本当のやり直し編
第151話 黙っていられるわけないだろ?
気がつくと、薄暗い石壁に囲まれた部屋の中にいた。
ジメジメとした湿気が体にまとわりつき、まだ春先なのに身震いするほど寒気を感じる。
どうやらここは前回と同じく地下の牢獄の中のようだ。
気を失って看護するためなら普通はベットの上に運ぶものだが、この時点で俺たちをここに放り込んだ人物の性格が伺い知れる。
辺りを見渡すと、見知った生徒達と担任の教師が喚き叫んでいた。
さっきまで教室、(いや神の部屋を経由していたか)にいたはずが、次に目が覚めたら牢屋とか悪夢もいいところだろう。
俺はこの召喚がこの国のせいではなく、神によるものだと知っているから本当の悪は神ではないかと疑ってしまうよ。
「ここ、何処だよ!」
「なんで俺たち閉じ込められているんだ!」
「お家に帰してよー!」
「み、みんな落ち着いて~!」
出口と思われる場所は鉄格子になっていて、俺達は何者かに投獄されている状態だ。
前と同じ状況だというのは本当らしいな。
程なくして、扉の向こう側からガチャガチャと音が聞こえる。
出れると思ったのか、1人の少年がトビラが開く瞬間を狙って飛び出そうとした。
だがしかし残念。吹き飛ばされて戻ってきた。
辺りには悲鳴が木霊し、もはや収拾がつかない状態。
俺はこの光景を一度見ているので慌てたりしない。響子に至っては、半泣きになりながら生徒を宥めている。
前の時には思わなかったけど、随分と幼い印象だ。きっと普段は気を張っているだけで、あれが素の姿なんだろうなぁ。
以前と違い、俺はいつでも脱出が出来る。
なんなら、この国を力で支配することも容易いだろう。
今の俺に抵抗出来るのは、マリウスとその配下の暗殺部隊だけ。それでも、予め準備していない今なら脅威にすらならない。
ただ、アイツの目的が分かっている今、無駄に敵対しても仕方ないのだよな。
だからといって、響子や生徒たちを人質にされるのは困るので阻止するつもりだ。
「良くぞ参った、異国の者達よ。
我はこの国の王、ワルダーユ四世だ。
この国が未曾有の危機に晒された故、そなた達を召還した。
この国のため、我の為にその命を賭けて救うが良い」
気がつくと王の謁見の間に連れていかれていた。
太めの体型に、鼻下と顎に立派な髭を生やして頭には黄金の冠をかぶる男が俺らに向かってそう言い放つ。
覇気が無いくせに偉そうにしている王様らしき男は、それだけ言うと立ち去ろうとする。
そうはさせるかよ。
「待てよ、ワルダーユ四世。
俺はお前に言いたいこと、聞きたいことがある。
──そう例えば、『北の魔王』と戦争するのかとかね」
思ったよりも声が通って、自分でビックリするけど気にしている場合じゃない。
ワルダーユ四世は、俺の言葉に驚きの表情を浮かべながらこちらに振り返り戻ってきた。
「貴様、その情報はどこから盗み聞いた?
まさか、適当に言ったのであればこの場で処刑させるぞ?」
声にドスを効かせて、脅すように俺に言うワルダーユ四世。それに合わせて、周りにいる衛兵も剣を構えた。
「お前如きにそれが可能なのか?
お飾りの王様さん」
「黙れ下郎が!!
大人しくこちらの言うことを聞いておれば良いものを!」
「はんっ! お前らが俺たちに自由を与える気が無いことは分かっている。
だったら、黙っていられるわけないだろ?」
「なんだと貴様っ!!」
俺の挑発に乗り、青筋を立てながらこちらを睨みつける。その声に合わせて、衛兵も詰め寄ってきた。辺りは一触即発の雰囲気に変わった。
しかし、それを割って入って止める者が現れる。
「お待ちください、王よ!」
意外と言うべきか、見るからに高級な青いローブを着た、王の側近だった。
「まぁまぁまぁ。ここは私に任せてください王様。
ささ、お下がりください」
そのまま騎士に命じて、王を下げさせる青いローブの男。王はまだ喚いていたが、そのまま騎士に連れられていった。
ふわりとフードを下ろして、こちらを睨みつける青いローブの男。現れたのは金髪にグレーの瞳を備えたかなりのイケメンだ。
「ねぇ、オッサン。あんた何者なんだ?」
「やっぱりマリウスか。
俺はリューマ。勇者では無いがお前より強い用務員さんだよ?」
「そんなバカげた話を信じるわけ……、『鑑定』が出来ない?
