第14話 異世界惑星

「そろそろ着く頃ね」


 パルタの言葉に俺はストレイシープの窓の外を見た。そこには綺麗な地球に似た惑星が映っていた。


「ここがソフィーが失踪した惑星?」


 俺はポツリと言った。


 先ほどまで惑星全体が見渡せていたが、徐々に惑星に近づいたのだろう窓の外は青い惑星一色になってしまった。


「惑星の大気圏に突入するわ」


 パルタはそう言ってストレイシープを大気圏に突入させた。窓の外は赤い光を放っていたが、暫くすると収まって真っ白になった。おそらく雲の中に入ったのだろう。


 窓の外の景色は暗かった。外は夜のようだった。


「ん?––––何かいるわね……あれは?」


 パルタはそう言うと何かを調べているようだった。俺がどうかしたのか?、と聞くと暫くして、これを見てと言って船内のディスプレイに何かを表示させた。


 そこには猛スピードで走る馬車とそれを追いかける狼のようなモンスターが映っていた。


「追いかけられているのか?」


 俺がパルタに聞くとそう見たいね、と言った。俺はとりあえず助けるかとパルタに言った。


「無傷で助けるのは無理そうね」


 パルタはそう言うと馬車の前方の道路を示して、このスピードではここのカーブは曲がりきれないわ、と言った。


 見ると馬車の前方の道がカーブしており曲がった先は崖になっていた。


「どうする? どうやって助ける?」


「崖の下で落ちてくるのを受け止めるしかなさそうね」




 俺たちはストレイシープから降りて崖下にいた。


「どうやって助ける? 俺はどうすればいい?」


 パルタは暫く崖を眺めて何か計算しているようだったがすぐに俺に指示をした。


「幸い馬車の中には一人だけしか乗ってないようなので、曲がりきれなくなった馬車はそこから崖に落ちて、あの岩に当たって馬車は粉々に粉砕されて中の人はあそこまで飛ばされるから、そこにいて落ちてくる人を受け止めなさい」


 俺がパルタに言われるまま指定された場所に着くなり、馬車が崖から落ちてきた。パルタの言った通り中の人物は俺のいるところに落ちてきた。


 落ちてきた人は甲冑を着た若い女の戦士だった。岩にぶつかった衝撃で頭を打ったのだろうか、頭から血が出て意識を失っていた。


「狼はどこに行った?」


「分からない? 崖に落ちたのを確認すると、どこかに行ったみたい」


「そうか。とりあえずこの人をストレイシープに連れて行こう」


「意識を失っている間だけよ。私たちが宇宙人と気づかれたら厄介だからね」


 俺はパルタに念を押された。




 俺たちは意識を失っている女戦士を連れてストレイシープに戻った。ストレイシープに着くなり女戦士の容体が悪化した。


 パルタが言うには未開拓惑星の住人は電磁波に慣れてないため、ストレイシープのようなさまざまな電磁波を発している宇宙船の中に入ると電波酔いを起こしてしまうらしく、場合によっては死んでしまう恐れもあるそうだ。


