第19首 伊勢_異世界
難波潟 みじかき芦のふしの間も 逢はでこの世を 過ぐしてよとや
あとたかだか六十年か七十年程度だ。あいつらからしたら、「またね」で済む瞬きをするかのような時間かもしれない。でも俺は、これから大学に行き就職し、ずっと女の子たちに囲まれていたから今は恋人なんて考えられない(し、あいつらより可愛い女なんて、そうそういないんじゃないかと本気で思ってる)けど、ひょっとしたら恋愛をして結婚だってするかもしれない。ただだか数十年で待ち構えるイベントが多過ぎて、呆然としてしまう。
そう思ってはみたけれど、イベントの数や重さは、あっちにいたときの方が多かったかもしれない。気付いたら意味も分からずステータスを与えられ、いろんな個性豊かな奴が俺の周りに現れた。信じられないような身体能力を持った人間に、人間以外に、話せる動物に魔法のような不思議な力。仲間が増え、死に、敵を倒し、街を復興し、生まれて初めてハーレム状態を経験した。想像もできないようなイベントだったけれど、あっちの世界の時間は、そのハイレベルすぎる出来事でさえも濃度を下げてくれるほどゆったりと流れていた。あっちの人間の寿命は約千年だと言う。こっちの人間の十倍生きるのだ。
俺は半年前、高校二年生の春に交通事故に遭い死亡した。気がつくとヨーロッパ、あるいはディズニーランドの街並みの路地裏に落ちていた。後から聞いた話だと、本当に落ちてきたようだ。夢でも見ているかと思ったけれど、夢どころか夢に見るはずもない知らない世界に飛ばされていた。異世界だった。
異世界で会った仲間と世界を救うという大層な目的を持って旅に出た。幸い俺は例に漏れずチート能力を与えられて、苦しく悲しい思いもしたけれど、立派に世界に平和をもたらした。その成果を讃えられ、異世界の神は俺の望みを聞いてくれると言った。言ったが、聞いてはくれなかった。神は一人納得したように、うんうんと頷きこう告げた。
「元の世界に戻してやろう。そしてその生を全うした後にまたこの世界に転生するが良い。」
見透かされていた。
この世界に残した友人や家族、生活のことを忘れるはずはなかった。でも、異世界の仲間達と二度と会えないということも想像できなかった。神は、俺の心を読み望みを叶えてくれた。そう思った。
あとたかだか六十年か七十年、いずれ会えると知ってはいても長い時間だった。
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