第16話 カリミヤ森林の魔物①
穏やかな川のせせらぎが聞こえてくる。俺は川が大きく曲がったところにある大きな岩の上で悩んでいた。
ボーン牢獄から脱出する際に川に落ちてここまで流されてきた。なんとかしてロマネスとクリル姫とミリア姫の三人を助けることが出来た。
今は川の岸辺に三人を寝かせている。三人とも意識がなかった。俺の悩んでいる原因はパルタにある。パルタが言うには三人の服を脱がせて早く毛布に包んでやれと言うのである。
そうしないと低体温症になって命の危険があると言う、三人とも若い女性なのにそんなことをして良いのか俺は途方にくれていた。
パルタができればいいのだが、パルタは実体がないので物体を持つことができない。
俺はパルタがストレイシープから出した簡易のテントを設営して覚悟を決めて三人の服を脱がす事にした。
俺は裸をなるべく見ないようにしたので、いつの間にかロマネスの胸を鷲掴みにしてロマネスが少し声を出した時はマズイと思ったがなんとか下着姿にすることができた。
俺がそのまま毛布をかけようとするとパルタが言った。
「何してるの? 下着も脱がせてやるのよ」
「え?・・流石に下着はマズイよ」
「いいから。緊急事態なんだから遠慮しなくていいわよ」
俺がまだ躊躇していると、大丈夫だから早く!、とパルタにせかされて苦戦しながらも三人を裸にして毛布に包んでやることができた。暫くすると三人は目を覚ました。
「あれ? ここは?」
三人が戸惑っているとパルタが今の状況を説明した。
「そうか。かなり流されてしまったようだな」
ロマネスが疲れたように言った。
「あれ? 私たち裸になっている」
クリル姫が毛布をそぞきながら確認している。ロマネスがパルタに手を煩わせて悪かったなと言った。
「服を脱がせたのは、私じゃないわ、ジークよ」
パルタは当たり前のように言った。三人は何? とだけ言うと固まってしまった。
「な・・なんでそのことを言うんだよ。パルタがやったことにすれば丸く収まるのに!」
「あら。私は頭がおかしいので分からなかったわ」
パルタは怪鳥の背中で俺が言ったことをいまだに根に持ってるらしかった。俺は三人の視線を逸らして逃げるようにテントを出ていことしたが、ロマネスに肩を掴まれた。
「どういうことだ? ジーク私の裸を見たのか?」
「い・・いやあ。き・・緊急事態だったんだ、しょうがないだろ!」
俺がそう言うと三人は軽蔑した目で俺を睨んでこの責任はとってもらうぞ、と言った。
俺たちは川の近くで一夜を過ごした。
朝になりウォルトの捜索をするという事になった。ウォルトは怪鳥に乗ったまま行方が分かっていない。五人で出発の支度をしているときに、近くの水溜りが揺れているように見えた。
俺は暫くの間水溜りを見ていたら、確かに振動しているのが見えた。振動は絶えず振動しているのではなく一定のリズムで振動しているようだった。
暫くするとドシンとわずかに音が聞こえるようになったと思った瞬間、近くの木々から鳥たちが一斉に飛んでいった。
ドシン! ドシン! 今度ははっきりと聞こえるようになり、その音とともに水溜りの水が揺れているのが分かった。
何か大きな生物が近づいてくる。俺はそう思うと少し身構えた。
暫くすると振動と音がはっきりと近くに聞こえるようになり、近くの木々の上から大きな恐竜の顔がヌーッと現れた、恐竜はブラキオサウルスのようだった。
ブラキオサウルスは恐竜の中でも特に大きい種族で草食獣で大人しい性格の恐竜だった。もちろんこの星の恐竜がそうであるという保証は無い。
パルタ以外の三人は恐竜を見つけると俺の影に隠れて震えていた。恐竜は俺たちを見つけると大きな顔を俺に近づけてきた。
俺は抵抗せずにやり過ごそうと思った。恐竜は大きな頭を俺に近づけると匂いを嗅いできた。風圧で俺の体が少し揺れた、パルタは恐竜が噛みつこうとしないか心配そうに俺を見ていた。
「ギガント。どうした? 何かいるのか?」
いきなり森の中から声がして俺たちは驚いた。どうやら声の主はこの恐竜の上に乗っているようだった。徐々に恐竜の体が森の中から出てきて、全体が見えたときにやはり恐竜の背中に人がいた。
