第152話 敵の敵は味方だよね?

 本革張りであろう見るからに高級そうなソファは、腰を下ろすとふかふかでさっきまで寝そべっていた石床とは大違いだった。

 一瞬汚してしまわないか心配になったが、どうせ魔法で綺麗に出来るのだと気にしないことにした。


 目の前にいる、フードを下ろしたイケメンことマリウスは優しげな顔でこちらを見ながらも、警戒を怠りはしない。やはり用心深い性格だな。


「俺は神によりこの世界に喚ばれたんだ。

 その時にこの世界に迫る危機を教えられた。

 マリウスのことも、全て聞いているんだよ。例えば、北の魔王を倒そうとしている事とかね」


「……」


 マリウスはその言葉にピクリとだけ反応したが、特に何も言わない。まだ俺を探っているのだろう。


「お前の切り札、四体の竜も俺は倒すことが可能だ。それだけの能力を持っている」


「?!」


「マリウスは地球からの転位者だよな?

 王にこき使われてきたんだろ。だからこの国に復讐を考えているのだろ。

 だったら、俺と手を組まないか?」


「お前はなんでそんなことを知っている?

 それに神に喚ばれただと?

 いきなり現れて、そんな話をされて信じると思うのか?」


「信じるさ、お前ならな。

 例えば、お前の中に眠る『ヴァネッサ』の存在について話したり・・・・・・」


「なっ?!」


「お前が地球のカナダから喚ばれたとか、話をすればね」


「そんなことまで……、いやしかし。

 もしかしたら、お前は相手の情報を読み取るスキルを持っているんじゃないか?

 それで俺を騙そうとしているんだろ」


「うーん、そう来たかぁ。

 でも、もしそうならお前を騙して俺になんのメリットがあるんだ?

 バレた時のデメリットの方がでかい気がするんだけど」


 マリウスは慎重に俺の言葉を検証している。

 万が一、騙されているとしたら俺を逃がせばマリウスの秘密をバラされてしまう。

 それは流石に困るだろう。


 逆に俺が言っていることが本当だとしたら、マリウスにとっては大きなメリットがある。

 それは、北の魔王を倒すのに十分な戦力が手に入る。たったひとりでだ。


 そしてそれは、彼にとっての切り札にもなるだろう。それによって王や王族たちを支配してくれれば余計な邪魔も入らなくなって動きやすくもなるだろう。


 さて、マリウスはどう判断するだろうか?


「あんたが言っていることが正しいとして、あんたになんのメリットがあるんだ?」


 お、ちょっと信じてきたかな?


「俺は、召喚された全員の安全を保証したい。

 それは、お前なら出来るだろう?」


「ああ、確かにそれは可能だろうね」


 よし、言質は取れた。疑ってはいなかったけど、万が一出来ないと言われれば王国を乗っ取らないといけなくなるからね。


「それと、俺には神から託された使命がある。

 それを手伝って貰いたいと思っているんだよ」


「えーと。つまり、戦力として俺を仲間に引き入れるのが本当の目的ってことだね」


「ああ、その認識で間違っていない。

 それに、俺の敵は魔王たちも含まれている。

 それなら、目的の一部は同じだろ?」


「敵の敵は味方ってことか?

 まぁ、それはそうかもしれないね。

 だけど、本当にそれが可能なだけの力があんたにあるのか?」


「じゃあ、試してみようか?」


「え?」


 マリウスが反応するよりも早く、俺は拳に力を込める。もちろん、スキルなしのステータスだけのパンチだ。

 流石にマリウスを殺してしまったら意味がないからな。


 マリウスは咄嗟に魔法による障壁を全面に展開した。流石は筆頭魔導師になるだけはある。反応の速さが常人を逸している。

 しかし、そんな培ってきた能力をステータスの暴力により、彼のプライドと共に打ち砕く。


「がはっ?!」


 ドンガラガッシャーン。

 壁際に設置されていた家具を巻き込みマリウスを吹き飛ばした。

 壁にめり込んだあと床に落ち、片膝を着いた状態で軽く吐血する。

 やば、少し強すぎたか?

