第6話 罠・裏切り①
俺は広い一室のソファーでドミニク大公が来るのを待っていた。ドミニク大公はライカ王の弟で王と同じくらい温厚で人柄もよく多くの人に慕われていた。
俺はウロボロス海賊団を壊滅した後、エミリア姫をルビオラ星に送り届け、たった今、アル=シオンに帰還したところである。
俺が帰還する少し前にショウは居なくなっていた。誰にも行き先を告げずに失踪したようである。ショウ以外の誰が裏切り者かわからないので、とりあえず、俺はドミニク大公に組織に裏切り者がいた事を報告しようと思った。
ライカ王へ報告しようとも考えたが、要らぬ心配をかけたくなかった。ライカ王のことだから組織に裏切り者がいる事を知ったら心底落胆する事が予想できたので俺は王を気遣ってドミニク大公に相談した。
程なくして扉が開くとドミニク大公が側近を連れて部屋に入ってきた。
「任務遂行ご苦労様、たった一人でウロボロス海賊団を殲滅した君の功績は大変すばらしい。これでアル=シオンの名声もさらに高まった。王族を代表して御礼を言わせてくれ」
「はい、大変光栄に思います」
「それで? 今回話があると伺ったが何かな?」
「はい。それが–––」
俺が側近の方に目をやると、ドミニク大公はそれを察知して側近を部屋から出ていくように指示した。俺は側近が出ていったのを確認して今回の事の顛末を説明した。
「なんだと? 裏切り者がいたのか?」
ドミニク大公は酷いショックを受けたようだった。
「グロリア隊長には話したのか?」
「いいえ、グロリア隊長も仲間の可能性がありますので、まずはドミニク大公だけに話しています。」
「そうか、分かった私が裏から事実関係を調べてみよう」
「兄(ライカ王)にも話してないのか?」
「はい、あまり心配をかけたくないので、話さない方が良いと判断しました」
「そうか、気遣ってもらってありがとう。この件は私が責任を持って調査にあたろう」
そういうとドミニク大公は最後に俺に労いの言葉を伝えると部屋から出ていった。
俺は自室のベットで横になりながらこれまでのことを振り返っていた。妹のルーシーは別の任務で他のエージェントと一緒に数日前にここを出て行っていた。裏切り者のことを伝えようとは思ったが、余計な心配をかけたくないので、今だに話していなかった。
裏切り者の魔の手が妹にも伸びるのではないかと思ったものの、妹はすでに覚醒していた。おそらく妹が本気で戦うと誰も勝てる者はいないだろう。そう思いながら考え事をしていると、扉を叩く音がして開けると人が立っていた。
「ジーク様、ライカ王がお呼びです」
俺は部屋を出るとライカ王の部屋へ向かって歩き出した。
俺は宮殿の地下へと続く階段を降りていた。ライカ王の部屋に呼ばれた俺は王に隠し通路を見せられ、ついてくるように言われた。この階段は王の部屋の隅にあり、壁に隠れていたためおそらく王と一緒じゃないと使えない階段だろう。
王は俺をどこに連れていくつもりなのか? 俺が困惑していると、間もなく階段の終点につき、大きな扉の前に着いた。王は扉に触れると何やらパスワードを打ち込んだり、目やら手のひらをディスプレイに近づて生体認証を行っている。
王が一通り操作を終えると電子ロックが解除されたのだろう、重そうな扉が開いた。王に催促されるまま俺は部屋に入った。
部屋には大きなディスプレイがあり、その前に大きな丸い棺桶のようなカプセルがあった。大きなカプセルの隣にディスプレイを見つめる女性が一人立っていた。
女は我々が入ってきたのに気づくとゆっくりと振り返りこちらを見た。女は美しかったが、何か違和感があった。生きているのかわからない幻影のようでもある。
パルタと同じネオAIでも無く実体は有るが、生命活動はしていない、そんな印象を受けた。
「いよいよ決心されたようですね」
女がライカ王に尋ねた。ライカ王は無言のままカプセルに近づくと俺に近くに来るように促した。俺は渋々カプセルに近づいた。カプセルの表面は透明なガラスになっていて中が覗けるようになっていた。
俺がカプセルの中を覗くと女の子が入っていた。女の子は俺と同い年ぐらいだろうか? カプセルの中で横たわって眠っていた。
「紹介しよう、私の娘のカレンだよ」
「なぜ? 眠っているのですか?」
「生まれつき体が弱くてね、この生命維持装置の中じやないと生きられない」
「生まれてからずっとこの中にいるのですか?」
「ああそうだ、生まれた時からずっと八年間このカプセルの中で、眠ったままだよ」
俺はカプセルで眠ったままの少女を哀れに思った。ゆっくりと謎の女が俺に近づき耳元で囁いた。
