第8話 襲撃

 俺はコーヒーショップ店の窓から景色を眺めていた。忙しそうに行き交う人を横目に見ながら意識はターゲットに集中していた。このコーヒーショップからターゲットのいる学習塾はよく見える。


 アル=シオンから脱出して八年が経っていた。俺たちは遠く離れた地球という太陽系の第三惑星に身を隠している。地球に着いてもカレンはまだカプセルから出てこなかったので、その間に夫婦二人だけの家族にカレンの里親になってもらうことにした。出生届けや戸籍などはパルタの方で処理したためすぐにカレンは三人家族になった。今の名前は三角カレンになっている。


 俺たちはターゲットである三角カレンの護衛をいまでも続けている。八年間付かず離れずカレンに悟られないようにしているため、カレンは俺たちの存在に全く気づいていないだろう。


 俺がアイスコーヒを飲み終わると同時に、パルタよりカレンが学習塾から出てきたと無線が入った。この後は国立の図書館に行くのがカレンの日課だった。俺はコーヒーショップの窓からカレンを確認した。休日にも関わらず学校の制服を着ているのですぐに分かった。店を出ようと席を立ってコーヒーカップを戻している時にパルタからトラブル発生の連絡が入った。




「おばあさんに謝りなさい!!」


 カレンは仁王立ちになって強面の男二人を睨みつけていた。どうやら男二人がおばあさんにぶつかっておばあさんが転んだにも関わらず無視して行こうとしたところ、カレンが怒ったようだった。こういう正義感が強いところは父親そっくりだと思った。


「うるせー!! 小娘! 何か文句があるのか!!」


 一人の男がそう言うとカレンの胸ぐらを掴んできた。もう一人がそっとカレンの後ろに回って羽交い締めにしようと企んでいるようだった。


 俺はまずいと思い光学迷彩のスイッチを入れた。光学迷彩は自身の体を透明に変えて、人から見えなくなる機器でカレンを助ける際に使用している。


 透明になった俺は、カレンの背後の男の後頭部に一撃を入れて気絶させた。どすんと音がして、もう一人の男とカレンはキョトンとした顔で倒れた男を見ていた。


 カレンの胸ぐらを掴んでいた男は、なぜ相方が倒れたのか分からず、カレンから手を離すと倒れた男にかけよった。すかさず俺は駆け寄った男の後頭部にも一撃を入れて気絶させた。


 暫くカレンは、なぜ二人の男が倒れたのか分からず、立ち尽くしていたが、周りの人たちはか弱い女子高生が強面の男二人組を退治したと思ったらしく、皆一斉にカレンに拍手していた。カレンはそれが恥ずかしかったのかすぐにその場から離れた。




 俺は物陰に隠れてカレンを見送っていたが、パルタから緊急の無線が入った。


「斜め右にいる二人組の男が見える?」


「今店から出てきた奴らか?」


「そう。あの二人γ線ガンマーせんが異常に高いわ」


「どういうことだ?」


「つい先日まで宇宙空間にいたようね。骨格も地球人のものとは少し違っている」


「なに? カレンを探しにきたのか?」


「分からない。もう一人同じような男を発見したわ」


「なに?どこにいる?」


「目の前のビルの上でカメラを撮影してるようね」


「何するつもりだ?」


「分からないけど。何か仕掛けてくるのは間違いなさそうよ」




 二人組の男は宝石店に入っていった。男たちは店に入るとショーケースに手を置いた。途端にショーケースが割れて店の防犯ベルが鳴り響いた。男たちは防犯ベルがなっても慌てることなく次から次に宝石やら金塊を袋に詰めていく。駆けつけた警備員が男に近づこうとしたが、男の腕につけた腕輪からレーザーのようなものが照射され警備員は近づくのをやめた。


 レーザーが警備員にあたると警備員の体が宙に浮いて身動きができないようだった。警備員の男は何が起きているのか解らないといった表情をしていた。男が腕を動かすと一緒に警備員も宙に浮いたまま男の腕の方向に動いていた。男はそのまま勢いよく警備員を外に放り投げた。警備員は店のガラスを破って道路まで吹っ飛んだ。


 男たちはあまりの出来事に動けずにいる店の店主にもレーザーを照射して宙に浮かすと勢いよく店の棚に投げ飛ばした。店主は棚に突っ込んだ後に落ちてきた棚の残骸に埋もれて動かなくなった。それを見て爆笑した男達は満足したのかゆっくりと宝石店の外に出た。


 店に出たところで二名の警官が男たちを取り押さえようとしたが、二名とも道路の反対側まで吹き飛ばされた。

 



「何が目的なんだ?」


 俺は物陰に隠れながら、パルタと通信していた。


「少なくともカレンを探しに来たわけではなさそうね」


「なんでわかる?」


「人探しは隠れて目立たない様にやるわ。目立つ意味がないもの、おそらく。この星の科学力を確認しているようね」


「科学力? そんなことを知るために人を吹き飛ばすのか?」


「その星の科学力を調べるには、民間人が持っている武器の能力を知るのが一番なの、問題を起こせばすぐにわかるから手っ取り早いのよ。カメラで撮影しているのがいい証拠よ」


