第144話 圧倒的
「タニア。あれって、リザードマンの亜種かな?」
「いえ、ドラゴニュートという竜人族と言われる魔族です、マスター。
はるか昔に、ドラゴンと人との間に生まれし種族だそうですよ」
「うーん、どう見てもトカゲだよなぁ。
それにしても、柔らかいな」
はるか2km先にいる敵に向かって投げているので、かなり威力は落ちる筈だけど、投擲マスタリーの熟練度が上がったおかげと、高ステータスのおかげで相手を撃ち抜いて倒せてしまった。
取り敢えず、全力で投げてからスキル『
最初は面白いほど当たるので楽しかったけど、あまりにも無抵抗に死んでいくので少し罪悪感が生まれる。
しかし、向こうはそもそも殺しに来ているからこっちに殺られても文句は言えない。それに真正面からやって来るって、少し無謀じゃないかな?
一瞬、罠を張っているのか警戒したのだけど。
『どうやら拠点を作っている様子はありません。
愚策にも、全軍でこちらに進軍してきているようですね』
うーん、これがいわゆる脳筋ってやつなのかな?
まさか、魔王が指名した代理人を侮っているわけは無いけど、人間だと分かって油断しているのか?
「まさかな?
まだ、始まったばかりだ。油断せずに確実に戦力を削っておこう」
「はい、それがいいと思います。
相手も本来の姿を解放すればマリウスに匹敵するステータスになりますので、油断している今がチャンスです」
げげ。マリウスと一緒とか勘弁して欲しい。
全員が同じになるとは思わないが、まだ攻撃してこない今のうちに少しでも数を減らすべきだな。
「おりゃああああっ!!」
オーバースローで、全力投球!
ステータスALL5000の俺なら、ドラゴンの鱗すら突き破れる。ただの石も、立派な武器になるわけだ。
そして、単なるオーバースローに見えるこれはスキル『チャージスロー』だ。
投げたものが、通常時の2倍の威力で攻撃出来るスキルだ。
さらに、『
いやー、レベル上げが飽きてきたときに石ばかり投げていたおかげで、とても便利なスキルを手に入れたよ。
つまりは、最大で約10000のダメージを狙った相手に与えることが出来るわけだ。下手な魔法攻撃よりも高威力かつ長距離射程になる。
敵が視認できない場所から狙い撃ちとか、スナイパーみたいだな。
使っているのは、石だけど。
ちなみに、投げるものを変えてもあまりダメージは変わらなかった。多分アダマンタイトを投げても、せいぜいダメージが100変わる程度だと思う。
なんせ加工されていない素材自体を投げるだけだからね。
ちなみに武器を投げた場合は、その武器の威力が乗るので意味はある。しかし、これだけステータスが高いと微々たる影響だな。
もちろん切れ味や、耐久性が違うから武器自体には意味があるんだけどね。
だから、消耗戦でもある今は石ころが一番いいのだ。タダだし。
……単に貧乏性とも言うが。
「マスター、相手が痺れを切らして前進してきました」
「思った以上に頭の良くない奴らのようだな。
よし、徹底的に潰しておこう」
タニアは敵を視認してから直ぐに分身を放った。一緒にアビスの分身も付けている。
これで相手に見つからずに近くから監視が可能だ。
見つかっても分身体なので魔力が減るだけでこちらに損害はない。
このままワンサイドゲームで終わればラッキーなんだけどな。
タニアの分析によると、竜人族の戦士は150体ほどいたらしい。
そのうち既に半数を投石だけで倒してしまったようだ。
敵の主力部隊が前に出てきたようだが、相変わらずこちらの攻撃を防げずにいる。
魔力障壁を張っているみたいだけど、単なる物理攻撃だしそれほど効果は無いし、強度も足りないので余裕で貫通した。
そんな時だった。
「マスター。敵の指揮官の様子が変わりました。
どうやらやっと本気になったみたいですね」
「なんか遅い気もするけど……。
それで何をしたんだ?」
「はい、マスター。
『竜力解放』を使ったみたいです。
『鑑定』したところ、全てのステータスが倍加したようですよ」
「うげっ、まじかよ。
じゃあ、流石に攻撃が通らないか?」
「──はい、ダメージはありますが防げるようですね」
言われて確認すると、なんと弾くだけでなく何発か素手で石を受け止めているのが見えた。
姿もよりドラゴンに近くなり、見るからに強そうだ。
だけど、奥の手があるのは敵だけではない。
俺はここで、奥の手のひとつを使うことにした。
「じゃあ、もう一丁驚かせてやろう!
