ループ・ザ・館③




―――これはどういうことだ・・・?

―――やっぱり夢なのか?


突っ立っていると大貴が来て尚斗の背中を叩く。 その衝撃に何となく憶えがあった。


「何をしてんだよ! 早く入ろうぜ!」

「あ、あぁ・・・」

「あ、強く叩き過ぎた。 悪い。 にしてもこの館、鍵がかかっていなくてよかったよなー」


そう言って大貴は中へと入っていく。 尚斗は混乱した頭を整理しようと必死だった。


―――・・・どういうことだ?

―――俺は今の光景を憶えている。

―――何だこれ、デジャブ?

―――沙里が死んだと思っていたのは俺の勘違いだった・・・?

―――いやでも、あんなに生々しいのは確かに・・・。


脳裏にこびり付いた映像は確かに沙里の死を意味していた。 だが実際に目に映るのは沙里が館の内部を観察している姿。


「止めよう。 沙里が生きていたことはいいことなんだ。 死んだことにする必要はないんだ」


不思議に思いながらも、二人の後に続き館を見て回った。 先程の時のような罪悪感は感じない。


「あ! ここキッチンじゃない?」

「あ、見てよ! 豪華なお風呂もあるじゃん!」 


館内は夢で見ていた通りの構図で目新しいものは特になかった。


―――初めて来た場所なのに、全て身に覚えがあるとか凄く違和感・・・。

―――でもこれが現実なんだよな?

―――沙里が死んだのは夢だった。

―――それでよかったじゃないか、安心した。


とはいえあれを完全に夢だったと思う気にはなれなかった。 もしかしたら予知夢というヤツなのかもしれない。

それならば館からすぐに離れるべきだが、危険という確証はないし外へ出たところで安全とは言い難い。 ガソリンがなければ本当に遭難してしまう。


―――・・・でも万が一ということもあるよな。

―――絶対にないとは思うけど、もしあの夢が予知夢だったら沙里が死ぬことになる。

―――・・・沙里を避難させておくに越したことはないか。


そして寝る直前になった。 不安に思った尚斗は二人に提案した。


「あのさ。 寝るのは一緒の部屋で寝ないか?」

「えー? どうして一緒?」


沙里は明らかに嫌がっている。


「いや、ほら。 ここは知らない人の館なんだ。 みんなまとまっていた方が、家主が現れた時に事情を説明しやすいと思うし」 


そう言っても沙里は嫌そうだった。 仲のいい友達とはいえ、彼氏でもない異性二人と寝るのは抵抗があるのかもしれない。


―――それでも今は沙里の安全が第一だから。


尚斗は頭の中から館の地図を引っ張り出す。 厳密には部屋ではないが適していた場所があったのだ。


「大広間とかで寝よう! 三人は離れて寝るから大丈夫さ」

「それならまぁ、いいけど・・・」


そう言うと沙里は渋々了承してくれた。


「大貴もいいよな?」

「まぁ・・・」


不思議がる大貴からも了承を得て大広間へ向かう。


「じゃあ、私はここで寝るー! 月明かりが入ってくるし少し安心するから」

「分かった」


沙里は大きな時計台の下で寝ることにしたようだ。 無理を言って一緒に寝ることになったため、ここは沙里の要望を聞いてあげた。


―――月明りのおかげで沙里の様子も見やすいし、いいか。


「じゃあ、俺たちは端で寝るか」 


尚斗と大貴は両サイドの壁に沿って就寝することにした。


「おやすみ」


電気に近い尚斗が明かりを消す。 そしてぐっすり眠っていた時のことだった。 突然大きな揺れで目を覚ますことになる。 正確に言うなら時計の鐘の音が聞こえた一瞬後に大きく揺れた。

どうやら地震のようで、震度にして4以上ありそうである。


「何だッ!? 地震か!?」


だが目覚めた時には既に遅かった。


「沙里!!」

「ッ!」


大貴の叫び声が聞こえ急いで明かりをつけてはみたが、既に沙里は時計台の下敷きになっていた。 重厚な時計はかなりの重量がありそうで、倒れた下からは放射状に赤い液体が飛び散っている。


―――・・・は?


偶然にしても運が悪過ぎる。 倒れていたのは時計台だけで、他のものは一切動いていない。 いや実際は揺れはしたのだろうが、倒れるようなものが時計くらいしかなかったのだ。


「何をやってんだ! 尚斗も手伝え!!」

「あ、あぁ・・・」


―――どういうことだ・・・?


よく分からない今の状況。 頭で整理ができていないまま協力して重たい時計台をどかした。


「沙里ッ・・・!」


急いで容態を確認するも沙里は既に事切れていた。



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