第29話 謎の惑星①

 銀河系の端にその星はあった。地表のほとんどは深い森に覆われており、殆ど手付かずの原生林の生い茂る星だった。


 カレンとエレオノーラとグレンの三人を乗せた宇宙船は着陸体制に入った。船内には先ほどからアラームが鳴り響き席に着席して、着陸姿勢を取るように船内のモニターに指示が表示されていた。三人はモニターに表示された指示に従い椅子に座ると、座席の下からゼリー状のクッションのようなものが出てきて全身を覆われた。


 カレンは初めての経験だったので戸惑ったが、エレオノーラとグレンは当たり前のように平然としていたので心配ないと思った。身体中がゼリーに包まれるとひんやりとして心地よかった。


 暫くして宇宙船が惑星に着陸した。振動が収まると同時に全身を包んでいたゼリーが溶けて体が自由になった。宇宙船の扉が開くと目の前には鬱蒼と生い茂ったジャングルが見えた。


 三人は恐る恐る脱出ポットから外に出た。日差しが眩しいので目を細めていたが、徐々に目が慣れ始めたところでグレンがみんなに聞いた。


「どこに行く?」


「この辺りを見渡せる場所に行きましょう」


 カレンが言うとエレオノーラが小高い丘の上を指差しながらあの丘の上に行きましょう、と言った。三人は丘の上を目指して歩いた。


 暫く歩くと三人は丘の上に到着した、三人は早速周りを見渡した。かなり遠くまで見渡す事ができた。そこには多くの朽ち果てた宇宙船の残骸があちこちにあった。三人は暫くバラバラに丘の上を散策した。


 これを見て!、エレオノーラが叫んだ。二人はエレオノーラに近づいた。みると蔓草に隠れるように地面から鉄の主柱が伸びていた。グレンが蔓草を取るとアンテナのようなものが出てきた。三人は地面の土を少し掘ってみるとすぐに鉄板が見えた。どうやら丘の上と思っていたこの場所も宇宙船の残骸の上のようだった。


「どうしてこんなに多くの宇宙船がここにあるの?」


 エレオノーラが疑問に思っていると、グレンがポッリと言った。


「おそらく、ウロボロス海賊団に逆らった者が見せしめのために送られる星なのかもしれない」


「宇宙船に乗ってた人はどこに行ったのかしら?」


 カレンが言うとエレオノーラも疑問に思った。


「そういえば生活している様子もないし、遺体もどこにも無いですね?」


 グレンは嫌な予感がしたので、二人に向かって提案した。


「あまり離れないように、一旦脱出ポットに帰ろう」


 二人はそうね、と言ってグレンの後をついて行った。



 三人が来た道を引き返していると、カレンの目に森の中に入る人影が見えた。人影はカレンに気づくと走って森の奥に消えてしまった。


「今のみた?」


 カレンが小声でそう言うとグレンはどうした? 何も見ていない、と答えた。


 カレンは確かに人影だった、と言うと人影が消えた森の中に向かって走り出した。


 グレンは慌ててカレンに向かって叫んだ。


「おい。勝手に離れるなよーー!!」


 二人はカレンの後を追って森の中に入って行った。


「人がいた!」


 カレンは追いかけてくる二人に向かって言った。


「何? どこに?」


「この森の奥に入って行ったの」


 カレンは暫く森の中を進むと立ち止まって辺りを見回した。すると遠くの木の影にやはり人が見えた。


(やっぱり人がいる)


 カレンは二人が自分についてきていることを確かめると、人が見えた方へ走り出した。


 カレンはどんどん森の奥へ入っていった。グレンはこのままでは、三人ともバラバラになってしまうと思い、後ろから追いかけてきたエレオノーラの腕を掴むと、カレンの近くにテレポートした。グレンたちがカレンの近くにテレポートするとカレンは草むらに隠れて何かを観察していた。


 グレン達も音を立てないようにカレンが隠れている草むらに入った。グレンが何か話そうとするとカレンに口を手で押さえられた。静かにというジェスチャーをして前方に向かって指を指した。グレンが指の先を見ると人が立っていた。


