第3首 柿本人麻呂_高校生

あしひきの 山どりの尾のしだり尾の ながながし夜をひとりかもねむ


「明日の体育嫌だね」

 夜八時半頃に送ったメッセージはまだ返信がない。いつも八時半から九時の間にメッセージをくれるのに、もう十時を回る。お風呂を出る頃には、とまだ濡れた長い髪を乱暴にまとめ、急いでないふりをして、期待していないふりをして、リビングに置いたスマホを取りに行く。テレビの旅番組は富良野のジェットコースターの路と呼ばれる真っ直ぐ続く道路を紹介していた。番組を見ている家族なんて何も気にしていないのに、誰でもない自分を欺くため、わざとゆっくりと何気ない態度で画面をオンにする。メッセージはない。

 自分の部屋に行き、スマホをベッドに放り投げて自分も放り投げて、はーーっと大きなため息を枕に沈めた。

 この時間が嫌だから、すぐに返信をくれる時間に連絡しているのに。

 もう一度、既読とついている自分のメッセージを見返した。万が一、返信がなくても良いように、返信してもしなくても良いようなメッセージを送ったのだから、返事があったらラッキーくらいに思えば良いのに。無理。充電コードを手繰り寄せる。

 いつもは、返信があったらそれを未読のままお守りのようにして眠りにつく。明日もやりとりができるから、繋がっていると信じられるから安心して新しい明日を迎えられる。

 クラスメイトのSNSをチェックする。りおが写真をアップしていた。バイト先の新作パスタが美味しいそうだ。フォークで巻ききれず垂れ下がった二、三本の奥から覗くように笑っている。

 ピコン

 振動と一緒にメッセージの受信を知らせる音が鳴る。思わずビクッと心臓が跳ねたが、すぐに待っていたメッセージではないことが分かり着信メッセージをスワイプする。返信する気にならなかった。

 自分を守ってばかりじゃ恋愛なんてできない、と歌った歌があった。自分を守ることはそんなに悪いことですか? 傷つくのを恐れることはそんなにいけないことですか? 怯えるほど恋しいこの気持ちはどうすれば良いですか?

 夜十二時、覚醒した頭は彼が返信できない理由を考える。どうか私を眠らせてください。スマホをおやすみモードにして画面を伏せた。返信があってもなくてもスマホは鳴らないんだから、朝までもう絶対に見ないと心に決める。長い長い一人きりの夜。

 

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