第15話 ボーン牢獄
俺たちは丘の上にいた。
丘の上は開けていてボーン牢獄がよく見えた。ボーン牢獄は崖の上に立っており、崖の下には川が流れている。
たくさんの人間を含めた種族が鎖に繋がれてボーン牢獄の中に連れて行かれているのが見えた。
「どうやって侵入する?」
俺はパルタに侵入経路を尋ねた。
「そうね。この森を抜けて様子を見ながら近くまでいきましょう」
「分かった。すぐに行こう!」
俺がそう言って、行こうとしたら急に待って、とパルタに止められた。
「超音波センサーとレーザーが至る所に仕掛けられているわ」
「何? 超音波センサー? そんなものがこの星にあるのか?」
俺がロマネスに聞くとロマネスは呆然とした顔で首を横に振った。
「あきらかにこの星の技術力を上回っているわ」
「そんなものがなぜここにあるんだ?」
「他の星から持ち込まれたと考えるのが自然でしょうね」
「他の星から? 何者かがグルタニアに協力しているのか?」
ええそうね、とパルタが答えた。俺はなぜそんなことをするのか分からなかった。
「未開拓惑星の住人に加担してなんの徳があるんだ?」
「色々あるわ。加担した国がこの地を収めた場合、資源を優先的に採取できるし、人種を人身売買もできるわ。メリットだらけよ」
「そんなこと……絶対に許さない」
「そうね。絶対に許してはいけないわ」
パルタは暫く考えて侵入方法を変えた。
「川にそって牢獄に近づきましょう」
「センサーはどうする?」
「大丈夫、私の力で無力化できるわ」
「分かった。行くぞ!!」
俺たちは川に沿ってボーン牢獄に近づいた。
川の下から崖上のボーン牢獄を見上げると窓がありそこに行くには百メートルほど崖を登る必要があった。
「あそこの窓から侵入しよう」
俺が言うとロマネスは先に崖に登り出した。俺はロマネスの後を登った。
およそ十メートルほど登った時に俺が上を見るとロマネスのパンツが丸見えになっていることに気がついた。
俺がやばいと思って視線を逸らしていると、そのことにロマネスが気づいたようだった。
「こ……こら! 上を見るんじゃない!」
「ち………違う見てないよ」
ロマネスは俺を暫く睨んだ後に、また崖を登り出した。
あと少しで半分まで到達すると思った時に、キャー!、という悲鳴と共にロマネスが上から落ちてきた。俺は顔面でロマネスを受け止めた。ロマネスのお尻が俺の顔面に食い込んだ。
「う……なんだ? どうした?」
「キャ! しゃ……しゃべるな。馬鹿」
ロマネスはそう言うと辺りを見回してまた来る!、と言って俺の腕の間に身を隠そうと俺の胸にしがみついた。
俺は何が起きたのか分からずロマネスを見ると怖がっているように見えた。「ギャー!!」とけたたましい音とともに俺の背中に激痛が走った。
俺が声のする方を見ると大きな鳥のような姿をした怪鳥が飛んでいた。怪鳥は旋回するとまた俺を襲うように突っ込んできた。
俺はロマネスとパルタを抱えて怪鳥の攻撃を避けた。怪鳥は再び攻撃をしようと旋回していた。
俺は崖から大きめの石を引き剥がすと怪鳥に投げつけた。石は怪鳥の顔面に当たりグエー!、と鳴いて崖下に落下していった。
俺は二人に抱きつかれたまま崖を登りそのまま中腹の窓から牢獄に侵入した。
牢獄の中に入ると廊下になっていて両端に檻があった。そのまま進んで廊下の角から向こう側を見ると衛兵が一人立っていた。
俺は衛兵に気づかれないように辺りを見廻すと近くにあった石を拾って衛兵の近くに投げた。俺が投げた石が床に当たって大きな音が鳴った。
「ん?……」
衛兵は不思議に思い音が鳴った方に視線を動かした。俺はその隙に衛兵の背後に回って手刀を衛兵の首に当て気絶させた。
パルタがセンサーで調べたところ地下に少女の反応があるようなので、俺たちは地下に行くことにした。