『チャージスロー』──『
【チャージスローの効果が変更になり、『メテオストライク』になりました】
俺の『
こういう時にはとても有効なスキルだよな。
「行っけえっ!!」
ブゥンと風を切る音を鳴らしつつ、手に持つ石を力一杯に投げた。
あっという間に狙った先に飛んでいき、まるで小隕石が落ちたかのような衝撃音が鳴り響いた。
「マスター、お見事です。
敵の司令官は、一撃で粉砕されました!」
タニアが言う通り、落ちた先には敵の姿は無かった。それどころか、周りにいた戦士たちも余波で数体消滅していた。
我ながら恐ろしい威力が出たもんだな。
「敵の残数は?」
「──確認しました。
残り、九体。そのうち一体は先程の司令官よりも強いです」
「なるほど、そいつがコアを持つ本命だな。
よし、打って出よう」
「分かりました、行きましょう!」
「ミィヤたちはここで待っていてくれ。
ここからは、大将戦だからな」
「ん、気をつけてね。
リューマならドラゴニュートでも負けないと信じている」
今なら相手が浮き足立っているだろう。
今が潮時だ。
「任せておけ!」
そう言って、砦から飛び降りた。
今のステータスならこの程度の高さから落ちても死なない。
まぁ、無茶苦茶痛いけどね!
だからタニアの精霊魔法で飛翔する。さらに目くらましとして、アビスの闇魔法で姿を隠蔽する。
「妾も行くのじゃ!」
数瞬遅れて暇そうにしていたシャクティが俺を追いかける。
そしてわざと姿を隠さずに地面に降り立つと、先行して敵に向かっていった。
『妾が囮になる。主様は敵の首魁を狙うのじゃ。
妾は周りの取り巻きを排除する!』
『なるほど。よし、頼んだぞシャクティ!』
高速で相手の元に急ぎつつ、念話でやり取りする。
これも契約しているからそこ出来る便利な能力だな。スキル習得していなくても出来るのがいいところ。
2kmという距離を数分で駆け抜ける。
相手はこちらの隠蔽魔法を見破れないのか、俺のことは見失っている。
思惑通り、シャクティに意識が集中しているようだ。
「さっきの人間はどこに行った?!
ええい、近づいてくるあの女を止めろ!!」
「ふふん、そんなに妾を見つめていいの?
それじゃ、その熱い期待に応えてあげる。
『色欲』発動!」
いつもより、シャクティの口調が色っぽくなり、固有のスキルを発動した。
次の瞬間、ダイガン以外の竜人族の戦士は虚ろな表情に変わる。
そして、狂ったように同士討ちを始めるのだった。
「うおおおおぉっっ!!
シャクティ様のためにいいいいっっ!!」
「貴様ごときが、我のシャクティ様の名前を口にするなど、万死に値する!!
死に晒せええ!!」
お互いがお互いを本気で斬り合い、弱い者から倒れていく。しかし、その表情は恍惚としていてかなりドン引きだよ。
「き、貴様は?!
なぜ、こんな所に行方不明だった魔王がいるのだっ!!」
「あら、妾を知っているの?
でも、残念。元魔王よ?」
そう言いながらシャクティは魔力を解放していくのだった。
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