第2話 出撃

 一人の幼い少年がドアの前に立っていた。その向こうには彼の大好きな父や母がいる。少年は両親に会いたい一心でドアを開けるが、ドアの向こうに見えた光景は、大好きな両親が血の海に横たわっている光景だった。


 その傍らには自分より少し背の高い、よく知っている少年が血まみれの姿で立っていた。


「兄さん!……どうしたの?……」


「俺が……殺した……」


 兄と呼ばれた少年は呆然と立ち尽くす弟にそれだけ言うと申し訳なさそうに向こうを向いてしまった。


 ジークはあまりのショックに言葉を失っていた。


 兄のローゼン・アプリコットは次に何か言いかけたが、それと同時に爆発音が鳴り響き何を言っているかわからない。




 兄さん!、と言いながら俺ははっと目を開けた。どうやら夢から覚めてしまったようだ。また同じ悪夢を見たか……額を手で触るとグッショリと濡れていた。

どうやらかなりうなされていたらしい。


 先日冷凍カプセルから目覚めたばかりで頭が少し朦朧としていたが、あの時の光景は今でも鮮明に覚えていた。兄は何を言おうとしたのか?なぜ優しかった両親を手にかけてしまったのか何もわからなかった。


 カプセルから目が覚めると知らない大人が俺の顔をのぞいていた。


 その後アル=シオンの王という男に連れられてアル=シオン王の組織に加盟して現在に至っている。組織の名前はアル=シオンの星のエージェントなのでそのままアル=シオンと呼ばれている。主な任務は惑星間で起こるトラブルの処理を行なっている。


 兄も何処かで生存しているのかパルタに聴いたが、あの悲惨な光景から千年以上経過しているらしく、すでに死んでしまった可能性が高いと言っていた。


 当然ながら俺には千年もの長い間、宇宙を漂っていた実感はなかった。あの惨劇はつい先日のことのように脳裏にこびり付いて離れなかった。

 



 俺は目が覚めて体を起こそうとしたが体が動かないことに気がついた。妹のルーシーが俺のベットに潜り込んでピッタリと体に抱きついていた。


「おい……ルーシー……おい! 起きろ……」


 がっしりとホールドされていて動かない腕を無理やり外してルーシーの体を揺すって起こしてみた。


「ムニャムニャ……あれ……お兄ちゃん……好き♡……」と言ってルーシがまた力一杯抱きついてきた。せっかく外して少し自由になった腕がまたルーシーの腕に絡め取られてしまった。


「う…苦しい……」


 パルタから俺たち二人は最終兵器と言われる人工生命体と言われた。なんでもこの宇宙にあるエターナルというエネルギーを使用して莫大な力を使える戦士とのことだが、俺はいまだにその能力が使えない。でも、妹のルーシーは才能があるらしくエターナルを使えるので俺よりかなり力が強い。


 妹の腕さえ振り解けない自分に不甲斐なさを感じてしまい、すっかり目が覚めてしまった。俺はゆっくり妹のルーシーを起こさないように慎重にベットから這い出ると廊下をでた。


 体が汗でベトベトになっていたので、外の空気が吸いたくなり、展望台に行った。この建物の展望台は見晴らしが良く出撃しているエージェントの乗ったガンシップを見ることができる。


 早朝とういこともあり誰もいないのを想像していたが、先客がいたので驚いた。その先客がアル=シオンのライカ王だったので俺は二重に驚いてしまった。


 俺の姿を見るとライカ王は嬉しそうにニッコリと微笑むと俺のような下っ端に挨拶をしてきた。俺はそういう誰に対しても分け隔てなく接するライカ王が好きだった。


「王、このようなところでお一人でどうされました」


「何、いつもの日課ですよ」


「日課?」


 俺は意味が解らなかった。しばらくすると一隻のガンシップが発射台から宇宙へ飛び立った。 


 王はそのガンシップを見送るようにいつまでも見上げていた。


「死地へ向かうエージェントに私がやってやれるのはこれくらいしかないのでね」


 王は悲しそうに言った。


「毎朝ここで見送っているのですか?」


「昼間は公務が忙しくてね。自由な早朝しか見送ってやれないのが残念だよ」

 俺はますますこの王が好きになった。




 しばらくするとサイレンが鳴り響いた。緊急出撃のサイレンでこのサイレンが鳴るとアル=シオンのエージェントたちは出撃することになっている。俺が司令室に向かって走り出そうとした時ライカ王に呼び止められた。


「ジーク、必ず無事に帰ってきてくれ」


「はい! そのつもりです!」


 それだけ言うと俺は司令室に向かって走り出した。司令室に行く途中でルーシーも起きたらしく二人で合流して司令室に急いだ。




 司令室に着くと慌ただしそうに何名かのエージェントがガンシップに乗り込んでいた。俺がしばらく立ち竦んでいると後ろからジーク!!、と呼ぶ声が聞こえた。


「早くしろ! ウスノロ!」


 俺は何者かにいきなり後ろから首を鷲掴みにされるとガンシップの中にほうり投げられた。


「イタタタ……」


 俺は強か頭をガンシップの甲板にぶつけた。痛みのある患部を触ると、うっすら血が滲んでいた。投げた相手を睨むと視線の先に二人の大男が立っていた。俺たちの上官のゲキとショウだった。


「よくも! 兄さんを! 許さない!!」


 ルーシーがゲキとショウに向かって飛びかかろうとしたときに、やめろ!、一人の女性がルーシーを一瞬で羽交い締めにしていた。隊長のグロリアだった。グロリアもルーシーほどではないがエターナルエネルギーを使える数少ない人種であり、本気を出したルーシーを難なく抑え込むことができる。


「ク…クソ……は……放して……」


 ルーシーがそう言うとグロリアはゆっくり力を緩めていった。ルーシは解放された腕をさすりながらゲキとショウを睨んだ。


「グロリア隊長に感謝するんだな。この腰抜け!」


 ゲキが笑いながらガンシップに乗り込んできた。俺の横を通り過ぎる際にわざと肩をぶつけて通り過ぎた。再びルーシーが殴りかかろうと一歩前に踏み出したところでグロリアに行手を阻まれた。


「ジーク、ルーシー二人とも冷静になれ、出撃前に怪我をしては本末転倒だ」


「でもアイツらのせいで兄さんが怪我をしたのに!!」


「あのバカ二人には後で私から処罰してやる」


 グロリアはそこまで言うと俺に近づいて来た。ゆっくりと横を通る際に俺の肩に手を置いて、許せ、と一言いうと通り過ぎていった。


 俺たち二人はしばらくの間、遠ざかるグロリアの背中を睨んでいた。




 しばらくしてガンシップの司令室で今回のミッションが伝えられた。なんでも宇宙海賊のウロボロスというならず者集団がルビオラ星の要人を乗せた船を襲撃して要人を人質に取っているらしく、その人質救出が主な任務だった。


 俺たちの乗るガンシップはウロボロス海賊団の宇宙船に向かって進んで行った。

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