第001話 「勇者現る」
「くっ……ここまでか……」
勇者は歯ぎしりしながら剣を杖にして立ち上がった。
世界を破滅へと導く魔王軍に対抗すべく世界中から四人の戦士が集められた。
勇者、女剣士、魔法使い、精霊使い神に選ばれ世界の平和と秩序を守るために彼らは魔王軍の中心部――魔王城へと攻め入ったのだ。
しかし、結果は惨敗。
這う這うの体でからくも逃げ出すことには成功したのだが、そこで力尽き動けなくなってしまった。彼の後ろで倒れ伏した仲間たちはすでに逃げるどころか動く力さえ失っていた。
勇者は死を覚悟した。
魔王城での戦いは一方的、勇者たちに万に一つも勝てる見込みはなかった。
(こんなところで朽ちてしまうとは……無念!)
故郷に残してきた家族になんと詫びればいいのだろうか。
生きて帰ってきて! と送り出してくれた姫君。
貴様に娘はやらん! と追い出してくれた王。
どの顔も懐かしく、姫様ならば死ぬ前にもう一度会いたいなと自分の欲望に正直な勇者だった。
不意に光が勇者たちを包み込む。
景色が一変した。
周囲に満ちていた熱気が消え、涼しげな風が頬を撫でる。
(ここは……どこだ?)
周囲を見渡す。魔物の気配は――ない。
「あの……勇者様ですよね?」
声をかけられた。
顔を上げると一人の少女と目が合う。
彼女は勇者の手を取るとそっと白い物を差し出してくれた。
「これは……?」
初めて見る白い……おそらくは菓子。
「勇者様、かるかん食べます?」
それが、勇者と由美との最初の出会いだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます