第31話 アル=シオン

 アル=シオンのドミニク大公は上機嫌になっていた。


 ウロボロス海賊団がジーク達を捕縛して、銀河パトロールとグロリアもろとも人工ブラックホールに吸い込まれていなくなったとの連絡を受けたためである。グロリアはドミニク大公の忠実な部下であったが、最初から助ける気などなかった。この時のために海賊船の一隻に超重力加速装置を搭載して、いつでも人工的にブラックホールを形成できる船を用意しておいて本当によかったと思った。


 あのグロリアが銀河パトロールに捕まったと聞いた時は、洗いざらい証言されて自分の地位が危うくなるのではないかとヒヤヒヤしたが、全てを闇に葬り去ることができたと思いドミニク大公はホッと胸を撫で下ろしたが、何か少し違和感が有った。


(うまくいきすぎている?)


 ドミニク大公が神経質になるのには理由があった。


 明日は自分がアル=シオンの王になって八周年の記念する日だった。記念日のメイン行事はカルラ星の王よりガーディアン勲章がドミニク大公に送られることが決まっていたため、アル=シオンでは盛大なパーティーやら式典の準備などで忙しく、また、様々な星の王族たちがアル=シオンに詰めかけていた。




 一夜明けアル=シオンのドミニク大公はすこぶる機嫌が良かった。スペースプラネット社のニュースで銀河系の端で人工ブラックホールが発生して銀河パトロールの隊員と護送中のグロリアと海賊船がそのブラックホールに呑み込まれて行方不明との記事が掲載されていたからであった。


 部下より報告は受けていたが、信憑性に欠けていたのでニュース記事を見てこれで完全に自分は安泰だと思った。心の荷がなくなったおかげで体調も良く今朝の朝食は久々に二杯もおかわりをしてしまった。


 今日は人生で最も清々しい一日になる。ドミニク大公は式典の衣装に着替えて貴賓室に向かった。アル=シオン星の貴賓室の入り口にはレッドカーペットが敷かれており、式典の会場に相応しいように大きな彫刻の像やら大きな花飾りが所狭しと置かれていた。


 レッドカーペットに高級車が停まり、次々と各惑星の王族が車から降りるたびに多くのレポーターがインタビューや写真撮影をしていた。ドミニク大公はその様子を貴賓室の二階の窓から見ていた。



 式典に参加する王族が貴賓室に入るといよいよ式典が始まった。まずはドミニク大公へカルラ星の王よりガーディアン勲章の授与式が行われた。カルラ星の王とドミニク大公が舞台に出ると大勢のマスコミのカメラが一斉に二人を撮影して、その様子が貴賓室にある巨大ビジョンに映し出されていた。カルラ星の王よりガーディアン勲章の表彰状が読み上げられた。


「ドミニク大公よ、汝は己の財を顧みず全宇宙の平和のために私財を投げ打って宇宙の秩序回復に貢献した。よってここに感謝を示しガーディアン勲章を授与したい」


「ははー! ありがたき幸せ!!」


 ドミニク大公が表彰状を受け取ろうと前に出た時、突然巨大ビジョンの映像が切り替わりそれを見た観客は唖然とした。巨大ビジョンにはアル=シオン星の前王のライカ王を殺害しているドミニク大公の様子が映し出された。その映像はパルタが八年前に隠しカメラにより撮影した映像だった。次に映し出された映像では、カプセルに入ったカレンをドミニク大公が部下のグロリアに殺害する様に命令しているところが映し出された。


 ドミニク大公は目の前で起こっている悪夢のような現実が信じられなく大いに取り乱していた。


「なんだこれは!! こんなのでっち上げの映像だ! 誰か早く映像を止めろ!!」


 ドミニク大公の訴えも虚しく部下が電源を抜いても映像は途切れることなく次々とドミニク大公がこれまで行ってきた悪事が巨大ビジョンに映し出された。


 俺は報道記者席から出ると狼狽えているドミニク大公へ観念したらどうだ?、と言った。ドミニク大公は俺の姿を確認すると驚いた表情でなんで? 生きている?、と言った。


「ウロボロス海賊船ごと人工ブラックホールに飲み込まれたのに信じられない、と言った様子だな」


「なぜ? 生きている? 確かに呑み込まれたはずなのに?」


「超重力加速装置みたいな物騒なものを詰んでる船をパルタが気づかないとでも思っているのか?」


「なんだと? でも確かに部下からの報告では……! に…偽の情報か?」


「あんたの部下には幻影を見せていたのさ、パルタは人の脳に直接電波を送って幻影を見せるのが得意なんだよ」


「で…でも、スペースプラネットの記事はどうなんだ? あれも偽物なのか?」


「スペースプラネットの記者が仲間にいてね。そいつが協力してくれたのさ。俺たちが記者に変装してここに潜り込めたのもそいつのおかげだ!」


「な…なんだと! お……お前達が生きていると言うことは? も…もしかして?」


「ああそうだ。グロリアも銀河パトロールの隊員もみんな無事だよ。彼らはすでに銀河パトロール本部に到着してる頃だろうな!」


「き……貴様らよくも私を騙したな! ここに来たことを後悔させてやる!!」


 ドミニク大公はそう言うとアル=シオンの私兵に俺たちを殺害する様に命令した。俺はあっという間に大勢のアル=シオン兵に囲まれた。


「いくら貴様が強くてもこれだけの兵士を相手にするのは不可能だろう」


「俺がパルタと二人だけでここに来たと思うか?」


 俺がそう言った瞬間、記者席から報道人に紛れた海賊達が一斉に出てきた。ドミニク大公は突然出てきた海賊達に向かって怒りをあらわにした。


「お前達……、な…何者だ?!」


「何者かはあんたが一番よくわかってるんじゃないのか?」


 海賊達をかき分けてグフタスが出てきてドミニク大公と対峙して言った。


「お…お前達のような者。私が知るわけがないだろ!」


 ドミニク大公は毅然とした態度でグフタスに言い放った。


「もうお前がしてきたことは全て調べがついてあるんだ」


 ドミニク大公は声のした方を見て我が目を疑った。


「な?……なんでお前がそこにいるんだ?」


 声の主はウロボロス海賊団団長だった。

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