第13話 インバルト星②
俺たちは軌道エレベーターに乗り雲を突き抜け天空宮に着いた。さんさんと陽の光が差し込んで様々な花が咲き誇った庭の先に真っ白い宮殿が建っていた。
俺はまるでおとぎ話のお姫様が住んでいる城のようだと思った。カレンも宮殿を見て思わず綺麗!、と声がでた。
「こちらの部屋がソフィーの部屋となります」
俺たちはソフィーの部屋に通された。
西洋風の部屋に大きなベッドが一つ置かれていて他の荷物はあまりない広々とした部屋だった。暫くすると中央からホログラムで少女の映像が天井より降りてきた。
「こちらはここを管理しているAIの
エクスマスに紹介されて那由多というAIの少女はこちらに頭を下げた。
「エレオノーラ様を連れてきていただき、私からもお礼申し上げるのです」
那由多は再び頭を深く下げた。
「私たち以外はこの部屋から外に出てもらえるかしら」
パルタが王族は部屋から出るように言った。
アリアバートが何か反論しようとしたが、すぐにエクスマスに促されインバルトの王族は部屋から出て行った。
パルタとガスパールは王族が部屋から出ていくのを確認すると二人で那由多に近寄って行った。
「貴方の世界にダイブします」
そういうと二人と那由多は消えてしまった。
パルタとガスパールはカフェのテラス席のようなところに座っていた。そこには二人しかいなかった。
近くで水の流れる音がしていた。パルタが辺りを見るとそこは崖の中腹にあった。
崖は百メートルはあるだろう、下には川が流れていた。先ほど聞こえた水の音は近くの壁の裂け目から流れる滝の音だと分かった。
ここは那由多の世界でパルタたちAIが人目を避けて話すときに使うバーチャル空間だった。暫くするとテラス席から続く階段から那由多が降りてきた。
「ようこそ。私の世界へお二人を歓迎するのです」
「いい趣味してるわね。ここでなら落ち着いて話せそうね」
それはよかったのです、と那由多は勝ち誇ったように二人に言った。
「ソフィーの行方は? 検討もつかないの?」
ガスパールが少し苛立った様子で那由多に聞いた。
「それが、全く手掛かりがなくて困っているのです」
パルタはため息を吐いて那由多に端末を調べることを告げた。那由多は問題ないことを告げると二人の前から姿を消した。
AI同士がお互いに端末を調べることは普通のことなので、那由多はあっさり了承した。
だが大変時間がかかることなのでパルタとガスパールが自分の端末を確認している間は、邪魔になると思い自分のパーソナルスペースと呼ばれる空間へ移動した。
パーソナルスペースは那由他が了承しない限り、だれも侵入できない領域だった。
「あー疲れたーですー」
那由多は四畳半の畳の敷かれたパーソナルスペースに入るとすぐにドレスを脱いでキャミソール1枚の姿になって真ん中のコタツに入った。
「やっぱここが1番落ち着くですー」
那由多はそう言うとこたつの上のカゴに入っていたみかんを1つ取って食べ始めた。
「あの二人スペック低そうだったなー。まだまだ時間かかりそうだからテレビでも見るです」
那由他はそう言うと部屋にあったブラウン管テレビをつけてドラマを見始めた。
「このドラマ面白いの?」
「え?……」
那由多が声のした方を見るとガスパールがいた。その隣でパルタがみかんを食べていた。
「な………なんで? どっから入ってきたのです?」
そこの襖からよと行ってガスパールが襖を指さした。
「なんで? ここに入れるのですか? ロックを解除できるAIなんて聞いたことがないです。お二人は何者ですか?」
ネオ(次世代)AIよ、ガスパールはそう言うとパルタと二人で立って何かを探し始めた。
「な……何をしてるです? ここには何もないです」
パルタは那由他の言葉を遮るように言った。
「いいえ、端末を調べた結果ここに何かあることが判ったわ」
パルタとガスパールが少し部屋を探すとパルタがブラウン管テレビを指さして有った、と言った。ガスパールはその言葉を聞くなりブラウン管テレビを破壊した。
「な……何するです!! エレオノーラお嬢様からもらった贈り物ですのに!」
那由多は泣きながらブラウン管テレビに抱きついた。テレビはガスパールの一撃で粉々に弾けると中から黒い四角い箱が出てきた。
有ったわね、そう言うと四角い箱をもった持ったまま二人は姿を消した。那由多は暫く呆然としていたが、事態を確認すると二人を追って自分の世界から出た。
俺は困惑していた。
真実をカレンに語ったまでは良かったが、なぜかカレンが俺の腕にまとわり付いて離れようとしなかった。妹のルーシーがそれを見て先ほどからイライラしていることでますます俺は生きた心地がしなかった。
