第27話 インバルト星襲撃②

 海賊達は色めき立っていた。インバルト星ほどの高度な技術力を有した星にこんなに簡単に侵入して金品を強奪することができることに快感を覚えていた。


「本当に内通者さま様だな!!」


 インバルト星のセキュリティガードはいきなりの海賊の襲撃により、なすすべなく倒れていった。インバルト星のセキュリティガード達は防犯装置が十分なインバルト星では敵を捕捉出来ない戦いに慣れていないため、咄嗟の敵の出現に対応出来ていなかった。


「どう言うことだ!! なぜ、侵入を許した?」


「わかりません!! うあーーーーーー!!」


 セキュリティガード達は銃で応戦していたが海賊達のレーザー銃の閃光が雨のように降り注いでいたため物陰に隠れて反撃もできないようだった。


「どういう状況?」


 セキュリティガード達は急に後ろから声をかけられたのでビックリして振り返るとルーシーとガスパールが立っていた。ルーシーとガスパールはエレオノーラ姫を助けた恩人として国民全体に顔が知れ渡っていた。セキュリティガードは二人を見て驚いたように言った。


「お二人とも危ないので下がってください!!」


 ルーシーとガスパールは大丈夫、と一言だけ言うと、セキュリティガードの静止を聞かずそのまま海賊に向かって歩いていった。


 海賊たちは二人の少女がこちらに向かって歩いて来るのを見た。


「なんだ? あいつらは?」


「バカなのか? 構うな! やれ!!」


 海賊たちは照準を二人に合わせて一斉に引き金を引いた。光線が二人に降り注いだが、二人に当たる直前にバリアにより跳ね返された。


「だめだ。強力なバリアで跳ね返されてしまう」


 海賊の部下が言うと、海賊の指揮官らしき人物が部下に怒鳴りつけた。


「レーザー光線だけに有効なバリアみたいだな。物理攻撃は跳ね返せないだろう。こうなったら素手で攻撃してお嬢さん二人に海賊の怖さを思い知らしてやれ!!」


 ルーシーとガスパールの前に屈強な男が二人立ちはだかった。屈強な男の一人がルーシーに向けて攻撃を仕掛けた。ルーシーは男の拳を片手で受け止めた。


「何してる? 遊んでいるのか?」


 もう一人の男がイライラしながらルーシーの顔面に向けて攻撃を仕掛けたが、ルーシーはその男の拳も軽々と受け止めた。


「な……なんだこいつ? う……腕がびくともしねえ」


 ルーシーは男たちの拳を持ったまま、勢いよく左右に引っ張った。男たちの腕がクロスしてルーシーの前でお互いの顔面を思いっきりぶつけて二人の男は意識を失った。


 ルーシーはそのまま倒れた男たちを踏みつけて前進した。その姿を見て海賊たちは動揺した。屈強な二人の男は海賊団の中でも力じまんの兄弟だったからである。それがの少女の格好をした者に一瞬で片付けられた。


 海賊の指揮官の男は地球で出会った少年のことを思い出した。指揮官の男は地球を調査している時に、ジークに返り討ちにあった海賊の一人だった。アイツもあの少女と同じ年齢くらいだろうか? レーザー光線をバリアで防いでいたし、力は化け物のようだったことを思い出していた。


「怯むな!! 全員で取り囲んで集中砲火を浴びせてやれ!」


 海賊たちはルーシーを取り囲めるように周りに散らばった。海賊たちが戦闘準備をしていると一人の仲間が指揮官に訴えた。


「あれはだめだ。俺はアイツを知っている」


「何? 何者だアイツは?」


「エイシェントと言ってこの宇宙であれに勝てる者はいない」


「エイシェント? なんだそれは?」


「いいから早く……俺は逃げるぞ…」


「おい待て! 仲間を置いて逃げるな!」


 そう言うと男はそそくさと逃げ出した。男は必死で乗ってきた海賊船まで走った。あと少しで海賊船に到着する寸前で前方に何かが飛んできた。男はびっくりして飛んできた何かに近づくと二人の少女がいた。ルーシーとガスパールだった。


「久しぶりね。ショウ」


 ショウと呼ばれた男はビクリとした。ルーシーはゆっくりとショウに近づきながら話し始めた。


「あなたが兄さんに何をしたか知っているわ」


「あ……あれは命令されて……し…仕方なかったんだ!! お…俺は悪くないんだ。信じてくれ!」


 昔、兄のジークとショウは仲間だったが、ショウの裏切りにより兄のジークは瀕死の重傷を負ってしまった。ルーシはそのことをパルタから聞いた時、腹の底から怒りが込み上げて来るのを感じた。


