第11話 転校生


 俺とパルタとカレンの三人は慌てて教室の席に着いた。同時に担任の男性教師が教室に入って来た。


「これからホームルームを始めるがその前に皆さんの新しい仲間を紹介する。」


 男性教師がそう言うとすぐに教室内どよめきが起きた。おそらく三人以外は誰も知らなかったのだろう。


 男性教師が転校生を教室に招き入れた。ピンク色の巻き髪の転校生は教室にスッと入ってきて教壇の前に立った。その姿を見てジークは驚いた。それもそのはず、昨夜海賊船に拉致されていた少女だった。


 俺はすぐにパルタの方を見た。パルタは俺の視線に気づくと無表情のまま解らないといった仕草をした。海賊船が爆発する寸前に船から救い出し故郷に帰れるよう脱出艇に乗せたはずなのに、なぜ地球に来たのだろう? なぜこの学校に転入したことになっているのか? 俺は検討がつかなかった。面倒なことにならなければ良いが–––俺はそう思った。


 俺が心配していることなどお構いなしに転校生はこちらをじっと見て自己紹介を始めた。


「エレオノーラです。今日からよろしくお願いします」


 エレオノーラの大きな青色の目がじっとこちらを直視している。担任の男性教師も視線の先に俺がいることを訝しげに思ったが、気にも留めない様子で席に座るようにエレオノーラを促した。しかしエレオノーラは俺の方を指さすと大きな声で私あの人の隣の席がいいです、と言って俺の近くに詰め寄った。


 俺の隣の席の女子はびっくりした顔をしたが次の瞬間わかりましたと言ってすぐに席をエレオノーラに明け渡してしまった。その光景を見て何人かの生徒はおかしいと思ったようだったが、すぐに気にも止めないように前をむいてしまった。


 ただカレンだけは俺とエレオノーラとの間にただならぬ関係があるのを感じ取ったみたいで、先ほどからこちらを睨んでいる。俺はカレンの方を見たが目が合うとプィッと黒板の方に向いてしまった。

 

(あ〜面倒なことになった………)


 地球での任務に支障が出ないようにこれまで目立たなく生活をしてきたにも関わらず、ここにきてそれが音を立てて崩れ去るような気がした。




 その日はできるだけエレオノーラに近づかないように細心の注意を払っていた。エレオノーラの周りは休み時間になると人だかりができていたので、俺としても都合がよかった。昼休みになって案の定エレオノーラの周りには一緒にご飯を食べようと男女問わず人だかりができていたが、すぐに誰もいなくなってしまった。すると俺とパルタにエレオノーラが近づいてきて一緒にご飯を食べようと誘われた。


 俺はエレオノーラがここにきた理由を知りたくて誰もいない屋上に三人で行くことにした。




 「あまりマインドブレイクはやらない方がいいわ」


 パルタは屋上に着くなりエレオノーラに対して言った。俺は意味がわからずパルタに聞き返した。


「マインドブレイク?」


「そうよ。先ほどからこの女が使っている精神操作よ。人の精神を操って自分の思い通りにする技よ」


 俺はエレオノーラを見て本当なのかと問いただした。エレオノーラは申し訳なさそうに誤った。俺は気を取り直して一番重要な質問をした。


「如何して地球に来た?」


「頼み事があるの」


「頼み事? 何の?」


「実は……」


 エレオノーラが喋り出そうとした時に、ダン!と屋上の昇降口の扉が開いてカレンが出てきた。かなり機嫌が良くないようだった。カレンは俺たち三人を見るなり俺に詰め寄った。


「こそこそ何話してるのよ!」


 カレンはすごい剣幕で俺に詰め寄ってきたので、俺は後退りした。そんな俺を見兼ねたエレオノーラがカレンに話しかけた。


「カレンさん待って私が二人を昼ごはんに誘ったの」


 そう言ってカレンの目を見て喋っていたが、カレンは表情一つ変えずにそんなことを聞いてるんじゃないわとエレオノーラに反論した。エレオノーラはカレンに反論されてびっくりした顔をしていた。パルタはそんなエレオノーラを見て言った。


「カレンにマインドブレイクは効かないわよ」


「なぜ? 彼女は何者なの?」


「それは言えないわ。でも彼女は私たちと同じく地球人じゃないとだけ伝えておくわ」


 パルタはここでは人眼があるので放課後、俺とパルタとエレオノーラ三人で落ち合う約束をして二人は教室に戻っていった。二人がいなくなった後も俺はカレンに責め立てられていた。

 




 「如何してここに来た?」


 俺は学校からかなり離れたファーストフード店のテーブルを軽く叩きながらエレオノーラに詰め寄った。エレオノーラはインバルト星から来たと言っていたので救い出した後、ストレイシープに積んであった脱出艇に乗せインバルト星に向かうように設定したのである。


