第28話 脱出ポットの攻防

 エレオノーラとカレンは突然の出来事で焦っていた。少し前からエレオノーラとカレンが乗った脱出ポットの電源が入って、あちこちの計器類からモーター音がしていた。


 カレンは心配になり扉を開けようとしたが、外からロックがかかっているらしく開かなかった。


「あれ?……開かないわ?」


 カレンがエレオノーラを見るとエレオノーラも扉を開けようとノブを掴んで操作したが、やはり扉はビクともしなかった。やがて船内のモニターが点灯すると数桁の数値が表示されていた。カレンは数値を見てこのポットの行き先なのかもしれないと思った。


「な……何か今にも動きそうね」


「ま……まさか? 外と連絡とってみるわ」


 エレオノーラがモニター前のコンピュターを操作しようとした時、モーター音が一層大きくなり、激しい振動によりカレンとエレオノーラはバランスを崩して壁に腰を打ちつけた。


 カレンは近くの手すりを掴むとゆっくりと体をおこして近くの窓から外の景色をみた。二人の乗っている船から勢いよくエンジンが噴射していて、地上がどんどん遠ざかっているのが見えた。カレンはエレオノーラに今の状態を伝えようとした。


 次の瞬間キャー!、という悲鳴が聞こえたので、見るとエレオノーラの近くに男が立っていた。カレンは咄嗟に立ち上がり男に気が付かれずに背後に回ると、男の背中に蹴りを入れた。男は背中にいきなり蹴りを入れられた反動で壁に顔面から突っ込んだ。


 ギャー!、という悲鳴とともに顔面を抑えてうずくまった。カレンは男の前で仁王立ちになって威嚇した。男はカレンを見ると右手でぶつけた鼻を抑えて、左手でカレンを制しながら弁明した。


「ち……違う! お……俺は君たちの味方だ……」


 カレンは男にファイティングポーズをとりながら聞いた。


「あなた何者? どこから入ったの?」


 カレンが男の目の前でシャドーボクシングをすると男はヒィー、と言って身構えた。よほどカレンの不意打ちが効いたのだろう。男が何か喋り始める前に口を開いたのはエレオノーラだった。


「う……嘘…あなた、ウロボロス海賊団の一員だった人ですよね」


「何!!」


 カレンは咄嗟にエレオノーラの手を取ると自分の後ろに匿った。カレンが男の顔面に蹴りを入れようと構えたところで男は土下座をして、ご…誤解だよ……頼むから話を聞いてくれ、と懇願した。


 カレンは攻撃体制をとったまま、男の話を聞いてみることにした。


「わ……私の名前はグレンと言います。私はスペースプラネットというTV局のクルーで、今ウロボロス海賊団に極秘で潜入取材しています。あ…あなたを拉致したのは事実ですがすぐに仲間が解放する手筈になっていたんです、信じてください」


 グレンはそういうと身分証のようなものを提示してきた。カレンには何が書いてあるのか分からないためエレオノーラに見てもらった。エレオノーラはその身分証らしきものを見ると本物みたいね、と言った。


 カレンはグレンを睨みつけて本当でしょうね!、と念を押した。


 男は本当です信じてください、と言って頭を床につけた。


「なんでここにいるの?」


 エレオノーラはグレンが可哀想になり話しかけた。グレンはホッとした顔になり二人に話はじめた。


「この宇宙船が動き出したので、咄嗟にここにテレポートしたのです」


「テレポート?」


「はい。この様に」


 グレンはそう言うとカレンの目の前から消えてみせた。カレンがどこに行ったのかキョロキョロしていると後ろから声がした。カレンが振り返るとグレンが立っていた。


「へえー、便利な能力ね」


 カレンは感心したように言った。グレンも褒められて嬉しそうにありがとうございます、とお礼を言った。


「この船はどこに向かっているの?」


「わかりません。コックピットに行けば何かわかるかもしれません」


 グレンはコックピットに行くと何やら操作をして行き先を確認し始めた。


「PKM○=05××という星に向かっています?……こ…これは……」


「どうしたのそこに何があるの?」


 カレンがグレンに問いただした。グレンは手帳を取り出して確認するとやっぱり、と言った。


「ウロボロス海賊団がエレオノーラさんを拉致して、そこに送る予定だった星です」


「何? なんでそんなところが入力されているの?」


 カレンが聞くとグレンは首を左右に振って分からないという仕草をした。


「海賊が行き先を入力したの?」


 カレンがそう言うとエレオノーラは信じれらないと言った口調で話した。


「この脱出ポットのセキュリティーレベルは宇宙最高の最新技術で作られています。インバルト星の王族以外で行き先を入力できるものはいません」


 エレオノーラはそこまで言うと落胆した様に肩を落とした。グレンはカレンに向かって聞いてきた。


「貴方たち二人を脱出ポットに誘導した人物がいましたが、あの方はグランヴィル氏で間違いないですよね」


「グランヴィルおじ様……」


 エレオノーラは掠れた声でそう言うとショックだったようでそれ以来、口を閉じた。


 グレンはやっぱり、と言うと端末を取り出して入力した。カレンは何が起こったのか分からずグレンに聞いた。


「何? どう言うこと?」


 グレンはカレンに聞かれはっきりとした口調で話した。


「グランヴィルという人物が、海賊と裏で手を組んでいるかもしれない。インバルト星のセキュリティーが作動しなかったのもそいつがシステムを切断していたからだったと推測できる」


「まさか?」


 カレンは肩を落として元気のないエレオノーラになんと声をかけていいか分からなかった。暫くの間沈黙が続いた後に船内にアラームが鳴り出した。


「何? どうしたの?」


 カレンが不安になりグレンに聞いた。グレンはモニターを確認すると静かな口調で二人に言った。


「二人とも席に付いて、惑星に到着したようだ!」 

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