第7話 罠・裏切り②

 どうしてこうなった? 俺は牢屋の中の簡素なベットの上に座ってこれまでのことを考えていた。ライカ王が殺されたことを告げられ、あろう事か王を殺害した犯人に疑われて俺は牢獄に収監された。


 パルタがいろいろ調べてくれたところによると、監視カメラに俺とパルタがライカ王の部屋から出てきたところが映っており、その後ライカ王の死体の第一発見者であるドミニク大公が部屋に入るまで誰もライカ王の部屋に入っておらず、そのため俺とパルタが王を殺害した容疑者に疑われている様だ。


 しかしながら監視カメラの映像など今の技術ならどうとでもなるように思う。俺はすぐに加工した真犯人が捕まるだろうと高を括っていたが、カレンの処遇を聞いてのんびりとはしていられなくなった。


 それというのも、超絶人工知能のEVEと名乗ったあの女は超危険な存在と認識されていて、あろうことかカレンがそれと融合したことがバレているのである。また、超危険と捉えている者がEVEとともにカレンを殺害しようと言うのである。

 

 俺はライカ王が何度も自分に感謝する光景が頭をよぎった。なんとしても必ずカレンを守る。そう心に誓った。


「なんとか疑いを晴らすことはできないのか? 疑いが晴れれば俺が直接ドミニク大公を接得すればなんとか力になってくれるだろう」


 俺はパルタに聞いた。


「ドミニク大公に言っても無駄な努力でしょうね」


「なんだと? そんなことは無い、ドミニク大公であればきっとライカ王の願いだと俺が接得すれば分かってくれる」


「監視カメラの映像を私も解析したわ」


「何か分かったのか?」


「どこにも細工された形跡は確認できなかったわ」


「なに!? どう言うことだ?」


「私たちが部屋を出て次にドミニク大公が入るまで誰もライカ王の部屋には入って無いわ。つまり、ライカ王を殺害したのは、ドミニク大公よ」


「なに!? 馬鹿なことを言うな! そんなことをするはずがない」


 俺は訳がわからなかった。俺はライカ王と同じくらいドミニク大公を尊敬していたので、パルタの言葉が信じられなかった。


「単純なことよ、ライカ王とカレンが死んで王位を継ぐ人は誰になるのか? 考えれば解ることよ」


「それは……、確かに王位を継ぐのはドミニク大公になるが、そんなことで実の兄と姪っ子を殺害しようと思うものか?」


「さあね、私は興味がないけれど。いまだにグロリアが何の制裁もなく野放しになっていることが信じられないわ」


「どう言うことだ?」


「私がシステムを調べたところ、少なくてもショウとグロリアはウロボロス海賊団と繋がっていることが分かったわ」


「なんだと? やはりグロリアも裏切り者だったのか?」


「ええそうよ。次いでにこのことはドミニク大公も知っていることよ」


「ドミニク大公も知っている?」


「わざわざルーシーの居ない時を狙って、私達を殺害しようとしてるのがいい証拠よ」


 俺は頭が真っ白になった。これまで信じていた人に裏切られたショックで心が折れそうになった。敵はこんなにも身近にいた? そしてあろうことか敵は亡きライカ王の願いだった、娘のカレンも殺害しようとしている。


「カレンを! カレンを助けなければ!!」


「彼女を助けたいなら、早くした方がいいわね。ドミニク大公にとっては邪魔な存在でしか無いわ。でも」


 パルタはそう言い淀んで俺の目を睨むと言った。


「EVEは本当に危険な存在よ。助かるためとはいえそんな危険な存在と融合したカレンの周りには常に死がつきまとうわ。それでもカレンを守ってやれる自身はあるの?」


 パルタは俺の目をじっと見ていた。俺は自信満々に


「守る以外に俺に選択肢はない!!」


 そう言うとパルタは観念したように微笑んだ。




 俺たちは牢獄を出ると真っ直ぐにカレンがいる地下の部屋に向かって急いだ、牢獄の鉄格子は覚醒した俺にとっては、針金のように曲げることができた。俺は少しだけエターナルエネルギーをコントロールできるようになっていた。途中で何人かの衛兵と鉢合わせたが覚醒した俺の敵ではなかった。


