第141話 招集

 魔王ベルフェゴールに『代理戦争』に参加するように言われてから、約半年たった頃。

 それは突然現れた。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……………………。


 突然世界中で地響きが聞こえてくる。

 それを合図のように、空は黒い曇りに覆われて、赤い雷鳴が轟く。

 まるで平和は終わったと合図しているかのようだ。


 各国の首脳陣は緊急の会議を開き、この天変地異を調査すべく右往左往する。

 あちこちに人を派遣し、この音がどこからのものなのか、調べているようだ。


「ついに復活したのか」


「はい、マスター。

 『厄災の魔王』の封印が完全に解かれたようです」


 ついにその時が来てしまった。

 これまでにやれることはやってきた。

 それでも不安は拭いきれない。いや、不安しかないな。


 唯一の救いは、魔王ベルフェゴールに一位になれと言われていないことだな。

 もしそうじゃなかったなら、聞いた時点で逃げ出している。響子たちには悪いけど、助けるのも諦めていただろうな。


 もちろんその場合は別の方法を探していただろうけどね。ただ何年掛かっていたか分からない。

 今なら王宮に呪いの装置があると分かっているから、壊せばいいって知っているけどね。

 

「マスター。魔王ベルフェゴール様より通伝。

 『ゲームが始まる。直ぐに城に来い』との事です」


「やはりか。では、行くか」


「うん、準備は既に完了している」


「お兄ちゃん。生徒たちも全員揃ったわ。

 陣地を守るのは私たちに任せてね?」


「ああ、頼りにしているよ響子。

 でも、決して無理はしないでくれよ?

 全員生き残るのが目的だからな」


「ええ、分かっているわ。

 お兄ちゃんも、必ず帰ってきてね!」


 この一ヶ月ですっかりお兄ちゃん呼びで固定されてしまったな。

 最初は周りも微妙な顔をしていたが、もう慣れてしまい何も言わなくなった。


 ついでに、生徒たちからの呼び名も『響子ちゃん』で統一されている。

 今回代理戦争に出るにあたって、全員に魔王のことは伝えているので一ヶ月間真剣に修行していた。

 ほぼ全員がレベル100に上がっている。

 しかも全員が『勇者』なので、ステータスがかなり高い。


 これなら相手がいくら魔王級の上位魔族ばかりとはいえ、生き残ってくれるに違いない。


 俺はノルマの一体を倒せばいいので、ミィヤとタニア、そしてシャクティを連れて相手を強襲する予定だ。


 ん?アビス?

 もちろん参加するのだが、戦闘よりも防衛に適しているので本拠地に置いて響子たちを護らせる。

 相手を撹乱しながら防衛すれば、被害を最小限に抑えることが可能だ。


 ダンジョン内に地下四階に設置された転送門ゲートを通り、魔王城に向かった。

 一瞬で見知らぬ場所にワープ出来たことに生徒たちは驚いて興奮していたが、実物の魔王城に入ると自然と緊張感が増して口数が少なくなった。


「魔王ベルフェゴール様がお待ちだ。

 着いてくるがいい」


 全身黒甲冑の魔族が、門を開けて俺たちを案内した。レベルは120あるが、ステータスでは俺たちの方が勝っている。

 どうやら全員が俺たち人類よりも強い訳じゃないみたいだな。


 しばらく歩くと、王座の間に着いた。

 王座には既にベルフェゴールが座って待っていた。

 相変わらず、見ただけで圧倒されるな。姿は普通の魔族とそれほど変わらないのに、威圧感が半端ない。


「待っていたぞ、リューマ」


「俺は待ってなかったんだがな。

 出来れば、呼ばれることなく年老いて死にたかったよ」


「ふん、そんな冗談が言えるなら準備は大丈夫そうだな?

 まずは、この代理戦争のルールを説明する。

 その前に、お前と共闘する者を呼ぶ」


 パチンと、指を鳴らすと魔法陣が二つ現れる。

 そしてそこから二人の魔族が現れた。


 一人は、俺の倍ほどある背丈を全身黒の甲冑で身を包む巨大な騎士。

 異様なのはそれだけではなく、両手に全身を覆い隠すほどの盾を持っている。


 もう一人は血のような真っ赤な液体に包まれた小さな赤子のような魔族。

 背中に小さな羽が生えており、顔は無表情。目が金色に光っており、こちらをじっと見つめているだけなのに、背中に悪寒が走る。


「黒い甲冑が、グラジード公爵。魔族の中で最高の防御力を誇る、鉄壁の魔人だ。

 こいつが持つ盾は、あらゆる攻撃を跳ね返すことができる。そのため、未だに無敗を誇る猛者だ」


 なるほど、見たままだがやはり防御特化型の魔族か。魔人ということは、もしかしてマリウスのように元人間なのかな?


「そして、血の結界に包まれた赤子のような魔族は、ブラド公爵。

 相手の生命力を奪い、吸収する能力に長けている。そいつが纏う血の結界は、相手から奪った本物の血だ。

 怒らせて、血を抜かれないようにな?」


 愉しそうな顔で冗談を言っているみたいだが、本当にありそうで怖いんだけど。

 しかも、さっきまで無表情だったブラド公は一瞬だけニヤリと笑った気がしたし。


 どちらも力技でしか戦って来なかった俺には相性が悪そうだ。

 戦って勝てる気がしないぞ。

 本当、魔王を倒す勇者とかに指名されないで良かったよ。


 そもそも、そんな奴等を配下に置くベルフェゴールはそれ以上に強いというのとだ。絶対に戦いたくない。

 そもそも俺は平和にまったりとした生活を送りたいだけなのだから、戦わない生活を早くしたいな。


「さて、ルールは至ってシンプルだ。

 まずは、お前たちと配下にした者たちは特殊ダンジョンに転送される。

 まずは転送先でそれぞれの陣を敷き、本拠地を作れ。オーブは転送と同時に、代表者それぞれの手に出現するだろう。

 それを守りつつ相手のオーブを奪ってこい。

 ただ、自陣から離れ過ぎれば格好の標的となるから、そこは頭を使うんだな。

 ちなみにオーブはだれが持っても良い。最後に持っていた者がどこの陣営の所属かで決まるからな。

 ちなみに、ゲーム参加中に陣営を変えることは出来ないから、裏切りも相手の陥落も無意味だぞ?」


 つまりはガチンコバトルしながらやる防衛戦か。

 相手は全て格上だが、さらに配下も引く連れてくる。ふらふらさ迷えば、あっという間に囲まれて命を失うことになりそうだな。


 だから、まずは安全を確保しやすい陣地を作るのだろうな。


(稀に、わざと陣地を張らないで隠密行動して相手を狙う者もいるようです)


(へえ、俺には無理かな?)


(その者たちは暗殺を生業とする一族でしたので、マスターたちが真似するのは厳しいかと)


(そうかー、残念だな)


 そうなると、やはり定石通りにやるしかないか。


「説明は以上だ。

 では、もうすぐゲームが始まる。

 無様に負けるんじゃないぞ?

 俺を楽しませてくれよな」


 そう言って、面白そうに笑うベルフェゴールだった。









 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る