第139話 握手
「はっはっはー!」
「何を笑っているんだよ?
いっててて。あーあ、俺もボロボロだよ」
ヴァネッサが出てきて戦いの邪魔をしてしまったので、今回の決闘は俺の勝ちとなった。
あのままミスリルの大槌で一撃を与えていても勝ってた気がするが、マリウスのことだ、まだ何か奥の手を隠し持っていたに違いない。
戦いの邪魔をしたヴァネッサは、不機嫌そうに両手を組んでそっぽを向いている。
「やっぱ君は異常だよ。魔族化した僕をここまで追い詰めるなんて、普通の人間には無理だよ。
やっぱり、竜人か何かなんじゃないの?」
「最初にオレを鑑定したの、お前だろ?
正真正銘の人間です」
「本当かなー?」
屈託なく笑うマリウス。人間じゃなくなったのに、前よりも人間味を感じるとか皮肉なものだな。
それだけ、以前は色んなものに囚われていたということか。
「リューマー!!」
「お兄ちゃん、大丈夫?!」
「オッチャン! 勝ったの? 負けたの?!」
観戦ルームから出てきたミィヤ達が、傷だらけの俺に飛びついてきた。普段ならとても嬉しい状況だけど、満身創痍の今は死ぬほど痛いのでやめて欲しい。
「こら、鈴香! 川西さんに止めを指すつもりなの?
明日香、川西さんを回復してくださる?」
「分かったよ、星香。じゃあ、川西さんいくよー!」
明日香が舞うと、さっきまでは気配すらなかったのに、妖精の姿をした精霊たちが集まってきた。
そして、明日香の魔力を受け取ると俺たちを回復していく。
「あれ、僕も回復してくれるのかい?
君たちをこんな世界に呼んだ張本人なのに」
「それは違うわマリウスさん。
私たちは、貴方の召喚術でこちらの世界に来たかのように偽装されて、神様に送り込まれたのよ。
だから、貴方のせいではないわ。
ただ、あの腕輪だけは許せないけど」
「へー、だからなのか!
いやー、なんで失敗させたはずなのに成功しちゃったのだろうと疑問に思っていたんだよ。
ったく、あの神様には一杯食わされたわけだ」
「マリウスも神様に会ったのか?」
「そうだよ。『君は選ばれた、これから行く世界を救え!』とか偉そうなこと言っていたかな?
本当に勝手だよね神様は」
さっきまで体がボロボロだったのに、マリウスはいつの間にか治っているな。そういや『自己修復』スキルもあるんだったな。
俺も作業服の効果で回復しているけど、ボロボロになったからまた修復してもらわないとだな。
「それはさておき。リューマ、約束は守るから安心してくれよ」
「そうしてくれると助かるけど、いいのか?」
「今の僕には、君に敵対する理由がないからね。
おかげで自分の力が分かったし、文句はないさ」
清々しく笑うマリウスに嘘を言っている様子はない。これで経験値を多く貰えるアイテムが手に入るぞ。
「それで、何が欲しいの?」
「経験値が多く手に入るアーテイファクトを貰いたい。倍率は低くても問題ない」
「ふーん、そんなのでいいの?
じゃあついでに、コレもあげるよ」
虚空から何かを取り出して俺に向かって袋を放り投げてきた。中には何かが入っている 。
「なんだこれ?」
「一種の爆弾さ。魔力を込めると、爆発するアイテムだ。良く物を投げている君にピッタリだろ?」
「なるほどな、これはいいな。
有難く貰っておくよ」
「ああ、有効活用してくれ。
そして、これが君が欲しがっていたアイテムだ」
そう言って、鈍く光る腕輪を渡してきた。
雰囲気からして、かなり古いもののようだな。
「それは、相手を倒した時に手に入る経験値が2倍になる代物だよ。
もっとも、君のスキルがあればその効果がとてつもないことになりそうだけどね」
おお、これが経験値アップのアーテイファクトか。これを使えばかなりレベル上げが楽になる。
「さて、これで約束は果たした。
そうそう、暫くしたらこのダンジョンは閉鎖するからね」
「え、何処かに行くのか?」
「ああ、この国にはもう未練はないからね。
そうだなぁ、魔族領のどこか小さな国でも奪って優雅に過ごすのも悪くないかもな」
「そんなことしたら、魔王に狙われるぞ?」
「どうかなぁ?
多分、そこを治める魔王の傘下に入っておけば文句は言われないと思うよ」
「そんなものなのか?」
「そうだろ? ヴァネッサ」
声を掛けられて、さっきまで黙っていたヴァネッサがため息を吐いてから答えた。
「あんまりそんな話はするべきでは無いわ。
でも、魔王に逆らわない限り誰が国を治めても基本は何も言われないわね。
ただ、もうすぐ──」
そこまで言って、急に黙りこくるヴァネッサ。
顔を青ざめて、口をパクパクさせている。
(どうやら、ヴァネッサもどこかの陣営に組みしているようですね、マスター。
きっと代理戦争の話をしようとして、『禁止事項』に触れたのかと)
なるほど、魔族になるとそういう制限がかかるのかな。しかし、俺はそういう制限は掛かっていない。
「そうか、『代理戦争』の話はお前たちにも知らされているんだな」
「なぜそれを?!」
俺の言葉を聞いて、ヴァネッサが驚く。俺が知っているとは思っていなかったみたいだな。
「へぇ、それなら話は早いね。
君も出るのかい?」
「ああ」
タニアにも止められないし、話しても大丈夫なんだろう。というか、『君も』ということはマリウスにも声が掛かっているのか。
「じゃあ、もしかしたらまた戦うかもしれないね。
その時は、手加減しないからね?」
「なんだ、勝つつもりでいるのか?
次も負けないぜ?
マリウス、俺が言うのもなんだけど死ぬなよ?」
「はは、君もね?」
そう言って、自然と俺とマリウスは握手を交わすのだった。
「じゃあ、僕は行くよ。
一ヶ月はここを解放しておくから好きに使うといい。僕は新しい拠点となるダンジョンを探しに行く」
「そうか。元気でな」
「ああ、君もね」
そう言うと、ヴァネッサを抱きしめてから二人は魔法陣の光に包まれて消えていった。
「行ってしまったね、リューマ」
「ああ、でもまた会うだろうさ。
それまでに、もっと強くならないとな」
「うん、そうだね」
こうして、マリウスと別れた俺たちは再びレベル上げのために上の階に戻るのであった。
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