ループ・ザ・館④




「嘘だろ・・・」

「・・・」


ショックを受けている大貴とは裏腹に、尚斗はただその光景を茫然と見つめていた。 それに気付いた大貴が憤慨するよう言う。


「ッ、どうして尚斗はこんな時に冷静でいられるんだよ!!」

「冷静なわけがないだろ。 ・・・ただ、沙里が死ぬことを俺は知っていたのかもしれない」

「は?」


自分でも夢で見たから沙里が死んだなんて現実的ではないと思う。 それでも言おうかと迷ったが勇気を出して伝えてみた。


「俺、夢で見たんだよ!」

「夢? 夢って何の?」

「俺たち三人はこの館へ来た。 そして深夜になって寝ていたら沙里は死んだ!」

「はぁッ・・・!?」

「死んだ状況や死因は違ったけど、それ以外は俺が見た夢とほとんど同じなんだ!!」


大貴はゆっくりと立ち上がり尚斗と対面する。


「・・・こんな時に何を言ってんだよ。 頭がイカれちまったか?」

「そうじゃない! 本当のことを言っているだけだ!!」

「じゃあ尚斗がその夢を見たっていう証拠は?」


必死に夢の内容を思い出した。


「・・・この館にある電話は通じない」

「ッ・・・」


急いで大貴は部屋に備え付けられている電話を手に取った。 必死にボタンを回してみるが空しい回転音のみで繋がる様子はない。


「マジで繋がらない・・・」

「玄関の扉と一階と二階の窓は全て締まっている。 だけど何故か三階の窓だけは開いているんだ」

「・・・」


信じられないといった顔を見せながらも玄関と窓を実際確認しに行った。 自分でも半信半疑ではあったが、言った通り確かに夢で見たままの状況だ。

悉く自身が知らないはずの情報を尚斗が持っていたことで、大貴は唖然としていた。


「・・・ここへ来てからずっと尚斗は俺と一緒にいたよな?」

「単独行動をして確かめに行く時間なんてない。 あぁ、来る前から仕込んでいたなんて冗談を言うのは止めてくれよ? 手の込み方とメリットが全く釣り合わないんだからな」

「本当に全く同じ夢を見たんだな?」

「まぁ、本当に夢なのかは分からないけど」


あの現実感は思い返してみても夢だったとは思い難い。 そのせいで沙里が死んでしまった今も意識がふわふわと揺らいでいる。 全てが現実のようにも思えるし、全てが夢のようにも思えた。

再び信じられないといった様子で大貴は溜め息をつく。


「もしかしたら正夢になるかもしれないと思って、三人一緒の空間で寝ようと提案したんだ。 沙里が亡くなるかもしれないと思って不安だったから」

「・・・そうだったのか。 分かった。 それに俺の記憶が正しければ、時計台の下を選んだのは沙里自身だった。 もし時計台に何らかの細工があったとしても、地震も沙里の行動も予想できるはずがない」


大貴は自分が落ち着くように深呼吸して言った。 


「それで、沙里が死んだ後はどうしたんだ?」

「・・・俺はこの状況が嫌になって、この三階の窓から飛び降りたよ」

「なッ・・・!」

「そしたら気付けばここにいた! 館に入る前に時間が戻っていたんだ!!」


大貴は考えた後に言う。


「・・・じゃあ、これも夢だという可能性は?」

「それは俺自身よく分からないけど、もし夢だったらどうなる?」

「尚斗がもう一度飛び降りて死んだら、この悪夢から目覚めるということはないか?」


その言葉にギョッとした。 確かにあの時は窓から飛び降りたが、その時の恐怖はまだ残っている。 ただ痛みを憶えていないだけなのだ。


「いや、流石にそんな都合がいいこと・・・。 夢のまた夢とか有り得ると思うか?」

「・・・」


尋ねるも大貴はジッと見つめてくるだけだった。


「いや、無理だって! これが現実なのかもしれないし、また夢から目覚めるという保証もない!」

「でももし尚斗の話が本当なら、もう一度試してみる価値はあるだろ」

「いや、そうは言っても・・・」

「夢から目覚めたら、俺に夢の内容のことをまた話してくれ」

「でも・・・」 


迷っていると大貴は優しく笑った。


「安心しろ。 俺も一緒に落ちてやる」

「ッ、は・・・!?」


大貴は尚斗を窓際まで引っ張っていく。 抵抗したい気もするが、何だか複雑な気分だ。


「正直沙里が死んで、この館に閉じ込められたなら俺たちはもう終わりだ。 何もできない、希望もない。 ・・・だから少しの可能性にかけてみるべきだ」

「それはあまりにも人生を簡単に放棄し過ぎ」

「最初に見た夢の時、尚斗こそ簡単に自分の人生を放棄したんじゃないか?」

「ぅ・・・」 


そう言われると拒むにも拒めなかった。 大貴は尚斗の背中に手を添える。


「大丈夫だ。 行くぞ!」


そうして二人は三階の窓から飛び降りたのだ。



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