あんた、阻害系のスキルがあるだろ。
だからって、そんな危ないブラフをするもんじゃないよ?」
どうやら、俺のステータスが鑑定出来なかったせいで阻害系スキルで見えなくさせて、ハッタリをカマしていると誤解されてしまったみたいだな。
(それであれば、一部だけ見えるようにしますかマスター)
(おー、タニア。ちゃんと一緒に来ていたんだな?
姿が見えないけど、何処かに隠れているのか?)
(私は光の精霊として生まれ変わりましたので、実体を所持していません。
この世界にいるクリスタニアとコアを手に入れれば、また実体化することも可能になります、マスター)
(そうか、それならミィヤの救出が終わったら取りに行こうか。よし、ステータスの一部だけ開示してやってくれ)
(はい、よろしくお願いします。
承知しました、マスター。一部だけ開示しますね)
開示した瞬間、驚いた顔になるマリウス。そしてそのままヤバい奴を見る顔をして、杖を構えた。もはや臨戦態勢だな。
しかし、ステータスが見えたなら分かっているはず。俺には敵わないということを。
「お、お前は一体何者なんだ?!
勇者でもなく、それでいて人間には有り得ないステータスをしているだなんて」
「そんなに怯えなくてもいいぞマリウス。
なーに、ちょっと神とか言っている奴にお使いを頼まれたんだよ」
「なんだとっ?!
というか、なんで俺の名前を知っている?
もしや、北の魔王の配下なのか?」
「ハズレだ、今言っただろう?
俺は神に頼まれて来たのだとね」
そこで聞きなれた声が聞こえてきた。
「おっちゃーっん!」
大胆にも後ろから飛びついてきた女子。
そのよく育ったものが、服越しでもダイレクトに伝わってくる。
「その声、鈴香か?!
いきなりどうした?」
「一緒に来ていたんだね!
あの変な空間には居なかったから、もう会えないと思ってたんだよ」
鈴香は元々こんな性格ではあったけど、最初はここまで大胆な行動するタイプでは無かった気がするけど……。
『あ、そうだ。君と仲が良かった仲間の好感度はそのままにしておいたよ。もちろん記憶は引き継いでないけどね。
君も、その方がやりやすいでしょ?』
たくっ、いらん気を回していやがるな。それなら先に言っといて欲しいな。
「別の空間にいたのさ。
鈴香、取り敢えず大事な話をしているから一旦離れような?」
はーい、と残念そうに言って離れた鈴香。
元気印のポニーテール心做しかションボリと垂れ下がって見える。
しかし、改まって見ると男子に人気なのが理解出来るほどの美少女だな。これからもっと美人になるだろうか、将来が楽しみだな。
「さて、マリウス。
『召喚に失敗した筈の勇者がなぜ現れたのか』を知りたくはないか?」
「なっ?!
お前、何を言っているんだ……」
「こんな所では何だからさ、落ち着いて話せる所に行きたいんだよ」
「……どうやらブラフでは無さそうだな。
何を企んでいるのか分からないけど、いいだろう。
おいっ、勇者たちを全員を大食堂に案内しろ」
近くにいた騎士に指示を出すマリウス。手足のように部下を扱うとは流石だね。
響子と生徒たちはそのまま大食堂へと案内されていった。
「オッチャン、また後でねー!!」
と鈴香だけは、俺に手をブンブンと振って別れを惜しんでいたな。響子も何か言いたげであったけど、騎士たちに促されて去っていった。
俺は彼らとは別の場所。
マリウスの執務室らしい部屋に案内された。
一応客扱いらしく、飲み物や摘んで食べれそうな軽食が用意された。
「それで、あんたは何処まで知っている?」
「まずは、改めて自己紹介だな。
俺はリューマ、日本人だ」
「そうか、やはり日本人なのか。
アジア系の顔はこちらの世界にもいるが、かなり少ないからな。直ぐに分かったよ。
で、何が目的なんだ?」
神に教えてもらったことを秘密にしろとか、全く言われていない。
だから俺は、知っていることを全てをマリウスに話すのだった。
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