 仕方なく今はカプセルの中で治療を行なっている。


「どれぐらいで治る?」


「朝までには完治するはずよ」




 朝になり俺たちは崖の下にいた。


 ストレイシープの存在を気づかれてはいけないので崖下の大きな岩の上に女戦士を寝かせて暫く様子を見ていた。


 傷は完全に治っていたので暫くすると目を覚ますだろう、とパルタが言った。案の定暫くして女戦士は起きた。


 女戦士はゆっくりと目を開けると俺たちを見てびっくりしたように飛び起きた。


「こ……ここはどこ!! あ……貴方達は誰?!!」


 パルタが自己紹介と俺たちの素性を女戦士に話した。もちろん素性は嘘である。介抱したことを伝えると女戦士は敵でないことを分かってくれたようである。


「次は貴方のことが知りたいわ」


 パルタが女戦士に言った。女戦士は了承して話し始めた。


「私はアークガルドのロマネスと言います。これでも薔薇十字騎士団の団長を務めているので聞いたことがあれば光栄に思うが……」


「あ……ああ…どこかで聞いたことがあるような……」


 俺が話を合わせるとロマネスは満足したように笑った。


「なぜ。モンスターに襲われていたの?」


「そ…そうだ!! 魔物はどこに? 姫様は?」


「魔物は貴方を殺したと思ったみたいで森に帰って行ったわ。姫様は馬車にはいなかったわ」


「ひ……姫様は………クリル姫様は、グルタニアの魔族に連れて行かれたんだ!!」


 ロマネスが言うには、長年ライバル同士だったアークガルド帝国とスレイア大国の友好を築くために、アークガルド帝国のクリル姫がお互いの領地の国境付近でお茶会を開催した。