「この子を助けたくはない?」
「助かるのか?」
「私と融合することで助けられるわ」
「融合? この子の体の一部になるのか?」
「簡単に言うとその通りよ」
そう言うと謎の女はディスプレイを指さして説明し始めた。
「この子は生まれつき脳が100%覚醒される体質なのよ。この体質を生まれ持った子供は脳に栄養の殆どを吸収されて、体に栄養が満足に与えられず、臓器不全で死に至る。そのためカプセルで体に直接栄養を送り続けているわけ、でも私と融合することで不足する体の栄養を補うことができるようになり、カプセルから出ても生きていけるようになるの」
「お前は何者だ? そんなことが都合よくできるのか?」
「私は超絶人工知能EVE、あなたのお知り合いのネオAIのパルタよりも優秀な人口生命体で、その子を救える唯一の存在」
EVEはそういうと俺の肩に腕を回して顔を近づけてきた。
「だめよ!危険すぎるわ!」
いきなり背後で声がしたので振り返るとパルタがいた。俺はパルタに聞いた。
「融合しても助かる確率は低いのか?」
「いいえ、融合すれば確実に助かるし、融合に失敗する確率もゼロに近いわ」
「じゃなぜ? 反対する? 助かるならいいじゃないか」
「私が危険と言ったのは、その女を追っている人物が危険な相手だからよ」
「誰かに追われているのか?」
俺が女を見ると女は不気味な笑みを浮かべて話し始めた。
「ええそうよ、とんでもなく危険な奴にずーーっと追いかけられてるのよ、もうしつこいくらいに、いい加減飽きちゃうじゃない? だからこの子に融合して、あなたに守ってもらうことにしたの、そのためにあなた達を長い眠りから覚ましたんだもの、いいでしょ?」
「その危険な奴ってどんな奴なんだ?」
俺がEVEに聞くとパルタが代わりに話しだした。
「ファーストヒューマン《最初の人類》の生き残りよ、二千年前にファーストヒューマンは全員で別の宇宙に旅立ったけど、そいつはこの宇宙に居続けている化け物よ」
パルタが一点を見つめて話した、最後に私たちもファーストヒューマンに作られたのよ、とジークに聞こえない音量で付け足した。
「二千年前だと? そいつは不死身なのか? そんな化け物と戦えと言うのか?」
「戦って勝てる相手じゃないわ、でもあなた達であればあいつから私を庇って、逃げることができるわ」
「逃げてもいずれ捕まるんじゃないか?」
「いいえ、捕まらないわ、その
EVEはそう言うとパルタを指さした。俺がどうするか考えているとライカ王が俺の肩に手を置いて言った。
「ジークすまないな、損な役割を押し付ける形になってしまって、妻が五年前に他界してこの子を目覚めさせることが、私と妻の悲願だった。なんとか娘を助ける手段がないか方々を探し回ったが、結局この方法しかなかったのだ」
俺はカプセルの中の少女を見た。生まれてからずっと眠ったままでいる少女を気の毒に思った。この子が助かるのであれば、多少の危険は致し方ないように思えた。
「分かった。この子を一生守ると誓うよ」
「本当か? ありがとうジーク! この恩は一生忘れないよ。亡くなった妻もきっとあの世で喜んでいるよ」
ライカ王は俺の手を握って泣きながらありがとう、ありがとうと繰り返し感謝の言葉を繰り返した。
「早速融合に取り掛かるわよ。融合は一週間ほどかかるので、それまではカレンをカプセルから出してはダメよ、融合したら勝手にカプセルから出るからそれまで私達を守るのがあなたの最初の仕事よ」
そう言うとEVEは融合するためにディスプレイにキーを入力して空のカプセルに入った。
俺は暫く眺めていたが、ライカ王にここはセキュリティーが厳重な部屋で、ここに居る以上誰も中には入ってこれないので、自室に戻るように促された。
俺はカプセルの中で眠っているカレンを見て再度絶対に守ってやると誓ってその日は自室に帰った。
『ドン!ドン!ドン!!』自室のドアを蹴破る音で目が覚めた。ベットから半身だけ起こして寝ぼけ眼で見ると、何人もの人が俺の周りを取り囲んでいた。手には自動小銃を持っている。間違いなく兵士達だった。なにが起きたか分からず困惑していると、武器を持った兵士達をかき分けてグロリアが俺の前に出てきて捕えろ!!、とだけ言うと周りの兵士に俺は拘束されてしまった。
「なに? どういうことだ!!」
俺はいきなり入ってきて拘束される理由が知りたくてグロリアに問いかけたが、次に瞬間衝撃的な言葉がグロリアから聞かされた。
「ライカ王が何者かに殺された。お前が一番の容疑者だ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます