第143話 嫉妬の使徒
「我に勝利を捧げるのだぞ?」
「はっ、必ずや期待にお答えいたします!」
玉座に座りし女王、レビアの前に跪く青い鎧の騎士。その背中にはドラゴンのような翼がある。
彼が竜人族の戦士である証拠だ。
レビアは、『嫉妬』を司る魔王である。
どれだけ、献上されようと他を羨む気持ちは収まることがなく常に何かを欲し、そして手に入らないと持つ者を妬むのだ。
レビアの支配する大地は、氷に覆い尽くされた極寒の地。
金を払えばあらゆる物は手に入るが、支配する土地を手に入れるのには今回の序列を決める代理戦争で勝つより他ない。
肥沃な大地を持つ他の魔王を羨み、妬み、本気でこの戦争に勝ちに来ている魔王の一人であった。
「『怠惰』はどうせ手を抜いてくるであろう。
しかし、それでも勝利するだけの手駒を揃えてくるのが妬ましい!」
そこでニヤリと口を歪める。
そして可笑しいとばかりに笑い声を上げた。
「ふふふ、あーはっはっ!
でも、奴の手札は調査済み。まずは一番手薄な人間を狙い、確実に勝ちに行け!」
「はっ、仰せのままに!」
そして、三人いた配下たちは光の中に消えていったのだった。
「さて、誰があの人間に当たるのか。
まぁ、所詮は人間だ。せいぜい足掻くがいいさ」
暗い城の中に、レビアの笑い声が響き渡るのだった。
──
「さて、まずは索敵からだな」
レビアの配下であるダイガンは、竜人族の中でも勇猛で通ってきた戦士だ。
その肉体は硬い鱗で覆われており、灼熱にも極寒にも耐えることが出来る。
ドラゴン並の体力と、その耐久力を認められてレビアの配下となった彼は、魔王に会うまでは無敗を誇っていた。
自慢の鱗を軽々と貫く凄まじい攻撃力に感銘を受けて、自ら志願して彼女の配下になったのだ。
力こそ全て。
そんな世界で生き抜いてきたダイガンは、この戦争で負けることなど考えていない。だからこそ、前進あるのみと拠点も作らずに攻めることのみ考えて行動していた。
「ダイガン様、敵の拠点を発見しました。
この短時間で既に要塞並の拠点を作り出しています!」
「ふん、殻にこもる臆病者のやりそうな事だな。
で、相手の種族は?」
「はっ。確認したところ、人族のようです」
「ふふふふ、ははははははっ!!
ツイテいるな!これでまずは一勝をレビア様に捧げれるぞ!
よし、まずは斥候を出して拠点の入口を破壊させろ。そこからは、全軍で蹂躙だ!!」
「承知しました!」
ダイガンの配下もまた竜人族。彼らは真正面から戦うことしか知らない。なぜなら、それで負けることなどなかったからだ。
強すぎる故に、その力を過信して自らの勝利を疑わない。その結果。
「げひゃっ?!」
斥候で前に出た小隊が、突然水風船が破裂したかのように爆ぜて倒れた。
ダイガンは一瞬何をふざけているんだと、顔を顰めたが、自分の配下が血を撒き散らしているのを見えて驚く。
「な、何ごとだっ?!」
「て、敵襲です!!」
「馬鹿な、ここからあの砦までどれほどの距離があると思っている!
近くに隠れている者がいるに違いない。探し出せ!!」
竜人族を一撃で倒すほどの威力がある攻撃など聞いたことがない。間違いなく、近くに伏兵がいるはずだ。そう考えて、あたりを探索させようとする。
しかし。
「魔導師部隊より報告、半径2km以内に敵はおりません!!」
「斥候部隊より報告、同じく半径2km以内に敵はおりません!!」
「馬鹿を言うな! では、あの砦の上から攻撃してきたとでも言うのかっ?!」
有り得ない。神話級のアーティファクトでもそんな攻撃出来ない。
それにそれほどの武器なら、もっと凄まじい余波があるはず。
それなのに、部下たちは音もなく爆ぜて死んでいるのだ。
ダイガンは頭を混乱させながらも、辺りを必死に観察する。
そして、異常な風きり音が鳴っていることにようやく気がついた。
「この音は何だ?
まさか、あそこから投げでいるのか?」
ダイガンは、その目で見たのだ。砦の上から何かを投げる仕草をする男の姿を。
見慣れぬ格好をした男が何かを投げる度に、配下の者が爆ぜて死んでいく。
悪夢でも見ているのか?
そう思うくらい冗談のような光景だ。
「どんな手品を使っているか知らぬが、アイツが何かをしているに違いない!
こちらも彼奴を狙え!」
「ダイガン様、ここからではこちらの攻撃は届きません!」
「だったら届く位置まで移動して攻撃しろ!!」
ダイガンは無謀にも、より近づけと配下に命令を下す。それは明らかに自殺行為だが、彼に逆らえるものはいない。
「しょ、承知しました!
全軍、魔法障壁を張って攻撃出来る位置まで前進!
何としてもあの人間を倒すのだ!!」
副官である竜人族の男は、敵の攻撃がなんなのかも分からぬままに全軍を前に進める。
ここまで相手に一方的にやられることなどなかった為、初めて恐怖心を抱くがそれを無視して全速前進するのだった。
しかし、そんな彼らを嘲笑うべく謎の人間の攻撃は続く。
強度を最大にしている魔法障壁を撃ち破り、さらに自慢の鱗と肉体を貫通されて配下が次々に倒れていく。
前に進めば進むほど、その数は比例して多くなっていくのだった。
「なんなのだ奴は!!
一体どんな魔法を使っているというのだ!!」
痺れを切らした副官は、普段は滅多に使わない『竜力解放』を使った。
これは自分たちに流れるドラゴンの力を解放し、ステータスを倍加させる竜人だけが使えるスキルだ。
自身の消耗も激しいため、奥の手として使うスキルであるがもはやそんなことを言っていられない。
このままでは全滅するのではないか?そうなれば、自分だけではなく一族が蔑なれるだろう。
誇り高き竜人にとっては、死ぬよりも屈辱的なことだ。
「うぐおおおおっっ!!
これで如何なる攻撃も、我に傷など付けれぬぞ!!」
そして一番前に出て、謎の攻撃をその全身で受け止めた。
ガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッ!!
物凄い数の何かが自分に当たり、粉々に砕けるのが分かる。
そして、そのドラゴンに匹敵するステータスをフル活用して、飛んできた物を当たる前に掴むという荒業を成し遂げてみせた。
「ふはははは!
これで攻撃の正体が分かる……」
副官は掴んだ物を見て絶句する。
それは何の変哲もない石ころだ。
オリハルコンでも、ダイヤでも、鉄でもない。どこにでも転がっているただの石だ。
「ば、馬鹿な。
ただの石だと?!
こんな物に、我ら竜人が殺られているというのか!!」
ドビュンッ、ズシャ……。
そして、次の瞬間には彼もまた物言わぬ骸と化すのであった。
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