途中で何人かの衛兵がいたがなんとか倒すことに成功した。俺たちはそのまま地下に降りて鉄の扉の前に来た。
「ここよ。この扉の中にいるわ」
俺は鉄の扉を破壊すると部屋の中に入った。幼い少女が二人とも鎖に繋がれていた。
「クリル様!」
ロマネスはそう言うと一人の方に駆け寄った。
「ロマネス!助けにきてくれたのね」
ロマネスがクリル姫の鎖を外そうとしているがびくともしなかった。俺は二人の少女の鎖を解いた。
「助けに来てくれてありがとうございます」
クリル姫とミリア姫は繋がれていた手首を撫でながら俺たちに感謝した。
「他にソフィーらしい人は捉えられていないかな?」
俺がパルタに聞くとパルタはいないわと答えた。
「とりあえずここを脱出しましょう」
パルタが言ったが、俺は反論した。
「多くの人が捕まっているのに? ここにいる敵を全員倒して捕まっている人たちを助けよう!」
俺がそう言うとそれはできないわ、とパルタが言った。
「グルタニアに協力している者が何者かわかるまでは下手な行動はするべきではないわ。今は敵も自分達と同じ科学技術を持った者がこの星にきていることは知らないはず。これはこちらにとって大きなアドバンテージになるわ」
俺がまだ反論しようとするとパルタは俺の口を押さえて協力者が何者かわかったら必ず全員助け出すわ、と言った。
俺はパルタの言う事を信じて牢獄を脱出することにした。
俺たちが部屋を出て侵入してきた窓に戻ろうと廊下を出たときにおーい!!、と声をかけられた。
みると檻の中から一人の男が俺たちに助けを求めているようだった。男には鎖が何十にも巻かれていた。
「おい!! た……頼むよ!助けてくれよ!!」
俺たちはこれ以上目立つことはしたく無かったので、無視して行こうと思ったが、ミリア姫が男の顔を見てウォルト、と言った。
男はミリア様よくぞご無事で、と言って泣いていた。
「この男と知り合いか?」
俺がミリア姫に聞いた。
「はい。我がスレイア大国の将軍のウォルトと言います」
どうする? 俺はパルタに聞いた。
「知り合いだったら助けるしかないわね。後で拷問されて私たちの情報を敵に知られるのはまずいわ」
俺は檻の鉄格子に手をかけて曲げようとしたが途中でパルタに止められた。敵に力が強いということを知られたくないため、鍵を使って檻を開けようということだった。
俺は来る途中に倒した衛兵が鍵をもっていないか体を探ったところ鍵のような物が出てきた。俺は鍵の蓋を開けてウォルトの檻に行こうとしたが、ロマネスが俺の方を指さして驚いた顔をしていた。
俺がどうした?、と尋ねるとロマネスは俺から離れながら叫んだ。
「それは鍵じゃなくて爆弾だ!! 早くどこかに投げろ!!」
俺は驚いてその爆弾をウォルトの隣の誰もいない檻の中に投げ入れた。同時に爆弾が爆発した。激しい爆風とともに轟音が牢獄中に響いた。
「まずい! 逃げよう!!」
そう言うと俺たちはその場を離れた。俺はウォルトが心配になり後ろを振り返った。
俺たちのすぐ背後をウォルトが追いかけていた。おそらく先ほどの爆発でウォルトの檻の扉も破壊されたのだろう。俺たちは六人で逃げた。
俺たちはパルタの案内でひたすら衛兵から見つからないように逃げ続けた。気がつくと牢獄の最上階についていた。
衛兵が二人いて俺たちを見つけるなり襲いかかってきた。俺が攻撃をする前にロマネスとウォルトが衛兵二人を倒していた。
俺たちはボーン牢獄の最上階の端に立っていた。下は目の眩みそうな崖で川が流れているのが薄ら見えた。振り返ると大勢の衛兵が下から押し寄せてくるのが見えた。
「パルタ。ストレイシープに乗って早く逃げよう」
俺がパルタに言うとまさかの返答が返ってきた。
「だめよ。この星の住人は電波障害を起こしてしまうからロマネスとウォルトとお姫様二人は乗せられないわ」
