引いていないことを知っている者がいたようだ。そいつらは王の血を引いていないエミリアを好ましく思ってなくドロイド星に引き渡そうとしていた」


 ウロボロスはそこまで言うと、だがもう安心だそいつらは全員死末した、と言った。


 俺は海賊船の中で見たルビオラ星の服を着た死体を思い出した。


(あの部屋で死んでいたのはそいつらだったのか)


「何故その幹部達はエミリアが王の血を引いていないことを知っていたの?」


「ルビオラ星の王族の中で知っているものは王以外数名しかいない。その方達が言うことはまずあり得ないと思う」


「じゃあ何故? どこから情報を掴んだんだ?」


「おそらくソウといいう奴だと思う」


「ソウ? 誰だそいつは?」


「このウロボロス海賊団を陰で操っている奴だ。そいつはとても狡猾で残忍でその上頭も切れる。もはやそいつの方が俺よりこの海賊団を動かしていると言った方が良いだろう」


「正体はわからないのか?」


「何回か情報を頼りに探ってみたが無理だった。探ろうとするとすぐに気づいて行方をくらましてしまう」


「どうする?」


 俺はパルタに聞いた。パルタはすぐにウロボロスは死んだことにしましょう、と言った。


「何?」


 俺はパルタの答えの意味がわからず聞いた。


「ここで自爆したことにすれば、ソウと言う奴に気付かれずに調べられると思うわ」


 俺はそんなことできるのか心配に思っていたが、ウロボロスは凄く乗り気だった。


「なるほどその手があったか!」


「いい。宇宙海賊ウロボロスはここで死ぬ」


「そうだな。いい考えだ」


 ウロボロスは自分につけていた自爆装置を外してガレリア号にセットしていた。パルタはウロボロスが爆弾をセットし終わったのを確認するとウロボロスに話した。


「最後にエミリアに会っていきなさい」


「え?……い…いや。合わない方がエミリアのためになるから……」


「会いたいでしょ。平気よ。今はカプセルの中で眠っているから気付かれないわ」


 ウロボロスはどうしようか考えているとパルタが父親でしょ! 娘の寝顔ぐらい見ていきなさい、と言って強引にストレイシープに連れてきた。



 ウロボロスは休眠カプセルに入って寝ているエミリアを見た。母親そっくりになったと思った。暫く眺めているとエミリアの入っているカプセルに水滴が落ちた。ウロボロスは自分が泣いていることに気がついた。


「儂が絶対に守ってやるからな!!」


 ウロボロスはそれだけ言うと俺とパルタに別れを告げて去っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る