第26話 インバルト星襲撃①
ルーシーは草原の中で寝ていた。どこまでも果てしなく続く草原の中で寝るのは気持ちが良かった。時折吹く風と虫の音色が心地よかった。ルーシーがリラックスして寝ていると何者かに起こされた。ルーシーは声のする方を見ると声の主はガスパールだった。ガスパールは黒髪を風に
「どうしたの?」
ルーシーはそう言うと起き上がった。ルーシーが起き上がると草原だった風景が消えて部屋の壁が現れた。広大な草原だと思われた場所はインバルト星の天空宮の部屋の一室だった。部屋の壁全てがプロジェクターになっており、心地よい風も虫の音色もコンピュータ制御されていた。ルーシは最近草原の風景が気に入っていた。
ルーシは現実に戻されて虚な目で黒髪の美少女を見た。
「未確認の宇宙船がこちらに向かって来てるわ」
「何? どこの船籍?」
「わからない。でも宇宙船は完全武装されているわ」
「まさか? 防衛装置は作動していないの?」
「先ほどからAIの
ルーシーは那由多のことが気になったが、とりあえず何があっても対処できるようにガスパールに言った。
「私とガスパールは天空宮から出て下に降りましょう」
「エレオノーラとカレンはどうする?」
「二人はここに残るように伝えてちょうだい」
ガスパールはわかったわ、と言うとルーシーの言うとおりに行動した。
ルーシーとガスパールは軌道エレベーターに乗り込むと地上を目指すべく下に降りていった。深夜ということもあり真っ暗な中、軌道エレベーターのケーブルだけが光って地上に一本の線が伸びていて綺麗だった。地上に近くなるにつれ灯りが所々にあり、まるで宝石のようだとルーシーは思った。あと少しで地上に到着する寸前でエレベーターが止まってしまった。
「どうしたの? 動かなくなったわ」
ルーシーは不安になりガスパールに聞いた。ガスパールもなぜエレベーターの動力が切れたのかわからないといった表情をした。ルーシーがエレベーターのガラス越しに地上を見ると宇宙船が見えた。真っ暗な中、次々と宇宙船が地上に降りていくのが見えた。
「なんで? 警報装置が作動しないの?」
ルーシーが何かおかしいと不安に思っているとガスパールが前方を指差した。
「一隻がこちらに近づいて来るわ。どうやら海賊船みたいね」
ルーシーは前方を目を凝らしてみると確かに一隻がこちらに向かっているように見えた。次の瞬間海賊船が光った。
「危ない!!」
ガスパールが叫んだ瞬間、海賊船の攻撃により軌道エレベーターは破壊された。カーボンナノチューブ製のケーブルがトグロを巻いて地上に落ちていった。
軌道エレベーターを破壊した海賊船は高度を下げルーシーとガスパールの生存を確認していた。
「どこに行った? 死体はあるか?」
海賊船の指揮官の男は操縦席の男に聞いた。
「レーダーにそれらしき反応はありません」
「四肢もろとも粉々に吹き飛んだのかもしれんな」
指揮官の男は投げやりに言った。操縦席の男は困ったように指揮官の男に言った。
「それは…まずいですね。できれば生きたまま連れて来るように言われたのに……」
何がまずいの? 指揮官の男はいきなり後ろから声がしたので振り返った。次の瞬間ルーシーの強烈な一撃により指揮官の男は吹っ飛ばされて海賊船のディスプレイに頭から突っ込んで動かなくなった。
「ヒ……ヒィ……た…助けてくれ」
操縦席の男はルーシーに助けを懇願した。
「あなた達の目的は何?」
「わ……わからない…と……とにかく襲撃しろと命令されたんだ……」
「襲撃が目的? 何それ。本当なの?」
ルーシーが凄むと男はヒィ!、と叫んで本当だ信じてくれ、と言った。
「海賊の言うことなんか信用できるわけないでしょ!」
ルーシーがそう言うとまた男はヒィ!、と言って怖がった。ルーシーはガスパールに聞いた。
「どう? ガスパール信用できそう?」
「瞳孔も心拍も問題ない。本当みたいね」
ガスパールがそう言った途端、男は本当だから助けてくれと言ってきた。ルーシーはガスパールの意見を聞きたくて視線を逸らした瞬間、男が操縦桿を傾けた。海賊船が大きく前方に傾いてルーシーの体が前のめりになった。男は腰にあったレーザー銃を引き抜くとルーシーの頭めがけて発射したが、ルーシーの頭は光線の先になかった。光線は海賊船の壁に当たって閃光が走った。