「あれは? 何者だ?」


 三人の近くの木陰に立っている男性は少し前屈みになって、精気がなくボーッと立っているように見えた。エレオノーラは二人にだけ聞こえる声で言った。


「何か……気持ちが悪いですわ…」


「と……とりあえず声をかけてみるか?」


「じゃあグレンお願いね」


「え…?」


「お願い……ね?」


 カレンはウインクしながら手のひらを合わせてグレンにお願いした。グレンは仕方ないな、と言いながら草むらを出て男に声をかけた。


「あの〜。ここはどこですか?」


 男はグレンに声をかけられても反応がなかった。焦点の合わない目で前方をボーッと見ていた。グレンは再び大きな声で話しかけた。


「あの〜!! 聞こえてます?」


 男はゆっくりとグレンの方を見た。三人は男の顔を見て驚いた。男の顔には目がなかった。黒い窪んだ穴が二つ空いているだけだった。


 グレンはこれはまずい、と思い咄嗟にエレオノーラとカレンの腕を掴んでいつでもテレポートできるように意識を集中した。目玉の無い男はゆっくりと三人に近づいてきた。その時男の後ろに紐のような者が見えた。カレンはその紐のような物に気づくと二人に聞いた。


「あれは何?」


「え?」


 二人も男の背中から伸びている紐に気づいた。その紐は森の奥に続いているようだった。


『ガサガサ』三人の周りの茂みから何かが近づいているような音がした。『ガサガサ…』あっという間に三人の周りのあちこちから物音がするようになり、回りを何かに囲まれているようだった。


 次の瞬間、三人の周りから触手のような物が一斉に伸びてきた。グレンはすぐにテレポートして難を逃れた。三人がいなくなり触手は空を切った。


 三人は木の上にテレポートした。木の下を見下ろすと触手がいっぱい生えた奇妙な生物がウヨウヨいた。グレンは信じられないと言った口調で叫んだ。


「どうして? メデューサがこんなところにいるんだ?」


「何? あのクラゲの怪物みたいな生物は?」


「あれは生物兵器だ! まずいな……早くどこかに避難しなくては……」


 グレンはそう言うと再び遠くへテレポートした。立て続けにテレポートしたのでかなり体力が消耗していたが、二人を助けるために頑張った。


 三人は巨大な木の上にテレポートした。グレンの体力は殆ど残っていなかった。三人はじっと大木の上で身を潜めていたが、メデューサたちはすぐに大木の下に集まってきた。おそらく臭いか何かですぐに察知できるようなセンサーがあるようだった。瞬く間に大量のメデューサたちが大木の下に集まり、三人は囲まれてしまった。


「どうするの?」


 カレンはグレンに聞いたがグレンは苦しそうに息を切らしていて返事はなかった。


「もうどこにも逃げ場がないよ……」


 エレオノーラは今にも泣きそうな声でカレンに抱きついた。


 三人のそんな気持ちとは裏腹にメデューサたちは一斉に大木に登り始めた。


「く……くそ…もう体力の限界で…テ…テレポートできない……」


 グレンは肩で息を切らしながら二人に言った。


「お……俺はここにいるから、二人は上に……登ってくれ……」


「何を言ってるの! あなたを見捨てることはできないわ!! 一緒に上に逃げるわよ!」


 カレンとエレオノーラはグレンを持ち上げようとしたが木の上の足場は不安定でうまく持ち上げることができなかった。それでも三人は諦めずに上の枝に行こうとした時、メデューサの触手が三人のいる枝まで伸びていることに気づいた。


 あと少しでメデューサの触手が三人に触れようとした時、カレンの髪が金色に光ってのびた。エレオノーラとグレンはカレンを見て驚いた。


「どうしたの? カレン? 大丈夫?」


 エレオノーラがカレンに聞いたが、カレンにはエレオノーラの声が届いていない様子だった。


「メデューサ如きが! 私に襲いかかるとはいい度胸ね!!」


 カレンが喋っているがまるで違う声が聞こえてきた。二人はカレンではない何者かが乗り移っているように感じた。


 カレンの金色に光った髪がまるで鞭のようにしなるとメデューサ目掛けてのびていった。『スパパパパ……』リボンのような形状をした髪はまるで剃刀のようにメデューサ達を切り刻んでいった。まるで生き物のように動く髪により、瞬く間に大木の下はメデューサの屍で埋め尽くされた。メデューサ達は敵わないと思ったようですぐにいなくなってしまった。


 全てのメデューサがいなくなったところでカレンの髪は光をなくして元の髪に戻った。カレンは意識を失ったようにぐらりと揺れると木から滑り落ちてしまった。グレンはカレンを助けようと咄嗟にテレポートしたが、体力の消耗が激しくテレポートできなかった。あと少しでカレンが地面に激突すると思った時に、何者かが飛んできて落下するカレンを受け止めた。そのまま地上へ降りたそいつは足を踏ん張って地面を滑っていた。轟音とともに土煙を上げながらしっかりとカレンを受け止めた。受け止めた男はジークだった。 

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