 ライカ王の部屋に到着するとすでに俺が牢屋を抜け出したことが分かったのかサイレンが宮殿中に鳴り響いていた。俺たちはライカ王の部屋に入るとすぐに地下にある秘密の部屋へと急いだ。



 俺たちが地下の部屋に入るとカレンの入っているカプセルの周りに人だかりができていた。研究者らしき人物がディスプレイをいじっている。カプセルの生命維持装置を停止させようとしていると思った俺はすぐに研究者数人を倒した。


 何人かの研究者は俺の姿を見て逃げて行ったが、逃げようとしない研究者をぶっ飛ばそうとした時、後頭部に激痛がはしって俺は勢いよく吹っ飛んだ。吹っ飛ばされる瞬間後ろを振り返ると俺を吹っ飛ばしたのはグロリアだった。


「少しは強くなったと思ったが、まだまだ私の敵じゃないね」


 グロリアの蹴りにより俺の半身が部屋の壁に埋まった。俺は壁に埋まった右半身を押さえながらグロリアを睨んだ。


「ショウと一緒にアル=シオンを裏切ったみたいだな」


「ふん! 何のことか私には分からないな」


「とぼけるな!! お前とショウがウロボロス海賊団と繋がっていることはパルタが証明してる」


 俺はそう言うとグロリアに飛びかかった。


「うおおおおお!!」


 俺の右ストレートをグロリアは防御した。代わりにグロリアの右パンチが俺のボディーに炸裂して俺はその場でうずくまった。


「ぐはあああああ!」


「ふん! 今のお前では私には敵わないよ」


 グロリアの蹴りにより再度俺は吹き飛ばされた。壁に激突して意識を失いかけた時、部屋のドアが開いてドミニク大公が入ってきた。


「ジークよくも兄を殺してくれたね」


「お……俺は………殺しちゃいない……」


「ふん! お前の言うことなど誰が信用するものか」


「ジークはライカ王を殺してないわ」


 パルタはそういうと大型ディスプレイに手をかざした。すると大型ディスプレイにライカ王が映し出された。


「これは? なんだ?」


 ディスプレイに映された映像は今いるこの部屋のものだった。パルタが淡々と説明した。


「昨夜この部屋に入った時に監視カメラを仕掛けておいたのよ」


「なんだと!」


 その場にいる全員の視線がディスプレイに釘付けになった。そこにはライカ王が映っていた。ライカ王はカプセルの中のカレンを心配そうに見ていた。ふと扉が開いて振り返るとドミニク大公が入ってきたとこだった。


 二人は少し話をしたようだったが、再びライカ王がカレンを見ようと振り返った瞬間、ドミニク大公が袖の下から出したナイフでライカ王を刺している映像が映し出された。ライカ王の服が瞬く間に血で真っ赤に染まっていき、血塗れのまま倒れて行った。


「な! なんだ! これは! こんなものいくらでも加工できるじゃないか!!」


「そう思うなら調べてもらっても構わないわ」


 パルタが冷静に返した。ドミニク大公は暫く悔しそうに考えていたが、含み笑いをした後に観念したのか本性を表した。


「はあー、まあいいか。幸いここには私の側近しか居ないので、ここで君たちを殺せば誰にも私が兄を殺したことは秘密にできるだろう」


「やはりあなたがライカ王を殺したのか!!」


「だったらどうした!! あの男は私がウロボロス海賊と繋がっていたことを知ると、私をこの星から追放しようとしやがった。当然の報いだ!!」


「なんだと!! このやろー!!」


 俺はドミニク大公に飛びかかったが、俺のパンチが届く前にグロリアの蹴りが俺の腹に決まり吹っ飛んだ。


「ワッハッハー!! なにが宇宙最強の戦士だ! 聞いて呆れるわ!! もういい!! グロリア隊長さっさと殺してしまえ!!」


 ドミニク大公が命令するとグロリアはゆっくりと俺に近づいてきた。俺はボロボロになった体に最後の力を振り絞って、カレンのカプセルへ近づいて行った。


 それを見てドミニク大公は笑いながら俺に言った。


「心配するな、お前を殺した後にすぐにその娘も殺してやるから」


「な……なぜ? カレンも……こ……殺すんだ?」


「なーに。大した意味はない。父親の後を追わせてやりたいと思う。私の親心だよ」


「なんだと? 生まれてからずっとカプセルの中で、眠ったままの幼い少女と、その少女をなんとか目覚めさせてやりたいと思う、ライカ王の……あんたの兄の思いを踏み躙るのか? それが貴様の本心なのか?」