 エレオノーラは申し訳なさそうに謝ってから喋り始めた。


「私は、インバルト星の第一王女のエレオノーラ・インバルトです。」


「え?………第一王女!?」


「一国のお姫様が海賊如きに拉致されていたの? まさか護衛も付けずに単身で行動してる訳じゃないでしょ?」


「実は私、皇女教育期間中で惑星センチュリオンに在籍していまして……」


「皇女教育期間?」


 俺は初めて聞いた単語に反応したが、すぐにパルタに説明された。


 それによると各惑星の女性王女の幼少期の人格形成やら人脈を成長させるために一定期間惑星センチュリオンに集められて教育を行う期間を皇女教育期間と呼ぶそうだ。そこで培った人脈を使って各惑星間の友好関係を築くことを目的に毎年実施されているそうだ。


「教育期間中に逃げ出してきた。ということ?」


「逃げ出した訳ではありません。私の………」


 エレオノーラはそこで声を詰まらせ目に涙を浮かべながら私の––––妹を探してください––––と言うと泣き出してしまった。


 エレオノーラは惑星センチュリオンで皇女教育を受けていたが、妹の第二王女であるソフィーが何者かに連れ去られたという報告をインバルトの関係者から聞いて居ても立っても居られず、センチュリオンを抜け出し、単身妹を探しに出かけたところで、例のウロボロス海賊団に拉致されたようである。


「インバルトに帰って捜索チームを結成して探しに行けばいいじゃないか?」


 俺がエレオノーラにそう言うと


「すでに総出で寝る間を惜しんで捜索していますが、一向に見つかりません」


 エレオノーラはそう言うとまた泣き出してしまった。


「なぜ? 私たちのところに来たの?」


 パメラが聞くとエレオノーラは涙で赤くなった瞳を俺に向けて話した。


「八年ほど昔にウロボロス海賊団をたった一人の少年が壊滅させたと聞いたことがあるんです」 


 俺はドキリとした。貴方ですよね?、エレオノーラはそう言うと俺をじっと見つめていた。


「海賊退治と人探しは全く別物だろう! 人探しは専門外だぞ」


 俺がそう言うとエレオノーラはそんなことはありません、と言った。


「海賊を倒した少年と一緒にいる少女はネオA Iと言ってこの世の全てを見通す力があると言われています」


 エレオノーラはそう言うと今度はパルタを見てあなたですよね?、と言ってきた。


「お願いします。妹を一緒に探してください。」


 俺が困惑していると後ろからいきなり聞き慣れた声がした。


「女の子がこんなに困っているのに何を悩むことがあるのよ!」


 振り返ると仁王立ちになった。カレンが鬼の形相でこちらを睨んでいた。


「なんでお前がここにいるんだよ!」


 俺はまた話がややこしくなると思いながら聞いた。


「そんなことはどうでも良いの! 男なら泣いている女の子の力にならなくてどうするの!」


 カレンは組んでいた腕を解いて人差し指を俺に向けて言った。


「カレンさんいつからそこに居ました?」


 パルタがカレンの怒りを逆撫でしないように優しく聞いた。


「いつからって、最初から居ましたよ」


「最初から?………話も最初から聞いていました?」


「そうよ。何か問題ある?」


 問題だらけである。最悪の状況を整理しようと俺が考えているうちに冷静に分析したパルタが話始めた。


「エレオノーラ姫の妹探しを手伝いましょう」


「本当!! ありがとう!」


 エレオノーラがパルタの手を取って感謝した。


「ちょっと……待て……」


 俺は反対しようとしたが、三人の目がこちらを睨んで来たので、最後までいうのをやめた。


「とりあえず一緒にインバルト星に行きましょう、そこで妹さんの手がかりを探ります」


 エレオノーラは満面の笑みを浮かべてパルタに感謝を伝えていた。そこにカレンが信じられない一言を言い出した。


「私も一緒に行きます!」


「はあ? 連れて行けるわけがないだろう」


「嫌です、あなたが途中で逃げ出さない保証もないですからね」


「俺が逃げるわけないだろ!」


 俺とカレンはお互いに顔を近付けて睨みあった。


「いいでしょう。一緒に行きましょう」


 パルタがまた信じられない言葉を言った。俺はパルタに詰め寄った。


「何考えているんだ! 一緒に行けるわけないだろう」


 パルタは他の二人に聞こえないように俺の耳元で


『いい機会だわこの際、カレンにも真実を話しておくほうがいいわ』


 でも……と喋ろうとする俺の口に手を当てて言葉を遮るようにしてパルタはまた小声で言った。


『私たちがこの星を離れている間に例の海賊が、またこの星にちょっかいを出さないとも限らないでしょ』


俺はパルタに再度念を押されてしまった。


 俺は反対するのをやめてカレンとエレオノーラの方を向いて妹探しに行くことを承知した。カレンとエレオノーラは二人で抱き合って喜んだ。


 パルタは喜んでいるカレンを見ながらこれほどすぐ近くに居ながら自分が感知できなかった現実を受け止め、カレンの力が徐々に開花しつつあることを実感していた。

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