第142話 戦争開始

 ベルフェゴールの言葉に合わせるように、俺たちは光に吸い込まれ見知らぬ場所に飛ばされた。


 目の前には大きな台座があり、そこにはオーブが置いてあった。

 きっとこれがゲームで奪い合うオーブなのだろう。


「全員いるか?」


 辺りを見渡して、全員いるのか確認した。

 ミィヤ、タニア、アビス、シャクティ。

 響子や鈴香などの生徒たちが30名。

 うん、いるな。


 辺りはジャングルのような見通しの悪い場所。

 攻めてくる相手は、『索敵サーチ』なんかのスキルは持っているだろうから、見通しが悪いとこちらが不利だな。

 まずは、オーブを持って移動しようか。


 銀色のオーブは不思議な光を放ち浮いていた。

 手をかざすとすうっと小さくなり、俺の手に収まった。

 これってもしかして?


「マスター、これはダンジョンコアですね。

 ただ、本来ダンジョンコアとは別の物のようです」


 タニアが俺の考えを読み取って、解析をしてくれた。これで何かをやれというのだろうか?


「タニア、詳しく解析してくれ」


「はい、では預かりますねマスター」


 俺が渡すとタニアが解析を始めた。

 しかし、普段は分身と一緒にいるせいで本体と一緒に行動すると新鮮な気持ちになるな。

 しかも妙に色っぽくなったし、いつ手に入れたのか半透明のローブを纏っている。

 まるで水晶の女王だな。


「なるほど……。これはダンジョンコアの模造品です、マスター。

 これを使えば、ダンジョン内の構造を変えることが出来るみたいです。

 但し、一度使うとしばらくは使えなくなるようですね」


 なるほど。ようはこれで拠点を作るってことだな?

 俺が使ってもいいけど、ここは普段ダンジョンの管理をしているタニアに任せた方がいいだろう。


「タニア、そのまま使って拠点を作れそうか?」


「はい、問題ありません、マスター。

 しかし、ここで作るのはお勧め出来ません。

 もう少し守りやすい場所に移動してからにしましょう」


 敵もまた拠点を作ってから移動を開始するだろう。だとしたら周辺には居ないはず。

 拠点を作らずに攻めてきた場合は部下とはバラバラになってしまう。


 その場合は余程の実力差がない限り、圧倒的不利になる。相手の戦力は分からないが、それは相手も同じ。

 だからこそ、無謀な真似はしないはず。

 戦闘バカとかじゃない限りね。そんな奴来たら逃げるよりほか無い。


「周辺には私たち以外の魔力反応ありません。まだ近くにはいないでしょう。

 このダンジョンコアからの情報によれば、広さは直径10kmほどの中規模フロアのようです。

 現在地は中央よりも南側、やや中央寄りに位置しています。もう少し南側の方が背後が取られ難く防衛しやすいと推測します」


「分かった。それじゃあ更に南に移動しようか」


 そう直ぐに決断した。

 今は敵が近くにいないとはいえ、いつ来るか分からない。

 生徒たちが狙われると厄介だしな。


 全員に指示を出し、南へ駆け足で移動する。

 移動中に他の生物を見ないので、魔物の心配はいらなさそうだ。

 もっとも、出てきたところで生徒たちに瞬殺されるだろう。魔物位では足止めにすらならない。


 ちなみに参加している全員にタニアの分身体である水晶を渡している。それをトランシーバーのように使い、お互いに連絡を取り合うのだ。


 タニアを介して通信しているので、相手を指定することも可能だ。

 ちなみに措定していても、俺には聞こえるようにしている。何かあったら困るからね。


「マスター、目的の場所へ到着しました。

 ここなら、全方位を守れる砦を作れそうです」


「マジか、砦作れるの?!」


「はい。このダンジョンコアであれば問題なく作れるようです。

 全員を中心に集めてください」


「分かった。『全員、タニアを中心にして集合!!』」


 水晶を通して全員に号令を出す。

 流石に戦争だと分かっているので、みんな文句一つ言わずスムーズに集まってきた。

 眼鏡女子の野田美文子なんかは、顔を青ざめて口をパクパクさせているが大丈夫かな。


 そもそも、無理して着いてこなくていいと言ったのに彼氏の根津が行くからって参加を希望したのだ。

 他にも響子ちゃんのためとか、友達が参加するからとか、かなり緩い理由が多かったが、タニアが戦力は多い方がいいと言うので断らなかった。


 子供を戦争に巻き込むのは気が引けるが、失敗すれば全員の命をベルフェゴールに奪われる可能性もあるので、人に任せっきりに出来ないと言われれば仕方にない。


「いきますよ? 『迷宮創造クリエイトダンジョン』!」


 ゴゴゴゴゴゴゴと、地響き鳴り辺りの土が盛り上がる。それと同時に壁が出来上がり、みるみるうちに建物の形に変化していく。


 ものの数分後には、立派な要塞が出来ていた。


「砦じゃなかったのか?」


「はい、これが我々の砦です、マスター。

 これなら外周に敵が現れれば直ぐにわかりますし、こちらからの攻撃も有利になります」


「攻めには行かないのか?」


「まずは様子を見ましょう、マスター。

 『代理戦争』は、三回戦います。

 一回戦あたり一週間ほど続きますので、下手に動いてはこちらが消耗してしまうでしょう」


「なるほどな、それはあるかもしれないな。

 それじゃ、まずは警戒網を張ろうか」


 まずは拠点周りの安全確保、そして索敵スキルをもつ生徒に付近に近づく魔族がいないか見張らせよう。


「響子、『索敵サーチ』がある生徒たちに、周辺を見張らせてくれ。

 ここから長丁場になるから、しっかり交代制でな」


「分かったわ、お兄ちゃん。

 でも既に岡くんが指示を出しているみたい。

 流石は学級委員長ね」


「おー、委員長やるな。

 副委員長は手伝わないでいいのか?」


 そう言って、星香に話を振る。

 少し驚いたみたいが、すぐにいつもの調子で返してきた。


「久々にそう言われましたわね、リューマさん。

 でも、岡くんとは打ち合わせ済みですので、必要無いですわ。

 彼は優秀ですから、任せていれば問題でしょう?」


 委員長は『高速思考』というスキルを持っている。

 これは通常の数倍の速度で思考することが可能なのだが、様々な状況判断が必要な今の場面では実に有用なスキルだ。

 

 レベルが低いうちは知性が足りなくて、思考処理が追いつかなかったらしいが、今はレベル上がったおかげでフル活用出来るようになった。

 今では、響子の代わりに生徒たちに指示をテキパキと出している。こっちの世界でも優秀だな。


 拠点の防衛は委員長と響子に任せておけば問題無さそうだな。


「マスター、外周近くに斥候らしき魔物を発見しました」


「もう来たのか?!

 随分と気の早い奴らだな」


「リューマ。魔族には好戦的な部族が多数存在する。中には、戦いが生き甲斐の者たちもいる。

 戦い慣れている相手だから油断は禁物だよ」


「なるほど。じゃあ、まずは小手調べといくか」


 俺はいつも通り、小石を握りしめて狙いを定める。そして、砦の中からはるか遠くにいる魔物に対して全力で投石するのであった。



 






 

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