ループ・ザ・館⑪




幾度となく見た開始地点、辿り着いた結論が正解であるのかはまだ不明。 ただそれでも沙里が単純に突然死するわけではないだろうと、何故かよく分からない確信がある。


―――そう言えば、どうして二時までのリミットなんだ?


謎の現象に全て答えが出るのかは分からない。 ただ尚斗と大貴の未練を考えるとあまり関係がないように思えた。


―――いや、気にしても仕方がない。

―――時間はまだまだあるな。 


沙里が風呂へ入り大貴と二人きりになれる時間を待って、全てを話し告白をしようと前回決めておいた。 大貴に理解させる手段は試行錯誤して最適なものを用意している。 そしてついにその時が来る。


「二人揃って告白するんだな?」

「あぁ。 どちらが選ばれても恨みっこはなしだ」

「・・・分かった」


二人の話が終わるとまるで狙ったかのようなタイミングで沙里が戻ってきた。 この繰り返しに随分と慣れたが、沙里の湯上り姿を見ると毎回心が高揚する。


「あれ? 二人共、何か大事な話でもしてた?」

「そう見える?」

「うん。 男だけの内緒話っていうヤツ?」

「まぁ、そんなところさ」

「ふぅん」

「それより、ちゃんと髪を乾かさないと風邪を引いちまうぞ?」

「分かってるよー。 お母さんみたいなこと言うね。 尚斗ってそんなに面倒見のいいキャラだったっけ?」

「たまには俺もいい奴になりたいんだよ」

「ふふ。 何それ!」 


沙里はタオルで頭を擦りながら窓の方へと向かっていった。 後ろ姿を見ているのに名残惜しさを感じつつチラリと時刻を確認する。


―――まだ21時前か。


二時さえ迎えなければどの時間帯を選んでも大差はない。 ただあまり遅くなると眠くなってしまうため、なるべく早くした方がいいのも事実だ。 離れていく沙里の後ろ姿を見ながら大貴が言う。


「俺さ。 尚斗とダチになれて、同じ人を好きになれてよかったと思ってる」

「ん? ・・・突然どうしたんだよ」

「だって俺たち死んでいるんだろ? 今しか言いたいことは言えないんだ」

「・・・まぁ、確かにな」

「恥ずくても伝えるのは今しかないって思ったんだよ」


今回で最期となったとしても悔いが残らないようにしなければならない。 それは尚斗も同じだ。 少し間を空けて尚斗も言った。


「俺も、大貴と同じ気持ちだよ」

「本当か?」

「あぁ。 好きな人が被ったのはよかったのか分からないけど、それでも大貴は親友でよかったと思ってる」

「でも告白は負けないけどな?」

「言ってろ」


二人の決心はついた。 まだ時間はあるがタイミングとして今は悪くなかった。 結局重要なのは二人の気持ちなのだ。


「どう? 月夜背負って絵になるでしょ」


沙里が窓を開けると湿り気を含む髪が風になびいていた。


―――俺は何度もこの夜を繰り返してきたけど、この展開は初めてだ。


何度もこの夜を過ごしてきたが、月光を沙里が背負った神秘的な光景は初めて見た。 同時に思うのだ。


―――そう言えば、ここって一階だろ?

―――窓は開かなかったはずなのに、どうして今開いた?


そう思っていると大貴が目配せをしてきた。


―――今が告白のタイミングか。


二人は同時に頷くと沙里へと近付いていく。 月光が生じさせる三人の影がエントランスに広がって、三つの影がくっつき大きな一つの影となった。

そのようなことは二人も知らないが、覚悟を決め告白するには絶好の場面だった。


「「俺は沙里のことがずっと好きだった!!」」


その言葉を言うと同時に尚斗の意識は白い光の中に溶けていった。


―――あれ、何だ、これ・・・?

―――死んで戻る時に似ているけど何かが違う。

―――それよりも告白の返事は・・・。


ループが終わるとして、それを聞けずに逝ってしまうのは未練が残ってしまう。 しかし、どうやらそうなるわけではなかったようだ。


“実はね。 あの夜を繰り返していたのは、尚斗だけじゃなかったんだよ”

“え!?”


その声はハッキリ沙里のものだ。 目を凝らしてみると白い光の中ぼんやりと沙里の姿が映っている。


“沙里? どういうことだ・・・?”

“私も大貴もずっと記憶は残っていた。 残っていて、気付いていないフリをしていたの”

“まさか・・・。 どうしてそんなことを・・・?”

“主たる理由は、何故か巻き戻りのことを話すと尚斗が死んでしまうからなんだけど・・・”

“俺に巻き戻りのことを話すと死ぬだって・・・?”

“でもどうしてそうなるのかは何となく分かった気がする”

“はぁ!? 意味が分かんねぇよ!”

“尚斗は私たち想いだよねっていうこと”

“何だよ、それ・・・。 つか、告白の返事は?” 


このまま死ぬくらいなら最後に返事を聞いておきたかった。 だが沙里は楽しそうに笑うばかりだ。


“え、それ聞いちゃう? 今ここに大貴はいないのに?”

“大貴?”


辺りを見渡してみる。 確かにここにいるのは尚斗と沙里だけだった。


“確かに。 大貴はどこへ行ったんだ?”

“とにかく今夜のことは、全て尚斗中心で起こっていたことだったの。 そして、その理由はね――――”



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