第10話 地球
少し空いた窓から小鳥のさえずりが聞こえてくる。
俺は窓を全開にして外の空気を全身に浴びたいと思い、ベッドから立ち上がろうとしたが、体が動かなかった。俺はまたかと思い視線をずらすと俺の胸元に妹のルーシーの頭を確認した。ルーシーはピッタリと俺に抱きついて眠っていた。
「ルーシー! おい! 起きろ!」
「ん……んー」
俺は両手でルーシーの肩を掴むと力を入れてルーシーを引き剥がした。
「んもー……いやです!!」
ルーシーはそう言うと肩にあった俺の両手をすり抜けて思いっきり抱きついてきた。
「ん? おい! なんでいつも俺のベットに入ってくるんだよー」
「んー! いやですぅー! お兄ちゃんの温もりがないと眠れないのですぅー」
そう言うとルーシーは俺の胸に自分の頭を擦り付けてきた。
幼少の頃はルーシーに抱きつかれると引き剥がすのは至難の技だったが、今は俺も力がついてきたので抱きつかれた腕を解いてベットから無理やり立ち上がった。
アル=シオンから脱出した俺は途中で妹のルーシーとネオAIのガスパールと合流して地球という太陽系の第三惑星に潜伏していた。
地球に着くとネオAIのパルタとガスパールは、すぐに会社を立ち上げて会社経営を始めた。なんでもソーシャルゲームの会社でゲームの名前は『終末のエクソダス』といい瞬く間に大ヒットして二人は、巨万の富を築き上げた。
俺たちが暮らしているのは宮殿のような大きな家で執事とメイド以外生きている者は俺たち兄妹だけだった。こんなに大きな家に住んで目立つんじゃないかと心配したが、パルタ曰くお金はあって困ることはないし、大きい家の方が何かと便利だと言っていた。
俺とルーシーが食堂につくとメイドたちにより朝ごはんが用意されていた。俺たちは朝ご飯を済ますと学校へ向かった。
街路樹の木が風に揺れている。風が強く吹くたびに何本かの木から葉っぱが舞う様子がとてもきれいだ。この星は四季折々の風情があり俺はこの星で暮らすことを気に入っている。
昨晩はウロボロス海賊団の脅威から地球を守ることができて良かった。ただ自分を知っている者がいた場合、面倒なことになると思い。昨日のウロボロス海賊団の船員の顔を思い浮かべながら以前に会った顔がないか思い出していた。
俺は潜伏先が明るみになって、今のミッションに支障をきたす事を懸念した。
俺とルーシーとパルタは地球の日本というところに拠点を置き、高校と言う所に通っている。俺とパルタぐらいの年齢の者はこの高校生というカテゴリーに入るらしかった。そこで俺とパルタは2年生でルーシーは1年生で三人兄妹と言うことにしている。
学校に登校中もルーシーは俺の腕にしがみついて離れなかった。俺は歩きづらいなと困った顔でしがみついている妹の頭に視線を落としているとジーク!、と隣にいたパルタが小声で呼んだ。
「カレンが隠れているわ」
パルタが前方を指さして言った。俺は目の前の四角を見ると確かに黒いスカートがヒラヒラと壁から少し見えていた。
「誰かと待ち合わせでもしてるんじゃないか?」
「いいえ。違うわ先ほどからチラチラこちらを見ているから、おそらく我々を待ち伏せしてるようね」
俺はドキリとした、そういえば正体を見られたことをパルタに言ってなかったことを思い出した。
「おかしいわ。我々の存在を気づかれないように、常に隠密波を出して存在を消しているのに」
パルタは納得がいかないとぶつぶつ言いながら歩いていた。俺は観念してパルタに打ち明けた。
「じ………実は………この前の繁華街での戦闘でカレンに俺の顔を見られたみたいなんだ」
「何? 見られた? 正体を? なぜ黙ってたの?」
「言うタイミングがなくて……つい」
「はぁー。まあいいわ。遅かれ早かれ正体を伝えなきゃと思ってたから」
パルタは額に手を当てて項垂れた。
「ジークに好意を持ってくれたら任務がやり易くていいのにな」
パルタが俺を見て小声で言った。
俺たちが四角に近づくと案の定カレンが角から出てきた。俺の顔をじっと覗き込んで動こうとしなかった。たまらずパルタが喋り出した。
「おはようございます。カレンさん何か言いたいことでもありますか?」
「いや。特段ないんだが……こ……ここであったのも何かの縁だから………同じクラスメイトとして一緒に登校しようじゃないか」
カレンはそう言うと俺とパルタの間に割り込ん来た、ルーシーがカレンを威嚇したが、カレンは無視して俺たちは四人で並んで歩き出した。俺はルーシーとカレンに挟まれる形となり歩きずらいと思った。カレンは相変わらず俺の横顔をじっと凝視しながら喋り始めた。
「昔からずっと学校が同じだったよね。でも全然あなたの記憶がないのよね。如何して?」
「え?……し………知らないよ……昔から影が薄いからじゃないかな」
「そうかしら? 同い年と年下に、こんな綺麗な妹さんがいてずっと同じクラスだったのに? おかしいと思わない?」
俺はじっと見ているカレンの目を背けて知らないよ、と言った。
「あなた何者なの? 昨日どこにいた?」
「き………昨日はずっと家でゲームしてたよ」
俺がそう言うとカレンは両手で俺の顔を掴むと強引に俺の顔を、自分の方に向けてこっちを向きなさい!、と言った。俺の顔に自分の顔を近づけてゆっくりした口調で本当の事を言いなさい、と言った。
「昔から私がピンチになるとなぜか相手が倒れて助かることが度々あったの。あなたが助けてくれてたのね?」
「な……何かの間違いだろ……俺は知らない」
「そう。言いたくないならこうするまでよ」
カレンは俺の腕に抱きついて腕を強引に組んできた。
「あー!! 私のお兄ちゃんに何するの!!」
ルーシーがカレンに向かって牽制した。
「こ……これは本当のことを言わない罰だ!! これからずっと付き纏って絶対証拠を掴んでやるからな!!」
カレンはそう言うとますます強引に腕を組んできた。俺の腕にカレンの胸があたり恥ずかしかったので俺はカレンにあまりくっつかないように言った。
「あ……あの…腕に…その…胸が当たってるんですけど………」
「い……嫌なの?」
「そ…その……歩きづらいな…と思って……」
「その意見は却下します! これからずっとこうして歩くんだから慣れてください!」
カレンは顔がリンゴのように赤くなっているが決して腕を外そうとはしなかった。
パルタはカレンがジークに対して好意を持っているのを確信して内心ほっとした。カレンはルーシーを牽制しながら話し出した。
「そういえば二人とも知っているか? 今日から転入生が来るんだぞ。」
カレンが自慢げに言った。
「流石によく知っていますね」
パルタが調子良く言った。
「生徒会長だからな、それぐらいは知ってて当然だ。何でも昨日いきなり本校に転校してくることが決まったみたいだぞ」
「男の子ですか? 女の子ですか?」
パルタが聞くとカレンは答えるのを一瞬躊躇して俺の顔を見ながら女の子と聞いていると言った。
俺はいつの間にかカレンに顔を見られていることに気づいてカレンに目をやったが、すぐに今度はカレンの方から目線を逸らしてしまった。
「女か……興味ないな……」
俺がそう言うとカレンは嬉しそうに頷いた。おそらく笑っているようだったが、それを俺に見られないように顔を下に背けていた。暫く歩くと遠くから学校のチャイムの音が聞こえてきた。
「まずい早く行こう」
そう言って俺たちは学校へ向かって走り出した。
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