第2首 持統天皇_田舎の少年
春過ぎて 夏来にけらし白妙の 衣ほすてふ天の香具山
色に匂いがあるなら、白は太陽の匂いがすると思う。
梅雨も後半、久しぶりの快晴になった。縁側で横になりアイスを口に突っ込んでいると、目の前を遮るように真っ白いシーツが広げられた。田舎の庭のだだっ広い敷地で、何も目の前に干さなくてもと思ったが、シーツ越しの日の光が思いのほか異世界で美しかった。
実際にふわりと香ってきたのは、洗濯洗剤の匂いだった。誰からも嫌がられない程度の、清潔であることを主張する匂いだ。青だと思った。石鹸の香りは白でなくて青だと思う。そう感じた理由はすぐに思い当たった。洗濯洗剤のパッケージの色だ。
アイスの棒に溶けたオレンジが垂れてきて、思わず舌が伸びた。面倒になって、シャクシャクと一口二口で食べさしのアイスキャンディーを口に頬張る。辛いものを食べた時みたいに、口に空気を含んで冷たさを中和させようとした。吐いた息が白く感じた。
オレンジの匂いはオレンジ色、チョコレートの匂いは茶色(ギリギリまでチョコレート味のアイスにしようか悩んでいた)、石鹸の匂いは青色、匂いのイメージはほとんど視覚からきているんだなぁと思ったが、そもそも色が視覚的要素なのだから当たり前だった。
色は光の反射で感じるものだと、学校だかテレビだかで聞いたことを思い出した。口に残ったアイスの木の棒を奥歯で齧りながら、可能な限り体勢を崩さず精一杯腕を伸ばしてスマホを引き寄せた。Wikipediaで正誤を確かめようと試みるが、ちょっと何を言っているか分からなかった。他のサイトを見るとどうやら自分の記憶は正しいらしい。『私たちは反射した光の波長(色)を、そのものの色として感じ取っています』だそうだ。さらに続けて『白く見えるものは、さまざまな色の光をぜんぶ同じように反射しているのです』と書いてあった。それならば、と思った。ぎゅっぎゅっと噛み締めた奥歯に木の味がした。それならば、太陽の下で見る白は、太陽の光そのものだと言っても良いのではないか。
外していた分厚い眼鏡をかけ直すと、白や他の色に溢れていた世界が明確になった。シーツの端には細かい花の模様が入っていたし、なんだかよく分からない散らかった紙切れの文字がはっきりと思考に入ってくる。今日は特売日だそうだ。
口に含んでいた歯形の付いた木の棒を出して、よいしょと立ち上がる。体の下側になっていた方の脹脛が汗ばんで、床板から剥がれるような感触がした。ぐっとと背伸びをする。
白に溢れた季節が始まる。
(引用)キヤノンサイエンスラボ・キッズ 雪はなぜ白い?
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