第18首 藤原敏行朝臣_高校生5
住の江の 岸による波よるさへや 夢の通ひ路 人目よくらむ
最悪である。
夢で良いから会いたいなんて言う奴らは、どれだけ自分の脳みそに自信があるのか。
ベッドの中で行儀よく左を向いて寝ていた。目が覚めた時と同じ体勢で、微動だにせず目と脳だけが覚醒している。
夢に出てきたのは元カノだった。元カノには二股をされていて、捨てられた。俺の事もちゃんと好きだったよ、という残酷な置き土産を残して。あれから一ヶ月以上が経って、自分の中でようやく整理がついた頃だというのに。
夢の中で、元カノは俺の腕に寄りかかるほど体重を乗せて密着しながら歩いていた。その体勢で見上げながら話す仕草は夢の中でも可愛かった。きっと、夢で会いたいという奴らは、そんな幸せな頃の自分を再体験したいのだろう。そんなものは無理だ。何しろ当の本人が変わってしまっている。
話しかけてくる元カノに、適当に話を合わせながら、夢の中の俺は二股されているんだな冷静に考えていた。そして、元カノは二股がバレていることを知った上で、さも気づかれていないかのように甘えているんだと、夢の中の俺は確信していた。それでも、俺は冷静だった。ひょっとしたら、現実で二股が発覚した時に、それでも別れたくないと思った自分を夢で見たのかもしれない。最悪だ。
夢は気づきを与えてくれる事もある。知らなかった自分の一面や、周囲の人間への感情、見え方。確かにこの人物はあいつだと確信するのに、どこか少しだけ不完全の登場人物。自分は相手のことをこういう風に見ていたのだな、とハッとさせられる。
夢の中の元カノは、確かに可愛かったけれど好きだなとは思わなかった。現実で俺の腕に寄りかかって一緒に歩いた日のような、愛おしい感情は一切湧かなかった。あの時の真実は一体どちらだったのだろうか。等しく可愛い元カノなのに、夢が彼女の存在を曖昧にさせている。
微睡む。
俺の脳はまだ記憶の整理をしたいらしい。やめてくれ、理性が気づかせなかった自分にも元カノにも気付きたくない。
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