「カレンさんちょっと馴れ馴れしいんじゃないかしら」
ルーシーは我慢の限界という口調でカレンに言った。
「ジークは今まで私を守ってくれていた。これはそのお礼だ」
カレンはそういうと俺のほっぺたにキスをした。
「ゔあー!! な………何すんの? この泥棒ねこ!!」
ルーシーがカレンに掴みかかろうとするのを俺が必死で取り押さえているところにパルタとガスパールが現れた。
「何してるの?」
パルタが冷たい目で俺たちを見ていた。俺は助かったと思い。カレンの抱きついていた腕を振り払って、パルタに近寄った。
「それは何?」
ルーシーがガスパールの持っている箱を指さして聞いた。
「ブラックボックスね。暗号でプロテクトしてるので、これから解除するわ」
ガスパールはそういうと部屋の端末にブラックボックスを置いた。パルタが端末を操作して話し始めた。
「かなり厄介なプロテクトね。量子コンピューターでも解除に百年かかるわ」
「何? 解除できないってこと?」
「問題ない。私なら十時間もあれば解除できる」
パルタがそう言って早速解除に取り掛かろうとした時に、カレンが私に少し触らせてと言った。
「何馬鹿なことを言っているんだ? 私たちAIに任せて外で遊んでなよ」
ガスパールがやれやれといった表情でカレンに言ったが、パルタはそうねカレンさん少し触ってみてくれないかしら、と言ってカレンが端末を操作できるように退いた。
カレンは恐る恐る端末のキーボードを触っていたが、暫くすると恐ろしい速さで入力を開始した。
「そ…そんな……」
ガスパールはものすごい勢いでプロテクトを解除しているカレンを見て言葉を失った。横にいたパルタはカレンの中のEVEが覚醒していると改めて確信した。
カレンは暫くの間端末を操作していたが、これでどうかしら、と言ってパルタに聞いた。パルタはええプロテクトは解除されたわ、と言った。
俺はディスプレイを覗き込んだ。
確かに黒い箱は無くなって代わりに訳のわからない数字と記号がディスプレイに表示されていた。パルタはその数字か記号かわからないものを見て解析をすると、王族たちを呼んできてくれない、と俺に言った。
パルタはインバルト星の王族達が部屋に入ったのを確認すると話し始めた。
「誰かフューリアス宝石って知ってるかしら?」
パルタが王族達に向けて聞いた。するとエレオノーラが手を挙げた。
「私が皇女教育に行く前にソフィーに渡しました」
「それじゃソフィーも宝石のことは知っているのね」
エレオノーラがはいと答えるとパルタが部屋の端末を操作して説明を始めた。
「フューリアス宝石がどこで取れるか知ってる人はいる?」
誰も知らないようだった。俺はそんな宝石の存在自体知らなかった。
「フューリアス彗星の破片なのよ。フューリアス彗星が惑星の近くを通過する際にまれに惑星に降り注ぐ隕石の中に含まれるのがフューリアス宝石の正体よ」
パルタはそう言いながら端末を操作すると惑星図が出てきて星と星の間を縫うように一筋の線が見えた。これがフューリアス彗星の軌道を示した地図よ、と説明した。
「この図がブラックボックスの中に入っていたわ」
「ま……、まさか一人で宝石を探しに行ったと言うのか」
タイラントが信じられないというようすで膝から崩れ落ちた。
「そ……それで今どこにいるんです?」
エレオノーラがパルタに詰め寄った。 パルタが端末を操作すると一つの惑星が赤い点で光った。
「失踪した時期から見て最も彗星の軌道が近い惑星はここになるわ」
「POGK×××ー18○○○…未開拓惑星か……」
グランヴィルは残念そうに言った。
「す……すぐに捜索部隊を編成して探しに行くぞ!!」
アリアバートがそう言って部屋から出ようとしたが、パルタが待って、と言って制した。
「大勢で未開拓惑星に行くことは侵略行為とみなされるわ」
そう、この宇宙の法律では上位の文明が下位の文明を侵すことを禁忌事項としていて子供でも理解している一般常識だった。
もし大勢で行くのであれば銀河パトロールに申請が必要になるのだが、かなり時間がかかってしまう。
今は幼い少女が未開拓惑星にいることを考えると一刻も早く行動することが必要な場面だとその場にいる全員がわかっていた。
「私とジークの二人で行くわ」
王族達の何人かは反対したが、俺とパルタで捜索に行くことになった。
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