第147話 最後の休息
一回戦目は初日で終わり、俺たちは次の試合に備えて準備を進めた。
また別のダンジョンで戦うかもしれないので、陣を広げたり砦を改造するということはなく、ダンジョン内に残っている装備品やアイテムの回収、そして敵の骸を回収して魔石の抽出などだ。
ここからはきっと熾烈な戦いになると思う。だから、防衛に特化した布陣を敷くつもりだ。
流石に無防備に突っ込んで来てくれる敵ばかりでは無いので、罠の張り方や迎撃方法などを意見を出し合い模索した。
遅くても10日後には次の戦いが始まるとタニアが言っていた。多分、ベルフェゴールから教えられているのだろう。
確か、俺は一勝だけすればいいのであとは死なないよう戦闘を回避していたい。
だが相手の狙いはコアだから、こちらを襲ってくる筈だ。そこで、様々な罠を用意して嫌がらせをする予定なんだよ。
ちなみに今出てる案で一番効果ありそうなのは、アビスによる闇魔法の煙幕とシャクティの『色欲』で相手を翻弄する方法だ。
一見何も無い場所を通ると、目の前が真っ暗になりやっと見えたと思うと、目の前に立っているシャクティを凝視して『色欲』に掛かる寸法だ。
その後は、同士討ちにさせれば勝手に自滅していくというわけさ。
考えたのは委員長とミィヤなんだけど、意外と意見が合うようで軽く嫉妬して……いや、なんでもない。
変だな、子供相手に何を考えているんだ俺は?
とにかく、えげつない方法がいくつも出来上がったので敵が居ないうちに実験して精度を高めていた。
「どうしたの、リューマ?」
「いや、ちょっと考えごとしていた」
あれから数日経ったが、未だに次の戦争が始まる様子がない。他の戦いが長引いているのか?
なぜか縁起が悪いことに、その数日間に何度も自分が死ぬ夢を見ていた。
周りが真っ暗で、俺が一人になり、最後は切り裂かれて死ぬ。そんな夢だ。
やはり元々平和な時代に生まれた俺には、戦争とかストレスにしかならない。悪夢を見続けるくらいにね。
しかし、弱音ばかりも言っていられない。ここを切り抜けてはやく平穏な生活を送りたい。そろそろのんびりしたい。
そんなことを考えていたら、急に全身が光に包まれた。これは、転送の前兆か?
よし、次も生き残るぞ!
──そう意気込んだのだが。
「よお、帰ってきたか。
思ったよりも使える奴で良かったぜ」
「ここは……、魔王城か。
ということは、戦争は終わったのか?」
「馬鹿言うなよ、これからが本番なんだぜ?」
何言っているのだとばかりに手のひらをひらひらさせるベルフェゴール。
そして、次に衝撃的なことを言ってきた。
「次からは全軍での戦いになる。
一回目のように、一軍だけ相手にしていればいい訳じゃないからな。
グラジード公爵はスキル特性上、配下を作らないからブラド公爵と協力するんだな」
「ベルフェゴール閣下の御前での発言失礼するわ」
魔力を解放して魔王時代の姿に戻り、膝をおり跪き発言許可を請うシャクティ。今は俺の配下だからなのか、それともベルフェゴールの方が格上なのか随分と恭しい態度だ。
「なんだシャクティ。発言を許す」
「あのブラド公爵とやらは、妾と同じくヴァンパイアの始祖なのでしょう?
あんなの、人間が近くにいたらこっちのメンバーが干上がるわよ。
参加する軍勢が増えるのだから、会場も広くなるのでしょう?」
「そりゃそうだろう?
だから、あいつの『血界』に誘い込めれば楽に勝てるんじゃねーか」
「つまり、その囮をやれというのね?」
「分かっているじゃねーか!
流石は元魔王だな」
「……(よく言うわよね、私と御方では格が違うというのに)」
シャクティは唇を噛み締めながら、小声で何かを呟いていた。俺にもよく聞こえなかったけど、何を言ったんだろうな。
「なんだ、何か言ったか?」
「いいえ、なんでも御座いませんわ」
なんか二人だけの世界って感じで、何故か妬けてくるな。
って、なんでだよっ!
なんか、最近変に気持ちが揺らぐな。疲れているからな?
いや、最近ミィヤとイチャつく時間が減ったせいだな。さっさと戦争終わらせて村に帰ろう。
「今回の働きで、『嫉妬』の奴が序列の降格が決まった。奴はあまり好きではないから、ざまぁないと思うくらいだが、気をつけろよリューマ?」
「なんで俺なんだよ!」
「何故って、一番お前が狙いやすいからな。
と言っても、出来ることは限られているけどな」
意味深にそれだけ言い放ち、ベルフェゴールは話を続ける。
「さて、話しは終わりだ。
本来は補給や、休憩の為にあるからな。
明日またダンジョンに召喚されるだろうから、今日はこの城でゆっくり寛ぐといい」
そう言うと、俺たちの案内に従者を呼び寄せた。
相変わらず、ここが世界のどこなのかも分からないが、外を見ても太陽が無いことから地上では無いことは確かだ。
そのため何処も薄暗いのだが、それでも豪華な調度品などが分かるくらいに部屋の中が明るい。
それだけ照明が沢山備え付けられているのだ。
どれからも油の匂いがしない。つまりはこの照明も魔導具ということか。
流石は魔王、贅沢な暮らしをしているな。
そう考えると、シャクティって魔王の割に貧乏だよな。というか、ダンジョンしか持ってなかったし『色欲』は序列最下位とかだったのかな?
『マスター、それは禁止事項に当たる為、私もシャクティもお答え出来ない内容になります』
うお、心を読まれた上に教えられないと言われたよ。余程重要な何かに引っかかるのだろうか。
まぁ、気にしても教えてくれないのだし忘れておこう。
──翌日の朝。
「さて、ゆっくりと休んだな?
これから次の戦いが始まる。
死にたくなければ、抗え。俺をせいぜい楽しませてくれよ?」
ベルフェゴールの言葉を皮切りに、俺たちは再び戦場へ送り込まれるのであった。
──とある別の場所では。
「本当にいいんだな?」
「既に我の運命は決まった。
せめて一矢報わなければ、この呪縛から解放されぬのだっ!!」
取り憑かれたような瞳で語るある竜人が、戦場に向かおうとしていたのであった。
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