第138話 決着

「こうやって傍から見てると、とんでもない人ですね」


「いつも近くで見て麻痺していたが、やはりリューマは凄すぎる。

 いつもならタニアの援護もあるが、今日はそれも禁止している。

 だから、今のリューマは自分だけの力であの魔族になったマリウスに対抗している。

 私は、本当に人類最強の男の嫁になったのかもしれない」


 響子とミィヤは観戦しながら、その凄まじい戦いに息を飲む。

 そして、リューマのその強さを再確認して唖然とするのだった。


 響子はマリウスとリューマの戦いを見るのは初めてだが、お互いが使う魔法の規模からその実力を伺い知れた。

 自分では使えない魔法を無数に放つマリウスに対して、一歩も引かないリューマはまるで魔王に対峙する勇者のようだ。


 ふと、自分が良くやっていた乙女系のゲームを思い出す。自分が女主人公になり、美男子のキャラたちと冒険しながら仲良くなるファンタジー系のゲームだ。

 その中で響子の一番の推しは、奇しくも年上で寡黙で一番地味なキャラだった。そのキャラは主人公の従兄弟で、常にそばに居てサポートしてくれるキャラだ。

 その真面目で真っ直ぐな性格は、まるでリューマのようだったなと思い出す。


 そして、その時にやっと気が付いたのだった。

 自分がつい『お兄ちゃん』と言いたくなるのは、本当の従兄弟のあの人の面影より、あのゲームのキャラの影響だということに。

 

 我ながら幼稚な理由だなと思うが、同時に嬉しくなってしまう。

 響子にとって非現実的な世界で、リアルな形で推しキャラが目の前にいるのだ。ここは日本ではないのだから、周りの目をはばかる理由もないよねと自身に納得させるのだった。


「お兄ちゃーん、頑張って!!」


 その応援の仕方も、小柄な上に童顔も相まって、違和感がなくなる。ただし、頬が向上し恋する乙女のような目線になっていることをミィヤは見逃さなかった。


「響子、言っておくがリューマはミィヤの……」


「うん、知っているわ。でも、この国は一夫多妻制でしょ?」


「でも実際は、貴族とか豪商とか一部の権力者が許されているだけだぞ?」


「じゃあ、問題ないじゃない。だって、もうお兄ちゃんは村長だもの。いっそ、あのムカつく王様をやっつけて、王様になってしまえばいいんだわ」


 響子のなかで、何か吹っ切れた様子を感じ取り少し焦りを覚えるミィヤ。

 きっとこの女ならやりかねない。先日まで鬱々としていた様子がすっかりなくなり、何故かキラキラとした目でリューマを見ているのだ。


 前からリューマに好意を寄せていたのは分かっていたが、もはや隠す気が無くなったみたいと感じた。


 そんな気持ちを感じ取ったのか、満面の笑みを浮かべてミィヤの手を両手で包み込み、顔をグイッと寄せてからこう言った。


「大丈夫よ、ミィヤ。独占したりしないから。

 仲良くお兄ちゃんを応援しようね?ね?」


「わ、分かった」


 その勢いに負けて、ミィヤは頷くしかなかったのだった。



「えーと、川西さんってモテモテなのね?」


 その様子を見て、星香が思わず呟く。まさか自分の担任が用務員の川西に好意を向けるとは思っていなかった。


「んー、オッチャンは顔は普通だけど、男前だからね!みんなに好かれて当然じゃないかな!」


 鈴香はリューマのことを好きなので、不思議に思っていなかった。

 ただ、鈴香の好きは家族に対する好きと近いので星香への回答にはなっていないのに、気がついてはいなかったが。


「んー、私には分からないなぁ。やっぱり、イケメンの、方が好きだな」


「明日香、失礼ですよ。

 でも、私もお付き合いするなら歳が近い方がいいですね」


 明日香は自分の好みとかけ離れているので、不思議に思うだけであった。

 ただ、そんなこともあるんだねくらいの感想。

 瞳月も同様の気持ちであったが、建前上窘める。

 だか、言葉にするのは素直な気持ちだった。



 ──そんな話をされていると知らないリューマは必死にマリウスと戦っているのだが、いま正に絶好のチャンスが訪れていた。


「うおーっ!」


 俺は一瞬の隙を突いて、一気に近付いた。

 黒斧を大きく振りかぶる。

 黒斧が光り輝き威力を増してマリウスに迫っていく。


「くっ、しまった!」


 咄嗟にマリウスがガードするが、構わず振り抜く。


「ぐがっ!! なんて、衝撃なんだ!!」


「スキルを使って攻撃しているのに、耐えきるなんて流石だなマリウス。

 しかし、今使っているのは『チャージアタック』だぜっ?」


「は? 何を言って──」


 その瞬間、俺は右手を緩めマリウスの剣を受け流した。そして、そのまま黒斧を放す。

 そして、左手に持っていたミスリルの大槌に力を込めた。


「『ギガントプレス』!!」


「があっっ?! くっそーっ!!」


「今の俺が使える最高の攻撃だ!

 耐え切れるかっ?!」


「ごがああああっ!?

 只でやられるかっ!

 『ブラックスターダスト』を食らえっ!」


 吹き飛びながらも、数え切れない程の黒い星粒を俺に向けて放ってきた!


「ここに来て、これやるかよっ!!」


 吹き飛ぶマリウスを見ながら、自分も黒星の嵐に巻き込まれて吹き飛んだ。

 ガリガリと削られていくHPを見て、死の恐怖を感じる。

 ヤバい、このままゼロになったら俺は死ぬ!!


「 『精神力』発動、『体術』発動、『空間把握』発動!! 」


 本当は言葉に出さなくてもスキルを使えるが、焦るとつい口に出してしまう。しかし、確実に発動するのでこれが一番だ。


 『精神力』の効果で、恐怖に染まりかけた思考が一気にクリアになり、冷静な判断を導き出す。

 『空間把握』を使い、マリウスからの攻撃を一つ一つ確実に弾き飛ばし、『体術』を駆使してその反動を利用することに成功。

 黒星の嵐からギリギリ抜け出すことに成功した!


「あ、あっぶねぇ。

 でも、これでチェックメイトだっ!!」


 止めの一撃を繰り出すべく、ミスリルの大槌を右手に構え、吹き飛んだマリウスに目掛けて『メガトンプレス』を発動させて飛びかかる。


 その時だった。


「やめてーーーっ!!」


 壁にめり込み、身動きが取れないマリウスの盾になるように、黒い魔族が目の前に飛び出してくる。

 小さくなっているが間違いない、これはあの時マリウスを連れ去ったタニアに少し似た魔族だ。


「うおおっ?! 危ないっ!!

 うりゃあああっ!!」


 咄嗟のことに驚いたが、今この魔族を倒してしまうと恨まれること間違いない。

 無理やりミスリルの大槌の角度を変えて、地面に打ち付けた。


 ドゴオオオオオオオオオオッッ!!


 バリバリメキメキと地面が割れていき、闘技場の床が滅茶苦茶になってしまう。

 こりゃもう試合どころではないな。


「あーあ、駄目だよヴァネッサ。

 これは、僕の負けだね」


 行動不能スタンの状態で動けなくなっていたマリウスは、気が抜けたようにそう言って降参を宣言するのだった。

 

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