「何? 四人を置いていくのか?」
俺がパルタを問い詰めるとそんなことするはずないでしょ、と言った。
「そこの気絶してる衛兵が持ってる爆弾を持ってきて」
俺は先ほど誤爆させてしまった爆弾を衛兵から取るとパルタに近づいた。
「その爆弾の蓋を外してあそこの崖に向かって投げなさい」
パルタは遠くの崖を指さしていた。崖をみると無数の穴が空いているのが見えた。俺はなぜそんなことをするのか判らないが、パルタの指示に従い爆弾を崖に向かって投げた。
俺が投げた爆弾が崖の壁に当たると同時に爆発した。
轟音と共に土煙が上がったかと思うと、大きな影が土煙から無数に出てきた。出てきた影を凝視すると崖を登るときに襲ってきた怪鳥だった。
おそらく壁に開いていた穴は怪鳥の巣穴のようだ。俺たちの眼下はあっという間に怪鳥の群れ一色になった。その群を指さしてパルタはあの上に乗るわよ、と言った。
「さあ早く! 飛び降りて!」
「え? 嘘でしょ?」
ロマネスは信じられないという表情でパルタを見ていた。お姫様二人も信じられないと言う表情で固まっていた。
俺はいくぞ!、と言うと二人の姫を両腕につかんで運を天に任せて飛び降りた。
「こうなったらやるしかない!」
ウォルトもそう言って俺に続いた。それを見ていたロマネスも観念したように飛び降りた。
俺達は落下している途中に何匹かの怪鳥にぶつかった。
ぶつかられた怪鳥は何事もなく飛び続けているものもいればそのまま意識を失って落下していくものもあった。
何匹か当たって落下速度が下がっていき俺達はかなりでかい個体の背中に着地することができた。
両腕に抱えた二人の姫も無事だった。あたりを見回すと他の二人もなんとか着地に成功しているようだった。
パルタは実体がないので、俺が乗っている怪鳥の頭の上で片足立ちをしていた。二人の姫はパルタを見て驚いたように言った。
「すごい! あの人は何者なんですか?」
「あいつは気にするな。少し頭がおかしいんだ」
二人の姫はクスッと笑った。
なんとかみんな無事に脱出できたと俺がホッとしているとキャー!、と悲鳴と共にロマネスが川に落ちていくのが見えた。
おそらく怪鳥に振り落とされたのだろう。俺は再び二人の姫を両脇に抱えると怪鳥から飛び降りて川に飛び込んだ。
グルタニアの魔王ゾルゲルは機嫌が悪かった。
グロリアという女がアークガルド帝国を征服するために色々と策を練っていたが、ここにきて綻び始めた為である。
「どういうことだ! グロリア! クリル姫とミリア姫がボーン牢獄から逃げたそうだぞ!」
「まさか? 我々の最新鋭の探索装置に引っかからないで牢獄から逃げたというのか?」
「その逃げた人物の一人に薔薇十字団の鎧を纏った女がいたそうじゃないか!」
「薔薇十字団の女?」
グロリアはクリル姫とミリア姫を拉致したときに馬車で逃げ出す女がその鎧をきていたことを思い出した。まさか? 確かその女戦士は魔物に追いかけられて崖に落ちて死んだはず。
「生きていたのか? あの崖から落ちて?」
「どうするんだ!! 二国の姫を攫ったのがグルタニアだと分かったら二国がここに攻めてくるぞ! そうなったらグルタニアは滅びるぞ!」
ゾルゲルは声を荒げてグロリアに詰め寄った。
「それでその逃げた女戦士はどこに行った?」
「ボーン牢獄にいた兵士の話だと川に流されてカリミヤ森林に行ったみたいだな」
「カリミヤ森林? あの強人族とやらがいる土地か?」
ゾルゲルがそうだと答えるとグロリアは安心したように笑った。ゾルゲルが何か策でもあるのかとグロリアに問いただした。
グロリアは大笑いしながらゾルゲルに言った。
「カリミヤ森林に行ったのなら安心しろ。そいつらは確実に死ぬ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます