第6首 中納言家持_中国人
かささぎの 渡せる橋におく霜の
白きを見れば 夜ぞ更けにける
「これが百万ドルの夜景です」
出張で来た日本人に、香港の観光スポットである夜景を案内した。いくつかある鑑賞場所のうちこのテラスを選んだのは、会議が押すことを見越していたからだ。ここなら同じ敷地内で夕食も一緒に済ませることができる。
眼下に広がるビル群から発せられる明かりを見て、出張者たちは私に聞き取れない日本語で感想を言い合っていた。笑顔で夜景を見ていたので、楽しんでもらえたようだ。
「フォン ジーン フェイ チャー……」
一人の若い日本人が、何か伝えようとしてくれていた。
「风景非常漂亮」
ニコッと笑い、喜んでくれて嬉しいですと日本語でつけ加えた。彼は照れたように笑った。
この景色を百万ドルの夜景と呼ぶのは日本人だけらしい。しかも日本のどこかの景色を数十年前当時の電気代に換算したものだというから、現代の目の前の景色は二三百いや五百万ドルはくだらないだろう。
私には、まだこの美しさが分からなかった。
家族を養うため、何より自分の夢のため、内陸の故郷を離れて香港のこの都心で働き生活することを選んだ。ここにはある程度の自由と女性の権利、努力すれば社会的に認めてもらえるという可能性がそれなりに存在する。一方で、星一つ見えないこの夜空のように、ひょっとしたらそんなものは存在しないのかもしれないと思う日々もあった。香港にも世界中のどこであっても。
満遍に輝く星々を見下ろした。
現代の夜空の星は、それがあると知って、目を凝らして見ようと努力する人にしか見えないものなのだろうか。
故郷の降り注ぐような星空を思い浮かべて夜を見上げた。
「Hope! 」
イングリッシュ名を呼ばれ咄嗟に振り返った。
目の奥に香港と故郷の星々が重なって煌めいていた。
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