創星のエクソダス
白銀 一騎
第1話 人工生命体の発見
さまざまな残骸が宇宙空間を漂っていた。
アル=シオンの王であるライカ王は本当に目的の物がここにあるのか半信半疑でいた。
MSP7と呼ばれるこの場所は、はるか昔に宇宙を二分する戦争が行われた場所であり、以来ここには多くの宇宙船の残骸やらミサイルの部品など、いわゆる宇宙ゴミと呼ばれる残骸が大量に漂っている。
ライカ王の乗る宇宙船は一秒間に15万Kmの速さで宇宙ゴミの間を進んでいた。この速さではたとえ砂粒一欠片でも船体に触れれば船体に穴が開いてしまう速度である。
先ほどから時々見える残骸は小石ほどの物もあれば宇宙船を遙かに超える大きな物もあちこちに舞っている。
この空間では、如何に並外れた操縦技術を持った達人でも、一秒も生存できないだろう。そのため最近はAIに宇宙船の操縦を任せることになるのだが、これほどの危険な空間を走行できるAIは聞いたことがない。
ライカ王は目の前でこの危険な空間を難なく操縦している謎の女を見ていた。
「信じてないようね」
謎の女は振り向くとライカ王に近づき耳元で囁いた。
「大丈夫。必ずここにあるわ……そして貴方の娘の命も助かるのよ」
「し……信じていないわけではないのだが……」
ライカ王はそこまで言うと口籠った。
つい先日このEVEと名乗る謎の女が自分の目の前に突如として現れて娘を助けてやる代わりに、宇宙の最終兵器と呼ばれる人工生命体の捜索に協力しろ、と言ってきたのである。
ライカ王の娘(カレン)は今年で九歳になるが、生まれてからずっと昏睡状態だった。ライカ王は何としてても愛娘を助けたい一心で、EVEという謎の女の指示通り、こんな辺鄙な宇宙の端まで来ていた。
「本当にいいのだろうか?」
ライカ王がボソリと呟いた。
「何を悩む必要があるの?」
「いや……そんな最終兵器と呼ばれるような危険なものを復活させても良いものか……」
「大丈夫よ––– ほら、あったわ」
ライカ王が宇宙船のディスプレイを見ると巨大な戦艦の残骸が映っていた。巨大な戦艦のような船は船体の半分がなくなっていた。ライカ王を乗せた宇宙船は、巨大な戦艦の側面に空いた大きな穴から中へ入って行った。
宇宙船も巨大戦艦も同じ速さで進んでいたため一見すると止まっているように見えるが、少しでも船体が振れると一瞬でバラバラになってしまう。ライカ王は正気の沙汰ではないと思った。
EVEはライカ王がそんなことを思っていることなど気に止める様子もなく、どんどん戦艦の中に入っていった。宇宙船は暫く入っていったところで急に開けた空間にでた。
空間の中心部に大きな機械の塔が立っていた。宇宙船が大きな塔の前まで来た時に、EVEがコンピュータに何か入力した。すると機械の塔の中央部のシャッターが開いて宇宙船はその穴の中に入って停止した。
「さあ。降りるわよ」
EVEはそう言うとライカ王の手を引っ張って船外へ行くように案内した。
「どこに行くんだ?」
ライカ王は心配になりEVEに聞いた。
「この宇宙の救世主と悪魔のところよ」
EVEは楽しそうに笑って答えた。ライカ王はその言葉を聞いて一層不安に思った。
ライカ王とEVEは宇宙船から出て宇宙空間を移動していた。ライカ王は生身の人間なので宇宙服を着ていたが、EVEは宇宙船の中にいた時と同じ格好で移動していた。
ライカ王は生身で宇宙空間を漂うEVEを見てやっぱりこの女は人間じゃないと改めて思った。
ライカ王とEVEの進んでいる先に大きな白い玉が見えてきた。二人がその直径一メートルほどの玉の前に到着すると、EVEは玉に左手をかざした。次の瞬間二人は玉に飲み込まれた。
ライカ王は気がつくと真っ白な空間で立っていた。あたりを見回すとEVEも隣に立っていた。ライカ王は他に何かないか周りを隈なく見渡してみたが、地面との境すら分からなくなるような真っ白な空間だった。