「だったらどうする?」 


 どうすることもできないだろう、とドミニク大公は吐き捨てるように言ってグロリアに殺害するよう命令した。


「させるかあああああああああああああああああああ!!!!」


「八年間繋いできた命を!! ライカ王の思いを!! 俺は絶対に守る!!!」


 俺は怒りで目の前が暗くなっていくのを感じた。今までこんな気持ちになったことはなかった。


『ドックン! ドックン!!』俺の中で心臓の鼓動だけが激しく耳に響いていた。俺の周りの空気が渦を巻いているのが感じ取れた。


「だめ! その力は使っちゃ!」


 パルタが俺の体に飛びついたが、俺の暴走は止まらなかった。徐々に俺の周りの空気の層が厚くなっていくのを感じた。


 グロリアは俺の様子を見て只事じゃないと感じ取ったらしく俺に向かって飛び込んできた。俺はグロリアの攻撃を片手で受け止めるともう片方の拳で攻撃をした。

 

 俺の拳がグロリアの腹に炸裂すると、グロリアは勢いよく吹き飛ばされ石壁に激突した。グロリアは全身を強打して動かなくなった。


 俺の姿を見てドミニク大公は危険を感じ取ったらしく、すぐに地下室から出て行った。


「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


 俺は周りに集まった力を一気に解放した。俺の力によって宮殿は半壊した。俺は力を使い果たしてその場で意識を失ってしまった。





 俺が目を覚ますとパルタが微笑んでいた。


「ここは? どこ?」


「ストレイシープの中よ」


「あれからどうなった?」


「宮殿が半壊した後に、私達三人で逃げだしたのよ」


 俺が三人?、と言って横を見ると少し離れたところにカレンのカプセルがあった。


「カレンは無事か?」


「ええ。まだ融合中で目は覚めてないけど」


「そうか、それはよかった」


 俺は心底ほっとした。これで亡きライカ王との約束を守ることができる。俺は続けてパルタに質問した。


「ドミニク大公とグロリアはどうなった?」


「まだ生きているわ」


「なに? じゃ急いで倒しに行こう」


「それはやめた方がいいわ」


「なぜ? 今なら倒せる絶好の機会だと思うんだが」


「EVEの言っていたことを忘れたの? これからは、私たちは化け物から隠れて暮らすのよ。これ以上目立つ行動は控えた方がいいわ」


「このまま黙って見過ごすのか?」


「ええそうよ。あなたがあんな力を使ったからすでに居場所がバレたかもしれないけど」


「力?………そういえば……あの力はなんだったんだろう? 今まで感じたことがない力だったような………」


「エターナルマターよ」


「エターナルマター?」


「そうよ。エターナルエネルギーより数千倍の威力が出る力よ。でも……使っちゃいけない力でもあるわ」


「使っちゃいけない力? 使うと何か弊害があるのか?」


「エターナルエネルギーは物質に宿る力、多少使用しても潤沢にあるから問題ない。それに引き換えエターナルマターは星と星が引き合う重力の力、潤沢にあるけどあまり使用すると宇宙そのものを破壊しかねない恐ろしい力なの」


「宇宙そのものが無くなる……そんなとんでもない力なのか」


 パルタはそうよ、と返事をして真剣な顔つきになって言った。


「それとエターナルマターを使用するとあいつに気づかれる」


「ファーストヒューマン?」


「そうよ。あいつはエターナルマターを長年研究していたから多分今回のことで居場所は確認されたと思う」


「そうか。妹は? ルーシーはどうしている?」


「大丈夫。ガスパールにもアル=シオンに戻らないように通信したわ、もうすぐこの先で合流できるわ」


「そうか。それはよかった」


 俺は妹の無事が確認できてほっとした。俺はベットに横たわるといつの間にか深い眠りについた。

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