男が覚えているのはここまでである。なぜならルーシーによって投げ飛ばされ気を失ってしまったからである。
「ガスパール、他の海賊達も倒しましょう」
「そうね、急ぎましょう」
ルーシーの乗った海賊船の下をこそこそ隠れながら進む一人の男がいた。グレンである。グレンはウロボロス海賊団と共にインバルト星の襲撃に参加していた。グレンにはテレポーテーションという特殊能力があった。そのため非力な自分でも使ってくれる組織はいっぱいあった。ウロボロス海賊団もグレンの特殊能力を見込んで人質誘拐に使用してくれた。しかしながら襲撃に関しては専門外である。適当に攻撃しつつテレポートで敵と味方に見つからないように逃げてきた。
グレンがこの襲撃に参加したのは別の目的があった。その目的のためには天空宮にいく必要があった。
グレンは軌道エレベーターのある場所に着いて驚いた。軌道エレベーターが破壊されていた。天空宮まではグレンでもテレポートできなかった。遠すぎたのである。グレンのテレポートできる距離はせいぜい数十メートル程度で、地上から数十キロもある天空宮にはとてもテレポートできなかった。
グレンが軌道エレベーターを見上げるとエレベーターが上空に浮いているのが見えた。下のケーブルは無造作に近くに落ちていたが、軌道エレベーターと天空宮を繋ぐ上の部分はまだ繋がったままになっているのが見えた。
(あそこまでテレポートできれば軌道エレベーターで天空宮に行けるかもしれない?)
グレンは思いきってぶら下がってたままになっているエレベーターまでテレポートした。エレベーターはガラスの側面の大部分が無くなっていて、風が吹くと大きく揺れた。グレンは振り落とされないように両手で必死にエレベーターを掴むと上へ行くボタンを押した。軌道エレベーターはゆっくりと上に上がって行った。グレンは心底ホッとした。
グレンは天空宮に着いた。天空宮は夜の闇の中ひっそりと静まりかえっていた。見張りの者はいなかったが、グレンは誰にも見つからないようにテレポートをしながら部屋に侵入した。大きな応接間のような部屋に入った時、誰かの歩く足音が聞こえたのでグレンは咄嗟に近くのソファーの裏に隠れた。男は無線機のようなもので誰かと話しているようだった。
「ああ、もういいだろう。鳴らせ。ああ…もう問題ない」
男がそう言った途端、緊急を告げるアラームが天空宮全体に鳴り響いた。男はアラームが鳴ると慌てた様子で歩いて行った。グレンはゆっくりと男の後をつけた。
男は重厚な造りの扉の前まで来るとノックをして部屋に入っていった。
「エレオノーラ! 大変だ! 地上が海賊に襲撃されているみたいだ。おお! カレン殿もいたのか」
男はそう言って部屋に入って行った。グレンは部屋の近くの角に隠れて聞き耳を立てていた。
「エレオノーラここに居ては危険だ。万が一の時に対処できるように二人で脱出ポットに避難していてくれ」
「大丈夫よ。ルーシーとガスパールが守ってくれるわ」
「ああ。もちろん信じているよ。だが先程入った情報だと、海賊の攻撃で天空宮と地上を繋いでいる軌道エレベーターが攻撃されてカーボンナノチューブが破損した恐れがあるんだよ。このままだと最悪の場合切れてしまうかもしれない」
「切れたらどうなるの?」
カレンが男に聞いた。
「この天空宮が宇宙空間にとばされてしまう。そのためにも脱出ポットに避難していれば助かることができるんだよ」
カレンはでも…、と言っていたが、エレオノーラはわかりました。おじさまが心配してくれているので、言うとおりにしましょう、と言った。
「いい子だエレオノーラ。ささ、二人ともこっちに来なさい」
二人はグランヴィルについて行った。グレンもすぐ後を見つからないようについて行った。
二人は小さな部屋に入った。その部屋の中に脱出ポットがあり二人はその中に入った。
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