 パルタに言われても俺はピンと来なかったが、とりあえずこのまま放置しておくわけにはいかないと思いパルタに攻撃することを伝えた。


「了解。戦略型EMSを起動するわ。半径五キロ以内のすべての監視カメラやスマホのカメラを一定時間故障させるから安心して暴れなさい」


 俺は光学迷彩を起動するとビルの上で動画を撮影している男を拘束した後に、二人組に近づいていった。男達に向かっている途中でバリケードができていたが俺はバリケードを乗り越えて近づいて行った。警官が仕切りに拡声器で住民は外に出ないように放送していて、あたりは騒然となっていた。


 怪しい二人組は警官隊にとり囲まれ、拳銃で撃たれていたが、バリアがあるようで銃弾は二人に当たらずバリアに跳ね返されていた。


 男はまた何やら怪しい機械を取り出して操作していた。男が機械を操作した瞬間、周りの警官隊の体が宙に浮いた。警官たちは今自分がどうなっているのか、全く分からないようだった。暫く身動きができないまま宙に浮かんでいたと思ったら勢いよく方々に吹っ飛んだ。


(重力コントロールも持っているのか)


 俺はそう思いながら、警官がいなくなったのを確認して男たちに近づいて行った。


 俺が男たちの前に来ると男たちは俺に気づいたようだった。男の着けているゴーグルに光学迷彩対策がされているようで俺の姿を確認すると一人がレーザーを照射してきた。俺はレーザーを避けて男の懐に移動すると思いっきり男の腹にパンチを放った。男は「ぐう!!」と唸ってうずくまり動かなくなった。


 もう一人の男がレーザーを照射してきたが、俺はまたうまく交わした。男の放ったレーザーが商店の壁を壊していった。俺は男の後ろに回り込むと腕をとり羽交い締めにした。


「お……お前は……な……何者だ?」


「さあな。お前達こそどうして地球にきた?」


 俺はそう言うと、男の腕を固めた。男は苦しそうな声を出した。


「わ……わかった! 俺たちはウロボロス海賊団だ!!」


「ウロボロス?」

 俺はまだウロボロス海賊団の残党が残っていることを知った。


「何しに来た?」


「た……たまたま他の任務でこの近くを通りかかって、この惑星の調査に来ただけだ。ほ……本当だよ……」


 男は苦しそうに顔を歪めた。俺はパルタに聞いた。


「どうだ? 本当か?」


「声音に異常ない。どうやら本当みたいね。どうでもいいけど早く拘束して連れ出しましょう。これ以上ギャラリーが増えるのは面倒だわ」


 俺は了解、と返信して男達を連行しょうと動き出したところで、轟音と共に遠くで車が宙を舞った。


「ガハハハー! これでお前達はおしまいだ!!」


 ウロボロスの男は勝ち誇ったように笑い出した。


「こんなこともあろうかとバトルモービルを用意しておいたのさ。それも最新型のやつをな!!」


 俺は爆音のする方を見た。大きな人型のロボットが建物を破壊しながら近づいてくるのが見えた。俺の視線の先に小さな子供が道の真ん中で泣いていた。近くにはその子の母親だろうか? 頭から血を流して倒れているのが見えた。


 俺が助けようと思った瞬間、一人の少女が子供を庇うように飛び出てきた。そいつはカレンだった。


 バトルモービルは駐車してあった車を持ち上げると勢いよくカレン目掛けて車を放り投げた。 


 俺は素早くカレン達の前に移動すると、飛んでくる車を止めて弾き返した。車はバトルモービルに飛んでいったが、直撃する直前にバトルモービルに払いのけられた。車は真っ二つになって、爆発した。バトルモービルは走りながら俺に突進してきたので、俺も向かっていった。


 バトルモービルは走りながら右パンチを放ってきた。負けじと俺も左パンチを繰り出す。両者のパンチが炸裂した瞬間、爆音とともにものすごい風圧で道路に亀裂が入った。


 俺の左パンチでバトルモービルの右腕が吹き飛んだ、すかさず飛び上がり頭に右蹴りを入れたが、バトルモービルに右足を掴まれて近くの店舗に放り投げられた。俺は店舗を突き破り反対側の道路まで飛ばされた。衝撃で店舗が跡形もなく崩れ落ちた。すぐに立ち上がってバトルモービルを見ると顔が光っているのが見えた、と思った瞬間、バトルモービルの目からレーザービームが放たれた。


 放たれたレーザーは俺をかすめると後ろのビルに当たりビルが斜めに真っ二つになった。真っ二つになったビルが崩れ落ちる先にカレンがいたので俺は、咄嗟に自分を盾にして母親と子供とカレンを庇った。


 ビルの瓦礫を弾き飛ばすと、頭から生暖かいものが滴り落ちた。手で押さえると血で真っ赤に染まった。光学迷彩をつけているのに、なぜかカレンが俺の顔を見ているように思ったが、気にする余裕はなかった。


 俺はエターナルエネルギーを全身にためてを爆発させるとものすごいスピードでバトルモービルに突っ込んでいった。俺の飛び蹴りを喰らって、頭が下がったところをすかさずヘッドロックして、そのまま頭をもぎ取り、肘で背中に大穴を開けたところでようやくバトルモービルの動きが止まった。


 俺が気づくとウロボロス海賊団は一人残らずいなくなっていた。おそらくパルタがストレイシープに収容しただろう、このバトルモービルも跡形もなく回収されるだろう。この場を離れようとしたときカレンが俺をじっと凝視していた。


 俺は咄嗟に光学迷彩の装置を確認すると、ボロボロになって壊れているのに気がついた。おそらく店舗に投げ飛ばされた時に壊れたのだろう。カレンは信じられないという表情で俺の顔をじっと見ていた。

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