 そこにスレイア大国のミリア姫が出席している時に、グルタニアという魔族の国が襲撃してきて、アークガルド帝国のクリル姫とスレイア大国のミリア姫を誘拐していった。


 ロマネスは姫が攫われたことをアークガルド帝国に知らせるために馬車で魔物から逃げているところを俺たちに助けられたということだった。


「とりあえずここにいても仕方ないから近くの町か村にでも行きましょう」


 パルタが提案するとロマネスは心当たりがある、と言って俺たちはロマネスの案内のもと近くの村に行くことにした。




 俺たちは近くの村に着いた。


 村長のような人物が出てきたが、ロマネスが何か言うと深々と頭を下げて俺たちは村人に歓迎された。ロマネスはそこそこ有名人なのだろうと俺は思った。


 村の規模は百人前後だろうか、中規模程度の村と感じた。村の外観やロマネスの甲冑を見る限りこの惑星は中世のヨーロッパと同じ科学水準であることがわかった。


 俺たちは村を探索しながらソフィーの情報がないか尋ねて回った。


「ん–––、それとなくソフィーのことを村の人に聞いて回ったけど、それらしい情報はなかったわね」


「そうだな–––、あ……あそこは? 子供がたくさんいるぞ」


 俺たちは村の一角にあった大きな家に着いた。近くの人に聞いたところ孤児院ということだった。


 俺はもしかするとソフィーがいるかもしれないと思い外から孤児院を覗いていると中から年配の女性が出てきた。


 俺が年配の女性に声をかけようと近づこうとしたときにパルタに止められた。パルタは女性に気付かれないように俺を近くの木陰に誘導した。


「なんだよ。なんで隠れるんだよ? 知り合いでもいたのか?」


「あの年配の女この星の住人じゃない。傭兵ね」


「何? 何か企んでいるのか?」


「分からない。かなり昔に傭兵を引退しているみたい」


「なぜ分かった? どこからの情報?」


「グロリアの個人情報よ。あの女、昔グロリアと同じチームに所属していた。名前はイザベル。長距離射撃を得意とする元傭兵ね」


「なに? グロリアと繋がりがあるのか? ソフィーの失踪に関係があるかも知れない」


 俺たちはその日からイザベルという元傭兵の調査を開始した。暫く調査を行っていたが、ある日イザベルが単身で近くの森の中に入っていくのが見えた。


 俺たちは隠れてイザベルの後を追った。暫く後を追ったところで俺たちはイザベルを見失ってしまった。


 俺はともかくパルタの追跡から逃れることは難しいはず、俺たちが見失った辺りをウロウロしているといきなり草むらからイザベルが出てきた。


「そこを動くな!! お前達は何者だ? なぜ私の跡をつける?」


 イザベルは警戒した様子でこちらを睨んでいた。


「あんたこそ、この星で何を企んでいる?」


「企む? 私はそこの孤児院で孤児の世話をしているだけだ」


「元傭兵が孤児院? なんの冗談だ?」


「冗談などではない。私は………」


 イザベルはなぜ孤児院を営んでいるかを俺たちに話し始めた。


 それによると昔この星の近くで戦闘があり、イザベルを含む数人の傭兵がこの星の調査に訪れた。その際イザベル以外の戦闘員がこの村を襲撃した。


 イザベルは襲撃をやめさせようと必死で仲間を狙撃したが仲間もろともこの村の建物の多くを崩壊させてしまい、多くの孤児ができてしまった。


 それ以来親を失った孤児達の面倒を看るために傭兵をやめて今に至るそうだ。


「私はあの子達を守ってやらないといけない」


 イザベルはそう言うと俺たちを睨んでいた。


「俺たちは元アル=シオンの兵士だった」


「アル=シオン? グロリアの部隊か?」


「そうだ」


 俺たちはこれまでのことをイザベルに話した。


 グロリアとドミニク大公が協力してライカ王を殺害したことや、娘のカレンまでも殺害しようとして、俺が食い止めたこと、そしてソフィーという人物を探しにこの星にきたことを話した。


「そうか。グロリアがそんなことを……相変わらず馬鹿な奴」


「昔グロリアと同じチームだったようね」


「ああそうだ。まあ、お互い身の上話はしないたちでね。あいつのことは何も知らないよ」


 イザベルはそういうと話題を変えた。


「そんなことより、小さな女の子を探しているのか?」


「そうだ。心当たりはないか?」


「もしかするとグルタニア魔王国のボーン牢獄に収監されているかもしれない」


「ボーン牢獄?」


「ああ、最近グルタニアの魔族どもがその辺の人々を見境なくさらっているんだ。この村も何回か襲われそうになったことがある」


 まあ私が蹴散らしてやったがな、と言ってイザベルは笑った。


「そのボーン牢獄はどこにある? 場所はわかる?」


 パルタが聞くとイザベルはウインクしながら知っているぜ、と言った。


 俺たちは村へ帰るとロマネスに牢獄に行くことを伝えた。ロマネスはそこにクリル姫も投獄されているかもしれないと俺たちと一緒についていくと興奮していた。


 俺たちは三人でボーン牢獄に行くことにした。





 城の外で雷がなっていた。雷の閃光により不気味な影が一瞬のびる。


 グルタニア魔王国の当主魔王ゾルゲルは己の影を見つめながら近くの女に聞いた。


「本当にアークガルドを攻め滅ぼすことができるのか?」


 ゾルゲルに聞かれて女は薄ら笑みを浮かべながら答えた。


「アークガルド帝国とスレイア大国の姫君はこちらの手中にある。お互いの大国同士姫を攫われたと信じて戦争の準備をしているわ」


「大国同士を戦わせて弱ったところを攻め滅ぼすというのか?」


「そうよ。簡単な作戦でしょう」


「お互いの国が姫を攫ったのが、このグルタニアだと気付かれたらどうする?」


「あの場にいた者は全て殺したわ、それに二人の姫はボーン牢獄に閉じ込めてあるから気付かれる心配はないわ」


「何者かによってボーン牢獄が襲撃されないか?」


「ボーン牢獄には我々が用意した最新の設備を用意してあるわ。誰も近づくことも姫を助け出すこともできないわ」


 そう言うと女はゾルゲルに近づいて耳元で囁いた。


「そんなことよりアークガルドを攻め滅ぼした暁には………分かっているわよね」


「わ……分かっているよ。多くの奴隷をお前達に引き渡せばいいんだろ」


「そうよ。この星の人種は高い値段が着くわ」


 二人が話終えたと同時にゾルゲルの部下が部屋に入ってきてゾルゲル達に報告した。


「ゾルゲル様。スレイア大国がアークガルド帝国に進軍を開始しました」


 女はゾルゲルを見て作戦通りに進んでいることに気を良くして高らかに笑った。再び雷が鳴り閃光が影から女を映し出した。


 映し出され女は–––だった。

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