 だけどやってしまったことは仕方ない。防ぎきれなかったマリウスの責任としておこう。


「これで理解出来ただろ?」


「カハッ、ゴホゴホッ。

 ……たった一撃でこれかよ。しかも今スキルすら使ってなかったよな?」


「流石マリウス、よく分かったな。

ああ、今のは単に思いっきり殴っただけだ」


「それはつまり、……今ここで俺を殺そうと思ったら可能だったということだよな?」


「ああ、そのとおりだ。

 それこそスキル使えば、跡形もなく吹き飛ばせただろうな」


 正直、そんな衝撃映像とか見たくないし、やるつもりは毛頭ないけどね。

 だけど、それが『出来る』という事実は大きな意味を持つ。


「くそっ、本物の化け物だったのかよ。

 ……ちっ、分かったよ。リューマ、君の言葉を信じるしかないね。 

 流石にここまでされて、力量差が分からないほど馬鹿じゃない」


 立ち上がりながら、自らに回復の魔法を使うマリウス。何でも器用にやるもんだ。出来るイケメンとか、どう考えてもマリウスが主人公だよなあ。


 兎も角、最初の交渉は成功だな。


「そう言ってくれると信じていたよ。

 それじゃ、今後の方針を決めようか」


 それからマリウスと二人でこの後どのように動くかを打ち合わせしていく。


 まずは、響子と生徒たちについては国賓扱いにしてもらう。

 自由にさせることも可能だけど、一部の生徒が馬鹿をする可能性があるので暫くは王宮に住まわせる。

 俺の準備が出来たら迎えにくるつもりなので、それまでは面倒を見てもらうつもりだ。


 それと、『精霊の棲む森の村』からは手を引くように伝えた。あそこはミィヤの村だから、ちょっかいかけられても困る。ぶっちゃけ聖騎士たちも、あの村にいらないし。


「だが、あそこにある大精霊石がないと大規模魔法を行使するのが難しいのだけど」


「そんな魔法がなくても、『暴食』になら勝てるよ。それに、あの大精霊石が無くなったら困るんだ」


「なぜだ?

 大体君なんかが、あんなものを何に使うんだよ」


「それは言えない。

 しかし、神が必要だと言っていたとだけ言っておこう」


 真っ赤な嘘である。

 しかし、こうでも言わなければいつか奪われるかもしれないのだ。大精霊から加護も欲しいし、村人のためにもマリウスに渡すつもりはない。


「しかし、既に部隊は送り込んだから今頃は占領して大精霊石を探している筈だぜ?」


「連絡して撤退させろ。

 出来ないなら、俺が手を降すことになるぞ」


「あー、済まないけど。一応秘密の部隊だからさ連絡手段が無いんだよね」


 軽く予想していたが、やはり連絡手段が無いのか。

 もしそうじゃなければ、前回村を解放した時にもっと早く気が付かれていた筈だからな。

 だったら、すぐに出発した方がよさそうだな。


 それに、今まさにミィヤが森を彷徨っているはずなので助けに行かないとだし。


 あの時俺は馬車で半日は移動していたから、町から数十km先に降ろされた。

 そこから更に徒歩で数km歩いて野宿したから、今から移動すれば充分間に合うだろう。


「仕方ない、後のことは戻ってから話をしよう。

 とりあえず、入出国が自由に出来るように手配してくれ」


「分かったよ。他の勇者たちについては僕に任せてくれ」


「僕?随分、柔らかく言うんだな」


「あっ、しまった。

 いや、本当はこっちが素なんだよ。

 他の臣下がいる前で、弱みを見せれないからね」


「まぁ、そっちの方がマリウスらしいよ。

 それでは、よろしく頼むな」


「まるで前から知っているみたいに言うんだね。

 分かった、では手配をするから終わるまで食堂で食事をするといいよ」


 そこで俺とマリウスは別れ、侍女の案内で食堂に向かっていくのであった。

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