第149話 溢れる殺意
突然のことに驚く俺たちを他所に、既に戦闘音が聞こえてくる。
その中に悲鳴らしきものも聞こえるが、それが生徒たちのものでないと祈るように願う。
「やはり、『嫉妬』のスキルによりマスターの場所が感知されているようです!!
しかし、あのスキルは一度でも相手を視認しなければ発動しないはずではっ?!」
「やっぱり。そうなると相手は『竜眼』もちの魔王レビアタン本人じゃ!
妾も魔力解放するぞ!!」
了承する前に一気に魔力を解放するシャクティ。その顔つきは、いつもの飄々としたものではなく、俺と初めて戦った時……、いやそれ以上に真剣な表情だ。
それだけで、この状況がかなりまずいのだと理解する。
飛び込むように報告してきた響子も顔面蒼白で、信じられないといった感じだ。
「響子、何があった?!」
「お兄ちゃん、私のスキルが効かないの!!」
「それは、どういう意味だ?」
響子のスキル『統率者』は、仲間に対して効果を発揮するスキルだ。それが効かないとなると妨害されているということか?
「みんなが、別の誰かに操られたかのようになって……」
思わずシャクティを見てしまうが、本人は首をブンブンと振っている。
だとすると、敵から何らかのスキル効果を受けているとしか思えない。
奇襲を受けた上に、さらに味方を操られているとか洒落にならないな。
「申し訳御座いません、マスター。
敵の感知が出来ないばかりか、先手を打たれるなどと」
「後悔は後だ!
アビス、お前なら解除も出来るか?」
「もちろんです、旦那様。
かけれる魔法を解除出来ぬなど、三流の言うことでして──」
「御託はいい、出来るんだな?
よし、行くぞ!」
「お任せ下さい!」
「行ってらっしゃい、お兄ちゃん」
俺はアビスを引っ掴んで、ダッシュした。
今思えば、そこで一人で行動したのが間違いだった。
タニアと離れて、ミィヤと響子をそこに残して生徒たちの元へ向かってしまった。
その判断をこの時にしていなければ、もっと違う結末だったかもしれないのに……。
たどり着いた先で、俺は言葉を失った。
一部の生徒たちの目は虚ろで、そこに意思は宿っていないように見えた。
「オッチャン!」
「鈴香、お前は無事だったか!
星香と瞳月と明日香は?」
「みんなバラバラになっちゃって……
それより、みんながおかしいの!
急に喧嘩しだして、何言っても聞いてくれないの!」
そう言いつつ、自分に襲いかかる生徒を足蹴にして吹き飛ばした。意外と容赦ないな。
あれは宇佐美か、まぁ良くはないが大して面識もないし気にしない。
それよりも、離れてしまった星香たちの方が気になる。巻き込まれていなければ良いけど……。
そんな時だった、突然上から刃が鈴香を襲う。
不意を突かれた鈴香は躱すことが出来なかった。地面に血溜まりが出来ていくのを見ても、その傷が浅くないことは一目で分かった。
しかし、それよりも驚くことが目の前で起きているのだ。
「し、瞳月……。なんで……!」
「アナタが悪いのよ。星香はアナタばかり構って、私のことを二の次!
アナタさえいなければ!
アナタさえいなければ!
アナタさえいなければ!
アナタさえいなければ!──」
なんで瞳月が鈴香を?!
あんなに仲が良かったのに、なんで?!
あまりのショックに瞳月の目付きがおかしくなっていることも、言動が普通ではないことも頭に入って来なかった。
ある意味で、俺もおかしくなっていたのかもしれない。
だからあいつが紛れ込んでいた事も、気が付かなかった。
「ぷぷぷ! にゃ~ん?」
次の瞬間、俺の目の前は真っ赤に染まった。
──リューマが走り去った後。
「もう、お兄ちゃんったら私を置いて何処に行くつもりなのかしら!
もう、心配されるだなんて、妬ましい!」
「キョーコ?」
いつもと様子の違う響子を訝しげに見るミィヤ。たまに暴走することはあっても、人に暴言を吐くような人ではない。
そういえば、リューマを呼びに来たのは響子だけであったが他の生徒はどうしたのだろうか?
「大体、なんでお兄ちゃんはミィヤと結婚するとか言っているの?
先に会ったのは私の方なのに、どうてしてミィヤなの!!」
すると、指揮棒を手に取りそこに魔力を込めているのが分かる。
嫌な予感がして、構えるが既に遅かったようだ。
「そうだ、貴女さえいなければお兄ちゃんは私のモノ。
だから、死んでちょうだいミィヤ?」
響子が持つ指揮棒から、閃光が放たれるのであった。
──ここは、何処だ?
俺は気がつくと地面に伏していた。
辺りにはむせるくらいに血の匂いが充満していた。
起き上がろうとするが、身体のどこにも力が入らない。
「──っ」
声を出そうとするが、ヒューヒューと息が漏れるだけで、声にならない。
なんだ、一体何が起こったんだ?!
霞む目を凝らし、周りを確認しようとすると視界の端にスカートが見えた。
血で染まっているが、あれは生徒たちの制服だ。
頭の中で確認してはいけないと警鐘が鳴るが、止められなかった。
そのスカートからダランと投げ出された足は、微動だにしていない。
そのまま、視線を上にずらすとそこには何も無かった。
──上半身が無い。
全身を冷たいものが走る。身体の震えが止まらなくなる。
見たくもないのに、更に先に転がる何かを見つけてしまう。
ああ、ああっ!!
そこにはよく知る顔が転がっていた。
既にその瞳には光はなく、既にことが切れているのは明白だ。
「す…ず…か」
なんでだ?
ついさっきまでは、窮地だとしても元気だった。
昨日までは、みんな元気だったはずなのに。
目の前に広がる血の海には、動くものは無かった。
いや、既に人の形をしているものはひとつとして無かったのだった。
「おやー? さすがはレビアタン閣下が執着した人間だにゃ!
よく、頭と胴体だけで生きてるにゃあ」
そうか、俺は手足を動かせないんじゃない。もう、体に付いてないんだな。あー、今更すげー痛くなってきた。
くそっ、くそーっ!!
「ほう、まだ息があるのか?
しかし、もっと骨のある相手だと思っていたが、単なる運が良かっただけだったか。
そんな人間ごときに、我がこのように追い詰められたかと思うと、なんとも妬ましいことよ。
せめて、我がこの手で引導を渡してやろう!
『
俺の最後の記憶は、巨大な竜人が口からブレスを放った姿だった。
『ちっ、リューマめ。最後につまらん戦いをしやがって』
──最期に、そんなベルフェゴールの声が聞こえた気がした。
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