ライカ王は自分の姿を見てびっくりした。いつの間にか宇宙服を着ていなかった。慌てて口を手で押さえたが息はできていた。ライカ王は恐る恐るEVEに聞いてみた。
「ここは? どこだ?」
EVEに聞くとあの二人の世界よ、と言って振り返った。ライカ王も振り返ると少女が二人立っていた。二人とも見た目は小学生ぐらいだろう。一人は銀髪でもう一人は黒髪の少女だった。いつから居たのか全く気づかなかった。突如としてそこに現れたという表現が合うだろう。
「君達が最終兵器?」
ライカ王が恐る恐る少女に聞いた。
「私たちはネオAIと言います。あなた達が探している最終兵器の頭脳担当……名前はパルタそしてこっちがガスパール」
どうやら銀髪の方がパルタで黒髪がガスパールと言う名前らしい。
「あれを見て」
パルタと名乗った少女が上空を指差したのでライカ王が上を見上げると真黒な物体が浮いていた。ライカ王には宇宙船のように見えた。
「あれは何だ?」
「ストレイシープです」
「ストレイシープ? そのストレイシープは君たちの船なのか?」
「私たちの船というよりは私たち自身」
「君たち自身?……いまそこにいるあなた達はあのストレイシープと言うこと?」
「はい……いま見えている我々は実体の無い存在」
「実体がない? 我々は幻を見ているのか」
「そうよ、私たちは……ストレイシープからでる電磁波であなたたち人類の脳に直接干渉して幻として出現している存在」
パルタはライカ王に近づいて手を握った。ライカ王の手にはパルタの手の感触がはっきりと伝わった。
「本当に君はここに実在しないのか? 私の手にはこんなにもハッキリと君の手の感覚があるのに?」
「ええ。そうよ、こうして実態は存在しなくてもあなたたちの脳に干渉することで、実際に私に触れたように錯覚を起こすこともできるし、私があなたに触れたような錯覚を起こす事もできる」
パルタはそう言うとライカ王の頬を撫でた。ライカ王は頬に伝わったパルタの手の感触をハッキリと感じて、まだ信じられないといった顔をしてパルタを見た。
パルタという銀髪の少女が受け答えをしていると今まで黙っていた、ガスパールという黒髪の少女が厳しい顔で聞いてきた。
「なぜ私たちを探している?」
彼の娘を助けるためよ、とEVEが答えた。
パルタがEVEを見て答えた。
「貴方は超絶人工生命体のEVEですね……如何して貴方がここにいるのですか?」
「さっき答えたでしょう。彼の娘を助けるためよ」
「なぜ? 私たちを眠りから醒まそうとする?」
「貴方の潜伏能力が欲しいからよ。もうあの男から逃げるのに疲れたのよ。私がこの男の娘を助ける代わりにあなたの力で私を匿ってちょうだい」
「断る……と言ったらどうする?」
「断ってもエイシェントの方は探して長い眠りから醒ましてやるわよ」
「なぜ? あなたがエイシェントを知っている?」
「あなたたちが頭脳を掌り、エイシェントが肉体を掌る。二人一組で最強の戦士になることぐらい知ってるわ」
「そこまで知っているのか。……わかったここに連れてくるわ」
そう言うとパルタと名乗った方の少女が両手を大きく振りかざした。すると目の前に大きな四角い物体が2個出てきた。棺のような形をしている。SF映画によくある中に人が冷凍保存されているようなカプセルのようだった。
しばらくするとカプセルの扉が上に開いたのでライカ王は恐る恐る中を見た。二つのカプセルに小学生くらいの年齢の男の子と女の子が眠っていた。
パルタはカプセルを指差して説明をした。
「男の子がジーク=アプリコットで私の半身、女の子がルーシー=アプリコットでガスパールの半身よ。兄妹で宇宙最強の物質エターナルを力に変えることができるエイシェントという人工生命体、そして私たち二人はエイシェントと共にいる存在、ネオAIのパルタとガスパールよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます