ループ・ザ・館⑨




―――無茶苦茶だ。

―――時間が巻き戻っていることを沙里に伝えた瞬間、首が一瞬にして燃え上がり落ちた。

―――こんなのもう、どうしようもできないだろ。


尚斗は何度も同じ夜を繰り返していた。 大貴と色々と試してみるが全て無駄だった。


―――未だにタイムリープしている理由も分からない。

―――何らかの決められたルールはあるけど、それが分かっても解決法は分からない。


ルールは尚斗が死ねば館へ入る前に戻ること。 沙里に時間が巻き戻っていることを伝えるとその瞬間沙里は死ぬ。 そして、二時に沙里が死ぬということ。

あとは館を離れることはできず、鍵がかかってしまえば脱出することは不可能ということだ。


―――でもだから何なんだ?

―――ドラマや映画なら上手いアイデアが浮かんだり、どうしてこうなっているのかも少しずつ分かったりするのに。


もう数え切れない程に同じ時間を繰り返し、好きな女の惨たらしい死に様を何度も見て精神がすっかり疲弊してしまっていた。


―――・・・どうせ巻き戻るなら、心残りでもあった告白でもしてみるか?


大貴との約束で“絶対に抜け駆けはしない”というものがある。 ただそれも巻き戻れば大貴も沙里も記憶がなくなるため、自分が死ねばなかったことにできる。

告白の結果を知るのが怖いというのは確かにあった。 自分の記憶はなかったことにできないため、振られればそれまでだ。


―――でももうこんなに酷い状況になっていて、薄々もう駄目なんだろうと気付いている。

―――なら結果がどうであれ、巻き戻らなくなるその時が来る前に告白をした方がいいのかもしれない。


「ぐぅッ・・・」


大貴が沙里の死体を前に涙を流している。 今回の時間巻き戻りでは大貴には何も伝えていない。 何をしても無駄だという現実に、時折こうして流れに任せてみたりすることもある。

正直、それで終わってしまったとしてももう仕方ないと思っていた。


―――暢気に毎回沙里の死を悲しめるのもいいことだよな。

―――俺なんて、沙里が死んでいるのを見ても何も思わなくなっているっていうのに。


ただフリだけはするようにしている。 死ねば巻き戻るのは確かだが、大貴に罵倒されるのは気分的にいいわけがない。


―――次で試そう。

―――そして失敗したらすぐに死のう。


この後尚斗はこっそり自ら命を落とした。 そして時間が巻き戻る。


「沙里。 俺はずっと前からお前のことが好きだったんだ」


もう死ぬ前から告白する覚悟は決めていた。 だから迷うことなく沙里に向かって言い放っていた。 まだ巻き戻り直後のこともあり、館の玄関で本格的に事件が起こる前の時間。

二人にとっては唐突だが、尚斗にとっては下手に動くよりも告白しやすいと思ったのだ。

 

「ッ、は!? おい尚斗! 何抜け駆けしてんだよ!!」

「くッ・・・」


大貴はそれを見て激怒し、約束を破ったということで尚斗の頬を思い切り殴った。 鼻血が出て歯が欠ける程に本気の拳。 だがそこでふと気付くのだ。


―――痛ッ・・・。

―――あれ?

―――痛くない・・・。


痛みが全くと言っていい程に感じられなかった。 正確に言うなら衝撃は感じた。 激しい衝撃に身体が揺れ、確かに殴られたことを実感した。

にもかかわらず肉体的な痛み、つまり怪我によって生じる持続的な痛みが全くなかったのだ。


―――思えば、大貴に肩を毎回叩かれた時も衝撃は感じたがそれだけだった。

―――一瞬の死はそれまでだし、ナイフで刺された時もなるべく苦しまないようにと思っていたから、衝撃の後の記憶がほとんどない。

―――息を止めれば苦しい。

―――だけど息苦しさって本当にこんな感じだったか?


考えているうちにあることに気付く。 それはループから抜け出るヒントに繋がるものだった。


―――どういうことだ?

―――ま、まさか・・・ッ!


「沙里! 返事は・・・」


尚斗は告白を受けた沙里がどのような返事をするのか聞こうとした。 しかし突然沙里の頭が爆弾でも爆発したかのように破裂したのだ。


「ッ、おい! な、え? な、何をやったんだよ・・・」


大貴はその光景を見て信じられないといった風に動揺している。


―――やっぱりこうなるのか・・・。


「大貴! 抜け駆けをして告白したのは謝る。 だからちょっと話を聞いてくれ!」


大貴は震えた声で言った。


「は、話って何を言ってんだよ。 沙里が死んでんだぞ!?」

「それは分かってる」

「こんな、爆弾でも頭に埋め込まれていたみたいに・・・」

「俺は今夜を何十回。 いや、何百回と繰り返しているんだ」

「は・・・?」

「何をやっても無駄だった。 沙里は何度やり直してもつまらない理由で死ぬ」

「何だよ、それ・・・」

「事故なのか他殺なのか、それすらも全く見当もつかないような死に方で死ぬんだ」

「・・・尚斗、頭がおかしくなったのか?」


尚斗は大貴を殴った。 今までしていたようなビンタではなく腰の入れた本気のパンチを繰り出した。 先程のお返し、というわけではないが大貴の歯が欠け口から血を流している。


「ッ! おい、何をしやがるんだ!!」

「大貴、痛いか?」

「は?」

「そんな酷い怪我をしても本当は痛くないんじゃないのか?」

「・・・痛く、ない。 え? どうして? こんなに血が出ているのに全く痛くない!!」

「俺もこんな怪我をしても痛くないんだ。 でもこれは夢じゃない」

「あぁ。 夢かどうかくらいは何となく分かる。 まさか・・・ッ!」


察した大貴に頷いてみせた。


「俺たちは既に死んでいるんだよ」



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