ループ・ザ・館⑩
「ははは、そんな馬鹿なことが・・・。 知らない間に麻酔でも打たれていたっていう方がまだ納得できる」
「誰が、何のために? 局所麻酔を疑うなら大貴が指定した箇所を殴ってやるよ。 どこがいい?」
「あ、いや・・・。 分かってる、そんなことは有り得ないって」
置かれている状況に検討がついたが、まだ解決する糸口は見えない。
―――今どんな状況にあるのかを正確には分からないんだ。
―――ただ一つ分かったことは、おそらく俺たち三人の肉体は既に死亡しているということだ。
―――・・・今の俺たちは霊なのか?
―――霊になったと考えればこの奇妙な状況も理解できる。
―――普通はタイムリープなんて起こるわけがないから。
―――山で遭難したところまでは憶えているんだけど、それ以降は・・・。
―――きっとその時に三人共死んでしまったんだろう。
―――そしてこの館が実際に存在しているのかどうかも不明だ。
―――だけどきっと今が霊としての最期の時間なんだ。
―――おそらくこのまま成仏するには納得できないという未練が、今夜という時間を繰り返させている。
―――沙里が死ぬ光景を何度も見てきた。
―――そして俺自身も何度も死んだ。
―――おそらく俺が死んだ後、大貴も死ぬことになっていたはずだ。
―――そうじゃないと三人が死んでいるという仮説に説明がつかない。
―――何故か俺だけが能動的な死だけど、多分大貴も沙里と同じように突然死しているはずだ。
大貴が恐る恐る聞いてきた。
「もう死んでいる俺たちがここから抜け出す方法は・・・?」
「それが分かればとっくにやってるよ。 と言っても、俺たち三人が死んでいるんじゃないかって気付いたのは今回が初めてだけどな」
「じゃあ、原因は・・・」
「おそらく俺たちが、いや、俺と大貴が今死ぬとして最も心残りになること。 それが原因なんだと思う」
「・・・そういうことか。 確かにこのまま死んだら、奇妙な言いようになるけど死んでも後悔することになると思う」
二人にとって思い残すことなんて一つしかない。 尚斗は抜け駆けしそうになったが、結局答えを聞けていないため無効だ。
「二人で告白をしよう」
おそらくそうすれば沙里が死ぬこともないのではないかと思った。 ただ巻き戻った時に記憶が残っているのは尚斗だけ。
「巻き戻った時間に大貴の記憶は残っていないけど、俺が何とか説得する」
「・・・分かった」
「全てを知った今、大貴自身に納得してほしい。 告白すれば三人の関係は壊れることになるかもしれない」
「・・・分かってる」
「それが怖くて今までこんな関係を続けてきたんだ。 沙里もそれが分かっていたと思う」
「そうだろうな」
「俺と大貴。 どちらを選ぶのかも分からない。 どちらも選ばれないのかもしれない。 選ばれなかった側は一人か二人かそれとも全員か、ここに囚われてしまう可能性もある」
そう言うと大貴は時間を置いて小さく頷いた。 ここに一人取り残されてしまうなんてあまり考えたくなかったのだろう。
「・・・あぁ。 でもこんな状況は異常過ぎるんだろ?」
「そうだ」
「尚斗・・・。 記憶が残っている尚斗は、今の俺の想像が及ばない程に辛いんだろうな」
「は?」
「今死んでいる沙里のことを見るだけで、こんなにも俺は悲しいんだから」
大貴は薄っすらと目に涙を浮かべていた。
「どうせ巻き戻るという事実が異様な状況に慣らされたというのはあるけどな」
「大切な沙里の死に慣れる状況が異常過ぎて、辛過ぎるんだよ」
「確かにそうかも」
大貴が静かに言った。
「・・・この無限ループが終わってしまえばどうなるのかは分からない。 それは確かに怖い。 だけど俺は尚斗の言葉を受け入れる」
「本当か?」
「あぁ。 一緒に告白しよう!」
「大貴・・・ッ! ありがとな」
そして尚斗の死をきっかけに最後の巻き戻りが始まった。
―――大丈夫。
―――もし俺が選ばれなくても大貴を恨んだりしないし、俺が選ばれるようなことがあっても、大貴を絶対に一人にはしないから。
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