「わ……悪かった。ゆ……許してくれ……」


 ショウは今にも泣き出しそうな顔でルーシーに跪いていた。


「あなたは兄さんを裏切って私の……最愛の人を殺そうとした。もう五年前からあなたの罰は考えてあるの」


「な……何をするんだ? や……やめろー!! うあーーーーーーーーーーーー!!!!」


 インバルト星の暗闇の中でショウの叫び声が虚しく響き渡った。




 グレンは物陰に隠れながらどうしようか迷っていた。先ほどからエレオノーラとカレンの入った脱出ポットの電源が入っているのである。グレンは周りに人がいない事を確認すると脱出ポットに近寄っていった。メータの針が激しく動いて燃料を充填しているように見える。グレンが不思議に思っていると大きな音がして突然天井が大きく左右に動き出した。


 すっかり部屋の天井が無くなり何時でも発射する状態になってしまった。グレンはどうするべきか考えていたが意を決して脱出ポットの中にテレポートした。グレンがテレポートした瞬間、脱出ポットのジェットエンジンが始動して噴射口から爆音とともに激しい煙を噴き出しながらエレオノーラとカレンとグレンの三人を乗せた脱出ポットはインバルト星から飛び立った。


 ルーシーは天空宮から発射されたロケットを見ながら、隣のガスパールに聞いた。


「何あれ?」


「脱出ポットがどこかに飛んで行ったみたいね?」


「誰が乗っているの?」


「分からないわ? ここのAIの那由多なゆたに聞いてくるわ」


 そう言うとガスパールは那由多の世界に行った。


 ガスパールは那由多の世界に行くと例の四畳半の部屋に行った。案の定、那由多がガーガーといびきをかきながら腹を出して眠っていた。ガスパールは呑気に寝ている那由多の顔面を足で踏みつけて起きろ!、と大声で起こした。


 那由多はギャー!、と言って飛び起きた。踏みつけられた顔面を痛そうにさすりながら何事かガスパールに聞いた。


「な……なんですか? なんでここに居るですか?」


「何してるのよ! この星に海賊が侵入してきてるのに、なんで眠っているのよ!!」


「え?……何を言っているですか?」


 那由多はコンピューターを操作して現在の状況を確認した。


「嘘? な……なんでこんなこと……」


 那由多は泣きそうな顔になっていた。ガスパールは那由多に聞いた。


「何者かに眠ったままにされてたの?」


「そうみたいです。でも、まさか? そんなことはないのです」


「どうして?」


「私をシャットダウンできるのは王族以外いないのです」


「それじゃ王族の誰かがやったのね」


「まさか? そんなはずないです」


「どうしてそう言い切れるの!」


「……分からないです」


 那由多は沈んだ顔でガスパールを見た。ガスパールは那由多が少しかわいそうに思ったので、話題を変えた。


「もういいわ。 それより少し前に飛び立った宇宙船は誰が乗っていたかわかる?」


「え…と……はい。エレオノーラ様とカレン様と……あと一人男の人が乗っています」


「何?  エレオノーラとカレン? もう一人の男は誰?」


「わかりません。インバルト星の住人ではないようです」


「インバルト星の人ではない…? それで三人の行き先はどこ?」


「え…と…わかりません」


「何? 分からないの? それでもあなたAIなの!!」


 ガスパールの剣幕に那由多はますます元気をなくしたようだった。那由多は消え入りそうな声でガスパールに言い訳をした。


「脱出ポットに直接入力したようです。王族の使う脱出ポットなので行き先は極秘扱いになるので、私(AI)にも把握できないようにできているです………」


「じゃ直接追いつくしかないのね」


「それも無理なのです」


 ガスパールは那由多に反論されて睨みつけた。那由多はヒイ!と声を出して震えながら答えた。


「あ……あの船は王族使用に開発された船で光の数倍の速さの推進ジェットを装備しているのです。全宇宙の中で最高水準の技術で開発された代物ですので追いつくのは不可能なのです」


「追いつくのは難しくてもついてはいけそうね。わかったすぐ行くわ」


 ガスパールが行こうとした時、那由多が待って、と呼び止めた。


「起こしてくれてありがとうです」


「すぐにセキュリティーを立ち上げなさい。海賊如きに簡単に侵入されるなんて恥ずかしいわよ」


「面目ないです」




 ガスパールは那由多の世界から出るとすぐにパルタに状況を通信して教えた。

 

 ルーシーとガスパールの二人はエレオノーラたちの乗った船を追いかけるためインバルト星を後にした。

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