第22首 文屋康秀_高校生6

吹くからに 秋の草木のしをるれば むべ山風を嵐といふらむ

 

 ちゃんと好きだったんだけどな、トモのことも。別に二股ってほど二人と付き合っているなんて意識していなかったし。

「仲直りした方が良いと思うけどね」

 スタバの新作をストローでかき混ぜながら、チハルが言った。

「喧嘩してるわけじゃないけど」

「でも、りおは別れたくて別れたわけじゃないんでしょ?」

 何も言えなかった。別れたくないと断固として言えるほどではないけど、別れてしまったのは寂しい。

「恋は下心って言うじゃん」

「何それ」

「恋って感じには漢字の下に心があるでしょ。大学生の彼には下心があっただけなんだよ」

 りおがね、と付け加えて言った。確かに年上のその男の顔はどタイプだった。顔だけじゃなく、服装とか趣味とか全部がタイプだった。

「恋愛してるんだから、別にいいじゃん。下心?があったって。恋なら」

「そうじゃなくてさ、トモ君に対しては愛だったんじゃない? 真心の愛」

 トモとは高校一年から付き合い始めて、一年とちょっと。なんでチハルにこの関係が真心だったと言わなければならないのか。まるでトモが真実の恋人で、こないだ会った男はたまたま出会った当て馬だと言わんばかりだ。少しイラッとした。

「じゃあ、LOVEは?」

 恋も愛もLOVEっていうじゃない、とチハルに少し挑むような声色で言った。

「漢字の話をしてるの」

「でも、私とイケメンの関係は恋でも愛でもなくて、ひょっとしたら両方のLOVEだったかも知れなくない? 」

 長い付き合いの方がトモヤで、短い方がトモハルだから、チハルと話す時はトモハルのことをイケメンと呼んでいる。トモヤだってカッコいいけれど次元が違った。

「両方のLOVEだったら音信不通にはならない」

 知ってた。トモと別れた後、イケメンと音信不通になった。原因は不明。

 はぁ、と二人して違う意味のため息をついた。

「今となっては、恋でも愛でもLOVEでも、この話自体不毛だよね」

 私たちは、こうやって特に結論の出ない会話をかれこれ一時間は話していた。付き合わされているチハルは流石に呆れられたのか、スマホをいじり始めたかと思うとふふっと笑った。

「何? 誰のSNS? 」

 まだ笑った顔のまま(笑顔とは言い難い、にやけた顔で)スマホの画面を向けてきた。

 

 不可算名詞

 a〔家族・友人・祖国などに対する〕愛,愛情

 

「辞書? 」

「そうそう、LOVEの意味。最後まで見て」

 スクロールした。

 

 不可算名詞 【テニス】 0 点,無得点,ラブ

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