ループ・ザ・館⑤
目覚めるとまた館の玄関に戻っていた。
―――大貴の言っていた通り、またここへ戻ってくることができた。
―――沙里も無事に生きている。
―――さっき戻った時と全く同じタイミングのようだな。
やり直せるなら有難いことではあるが、尚斗自身今が夢なのか現実なのかよく分からなくなっていた。 突っ立っていると、やはり大貴がやって来て尚斗の背中を強めに叩く。
「何をしてんだよ! 早く入ろうぜ!」
「・・・」
「あ、強く叩き過ぎた。 ごめんって! 謝ってんだからあまり怒んなよ。 にしてもこの館、鍵がかかっていなくてよかったよなー」
そう言って大貴は奥へと入っていく。 やはり叩かれるところから流れが同じである。
―――俺の反応次第で大貴の言葉も変わってくるのか・・・。
―――突拍子もないことをやってみたらどうなるんだ?
―――たとえば扉が閉じる前に、この屋敷から一人出てしまうとか・・・?
そう思い真後ろにある扉を開こうとしたのだが時既に遅し。 一瞬目を離しただけだったはずなのに、既に固く閉じられていてビクともしない。
―――そんな・・・ッ!
―――ドアが閉まる音さえ聞いていないのに!!
―――ということはやっぱり、この館はどこかおかしい・・・!?
「尚斗ー? 何をやってんだー? 早く来いよー」
「あ、あぁ・・・」
そうなると先程大貴と交わした言葉が思い出される。 そしてそれは沙里が死ぬ時間になる前に話さなくてはいけない。
―――とりあえず沙里がいるところでは話せない。
―――沙里はもうすぐ風呂に入ろうとするはずだ。
―――そこが絶好のタイミング。
変に悟られないよう自然に過ごすよう努めた。 そしてその時間がやってくる。 沙里が風呂に入ったタイミングで早速大貴に時間を作ってもらった。
「あのさ。 話があるんだけど」
「何? まだ館に勝手に入ったことを怒ってんの?」
「いや、確かに勝手に入ったのはよくないと思うけど、背に腹は代えられないということで納得した。 本当に話したいことは別にあって、時間があまりない」
「何だよ、そんなに切羽詰まって。 じゃあ今聞くよ。 何?」
何度か深呼吸してから真剣な目で大貴を見る。
「俺は何回もこの館へ来た夢を見ているって言ったら、どう思う?」
大貴はしばらく尚斗を見つめ考えた後に言った。
「・・・夢? 尚斗はここへ来たことがあったのか?」
「いや、全くなくて今日が初めてだ」
「それでここへ来た夢を何度も見たことがあるってどういうこと?」
「話せば長くなるかもしれない。 ただ今大貴に伝えたいのは一つ。 この後起きる事件を未然に防ぐために協力してほしいんだ」
「事件? 何を言っているんだよ、尚斗。 怖くて頭がイカれちまったか?」
「そう思うのも無理はないんだけど、今は俺のことを信じてほしい。 信じて協力してほしい」
「・・・」
大貴は未だ疑心暗鬼のようで、どうすべきか考えているようだった。 だから尚斗も出し惜しみはせず、何故切羽詰まっているのかを話すことにした。
「・・・このままだと沙里が死ぬ」
そう言うと大貴はスッと表情を消した。
「大貴? ・・・おい、聞いてんのか?」
「・・・ふざけたことを言うなよ」
「こんな状況でふざけるわけがあるか! 本当だって!!」
「いくら何でも不謹慎過ぎる。 どういう意図があるのか知らないけど、流石に尚斗でもそんなことを言うのは許せないわ」
そう言って大貴は席を立つ。 明らかに不機嫌オーラ全開で、椅子に当たり散らしている。
「だから話を聞けって!」
「次、沙里が死ぬとか言ってみろ。 タダでは済まさないからな」
「ッ・・・。 じゃあ、どうしたら信じてくれるんだよ」
「・・・俺じゃなくても誰も信じないと思うぞ。 そんな荒唐無稽で阿呆な話」
そう言うと大貴は離れていった。 信じてもらえなかったことに深く溜め息をつくしかなかった。
―――くそッ、大貴が目覚めたら話せって言ってたくせに!
―――でも普通に考えて、信じてもらえるわけがないよな・・・。
―――大貴の協力が得られないとなると、今日も俺が一人で、沙里が死なないために寝る場所を考えないといけないのか。
ただそれが成功する可能性は薄い。 理由は分からないが、尚斗一人で手を打とうとしても全て無駄になるような気がしてしまうのだ。
―――もちろん大貴がいれば何とかなるという保証はない。
―――保証はないけど、一人で何かするよりは余程いいに決まっている。
そう思いこの後も大貴を説得し続けた。 だがずっと大貴は不機嫌なままで無理だった。
「ほら、二人共。 喧嘩しないのー」
そう言って楽しそうに笑いながら風呂から戻ってくる沙里。 毎度湯上りの彼女を見れることだけは、悪くないと思える。 しかし沙里が入浴を終えた後は大貴と二人きりになれる時間はなかった。
―――時間切れ、か・・・。
―――もう沙里がいては説得することができない。
大貴を説得することができないまま刻々と時間が過ぎていってしまった。
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