第136話 マリウスとの決闘①

「さーて、リフレッシュもしたし、そろそろ行くか」


「そうね。私たちは別部屋で観戦するのよね?

 マリウスはああは言っていたけど、命だけは落とさないでね」


「分かっているよ。

 全力で戦う以上、お互いに手加減はできないからな。だけど、そもそも負けるつもりもないさ」


 そう言い、頭を撫でてから離れた。

 見送るミィヤは少し寂しそうな、不安げな表情をする。


「大丈夫、一度勝ってるんだ負けはしないさ。

 じゃあ、また後でな!」


「うん、待っているね」


 俺の言葉を聞いて笑顔になり、手を振り見送ってくれた。


 さーて、ここで勝たなきゃ男が廃るって奴だな。

 ……元々廃ってた生活していたけどな。

 今は違う!

 ここで負けてもしミィヤに捨てられたら、この先生きていけない。

 ん?そうなると俺は結局勝つしかないんだな。


「やーっと来たね」


「よう、待たせたな!」


 通路を抜けて、光が差し込む。

 中に入ると綺麗に敷き詰められた石畳が広場いっぱいに広がる。

 その広さは東京ドーム一個分くらいあるかもだな。行ったことないけど。


 しかし、開口一番からため息を着くマリウスだが、待ちくたびれたのだろうか?

 しっかりレベル上げしていたとはいえ、並の冒険者には出来ない速度で攻略してきた筈だ。


「あんまりこういうこと、言いたくないのだけどさ……」


「なんだ、そんなに待つのが嫌だったか?」


「そこじゃないよ!

 いくら休憩場所用意したからって、人のダンジョンでイチャイチャしないでくれるかな?!」


「えー? 用意したのそっちじゃないか。

 それに、最後まではしてないだろ?」


「そういう問題じゃない!」


 おや、案外反応がウブだな。

 これは昔の俺か!?

 リアル魔法使いが魔法使いになったパターンか?!この世界に送り込んだ神なら有り得そうだな。


 あ、俺は違うよ?

 ほぼそうだったけど、一応違うからね?!

 ほら、魔法覚えれなかったし。

 それはさておき。


「お前、もしかして童貞?」


「そんなわけないだろっ?!

 今何歳だと思っているんだい?」


「──マスター、現在のマリウスの年齢は0歳です」


「なんだ、まだ赤ちゃんじゃないか。

 じゃあ、童貞確定だな」


「あーもーっ!!

 そんなことはどうでもいいから、さっさと始めるよ!」


 おお、いい具合にイライラしてくれたな。これで少しでも判断が鈍ってくれれば儲けものだな。

 大体、自分がやられたら嫌なことは相手も嫌がることだからな。


 さて、そろそろ始めようか。

 ここからは真剣勝負だ。


「はぁ。ルールを伝えておくよ。

 まずは、攻撃方法は何でもOK。但し、お互い従魔や召喚した仲間を使うことは禁止だ。補助魔法バフもダメだからね?」


「仲間と会話するのもダメか?」


「え? ああ、そっか君もダンジョンコア持っているんだったね。まあ、それは構わないよ。

 止めても、こっちには聞こえないから防ぎようないしね」


「ちなみにルールを破った場合はどうなるんだ?」


「ここは僕のダンジョンだよ?

 いつでも拘束出来るし、奈落に落とすことも可能さ。

 君ならすぐ抜け出せそうだから、その時は反省するまで延々と嫌がらせしてあげるよ」


「命奪うとかじゃないんだな。

 うーん、優しいような、優しくないような?」


 普通そこは『お前の命を奪う!』とか『お前の大事な人が悲惨な目にあうぞ?』とかな気がする。

 もちろん、遠慮したいけどね。


 しかし、本人も言っている通りいつでも俺を捕らえることが可能なのだから、無視して帰ることも出来ない。

 そもそも勝利した際の戦利品が狙いなので、帰るつもりは毛頭ないけどね。


「まぁ、前に言った通り僕の今の実力を測るのがメインだからね。あまり脅し過ぎて、ダンジョン破壊しつつ逃げられても困るから」


「なるほどな。

 それなら、期待に応えて今回もマリウスに勝利させてもらおうか」


「面白いこと言うね。

 前よりも強くなった僕に勝てるのかな?」


 真っ黒で引き締まった身体、おおよそ人間には見えないがその声がマリウスであると物語っている。

 銀色の髪は前よりも美しく、腰の位置まで届くほど長い。

 顔は元々整っていてイケメンだったが、人間だった頃よりも少し若くなっている。

 瞳が空色に輝き、虹彩は猫のように縦に割れていてそこが神秘的に感じる。


「さぁ、始めようか!」


 ──俺たちの二度目の戦いが始まった。


 マリウスは詠唱もせずに、直ぐに魔法陣を展開する。

 なるほど、魔族になるとそこから違うのか!


「まずは小手調べだよ!

 食らえっ!!」


 手をかざし魔力を込めると、魔法陣から次々に岩が飛び出してきた。


(あれは、『ストーンバレット』。初級魔法ですね)


「量が多いと、捌ききれないな」


 まるであの時の意趣返しのようだが、威力はそれ程でもない。

 ただ俺の場合、ステータスに比べるとHPとMPが極端に低い。

 多分、全てのレベルアップボーナスが固定されてしまったせいだろう。


 だから、こんな小粒の魔法でも数を食らうと危険なのだ。


「それなら、こっちもこれだっ!」


 用意していた小石を三つ取り出し、一個づつ投げる。その際に、スキル『50フィフティ』でそれぞれを50個に増やし、マリウスの魔法を迎撃した。


「うわっと、イテテ。

 相変わらず訳の分からないスキルだな!」


 先に攻撃したマリウスが次の瞬間には、俺の放った石礫から身を守るために防御の姿勢になる。

 そこで俺は更に猛追した。


 次の手は、途中で手に入れた魔獣の牙を取り出した。

 人間の肉など、一瞬で噛み切る奴らの牙は武器としても優秀で、この戦いのために研いでおいた。

 その殺傷力は先程の石礫とは比にならない。それを投擲した後に、当然の如く50個に増やす。

 これだけで、並の冒険者なら穴だらけになるだろう。


「なんでも増やせるとか、物理法則無視し過ぎだろっ!!

 くっ、『金剛盾ダイヤモンドガード』!!」


 肉体が強化されているマリウスであっても、これに当たれば只では済まないと判断したようだな。

 咄嗟に半透明の強靭な魔法の盾を作り出し、襲い掛かってくる牙を上手く弾いている。


「ふう、これで終わりかい?

 今度はこっちの番だね、『大紅蓮フレア』!!」


「負けてたまるか!精霊魔法『水障壁アクアガード』!」


 地面に現れた紅蓮の炎が、俺を包こもうとして襲いかかってくる。

 それに対抗すべく、水精霊の力を借りて炎から身を守る。

 それでも、熱気が襲い掛かるが『熱耐性』を持つ俺には少し暑いくらいの感覚だ。


 なんとか耐えきった俺は、炎のカーテンをくぐり抜け懐に入り込む。そこで自分が使える中で、最大威力の魔法を叩き込んだ。


「精霊魔法『爆裂雷光ライトニングバースト』!!」


 眩く光る雷がマリウスを包み込んだ。あまりの眩しさに俺も目を細めてしまう。

 その時、タニアの声が頭に響く。


(マスター?! マリウスには魔法は効きません!)


「あはは、魔力を沢山注いでくれるだなんて優しいなぁ」


 何?! しまった、そういやスキルに『魔法吸収』があるんだった。

 俺の放った魔法は全て呑み込まれてしまうのだった。

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