恐竜も巨大だったが、上に乗っている人物も四メートルはあるような大きな男が乗っていた。大男は俺たちを見つけると、怪しいものを見るような目つきで話しかけてきた。
「君たちは? 何者だ?」
「私たちはアークガルド帝国の住人よ」
パルタが答えた。
「どうしてここに? なんの用事でここにいる?」
「私たちはグルタニアに捕まって、この川の上流にあるボーン牢獄から逃げてきたのよ」
男はパルタの説明を聞くと納得したようにそうか、とだけ言って恐竜から降りてきた。恐竜から降りて目の前にきた大男は上で見た時よりも大きく感じた。
「ついて来い。我々の村に案内する」
そう言うと大男は俺たちの前を歩いた。俺たちは大男について行くことにした。
俺たちが暫く大男に付いて行くと開けた場所に着いた。
ロマネスとクリル姫とミリア姫の三人は大きな恐竜の背中に乗せてもらっていた。最初は怖がっていたが、三人とも見晴らしが最高だと言いながら慣れた様子だった。
すると前を歩いていた大男の歩みが止まり何か話し始めた。
「そういえば近頃この辺りに怪物が出没するようになったんだ」
「怪物? どんな怪物だ?」
「そうか。知らないのか?」
男はそこまで言うと急に振り返ってしらばっくれるな!、と言って攻撃してきた。俺は大男の攻撃を交わすと後ろに飛び退いた。
「ほう。よく今の攻撃をかわしたな。アークガルドにそんなことできる人間はいないぞ」
「最近はアークガルドの人間も強くなったんだよ」
「うるさい! 貴様何者だ?!」
大男はそう言うと俺に突っ込んできた。俺が大男のパンチを交わすと、風圧で近くの大木の幹に穴が空いた。
俺はそれを見てまともに食らったらただじゃ済まないなと思った。俺がそう思っていることなどお構いなしに大男は攻撃をしてきた。
大男の攻撃は一発が大振りで重いだけじゃなく速さも尋常じゃなく速かった。
攻撃を躱すだけで精一杯だったが、流石に疲れてきたのだろう少し遅くなった大男のパンチを交わすと、俺は両足で地面を蹴って飛び上がり大男の溝落ちにパンチした。
俺の拳が溝落ちにめり込むと大男は大きな音を出して倒れてしまった。
「そこまでじゃ!!」
いきなり甲高い声がして振り向くと大男と同じように大きな男が数人いるのが見えた。その中でも一番偉そうな人の脇に立っている人間が見えた。ウォルトだった。
「ウォルト無事だったのか」
「ああ。おかげさまでな」
「それにしても……あんた只者じゃないな」
ウォルトは地面にうずくまっている大男を見てそう言った。うずくまっていた大男は仲間に支えられながら介抱されていた。
「強人族の戦士を一撃で倒す人間は見たことがない」
そう言うとウォルトは本当にあんた何者なんだ?、と俺に言ってきた。俺がその質問に躊躇していると強人族の一番偉そうな男が俺の前で頭を下げて謝ってきた。
「うちの若い戦士が申し訳ない。どうか許してはもらえないか」
介抱されていた男が長老と言った。どうやらこの大男は長老らしい。
「ああ。問題ない確かに俺たちはどっからどう見ても怪しい者に見えるからな」
俺がそう言うと長老は安堵した表情になり、頼みがあるのだがと言ってきた。
「我々の村の怪物を退治してもらえないか?」
俺は怪物退治?、と長老に聞くと一ヶ月ほど前から村の付近で怪物が出没するようになったそうだ。
「一ヶ月前というと・・・ちょうどソフィーがこの星に到着した時期と一致するわね」
パルタが俺以外に聞こえない声で言った。
「俺たちも人を探しているんだが、幼い少女だが知らないか?」
俺は長老に聞いた。長老はさあ? 見たとは聞いてないな、と言いながら周りの強人族の人を見ていたが、周りの者達も分からないようだった。
俺が残念に思っているとパルタが俺を元気づけるように言った。
「村に行けば何かソフィーの情報が聞けるかもしれないわ」
「ああ、そうだな。よし強人族の村に行こう」
俺たちは六人で強人族の村に行くことにした。
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