第133話 勝負の場所
「それで、こんな場所に何の用だい?」
「いや、どちらかと言うと俺のセリフなんだけど……。
え、まさか本当に偶然とかないよな?」
「んー? 僕を探しに来たわけじゃないんだね。
なーんだ、つまらないなぁ」
どうやら、探してなかった相手に遭遇してしまった。いるかもしれないとは思ったけど、こんなに早く会うとは思わなかったよ。
「なんか、子供っぽくなったか?
それで、マリウスはここで何しているんだ?」
「君のせいで一回死んだらさ、なんか今までのことはどうでも良くなったのだけど。レベルが10まで下がったから、レベル上げしていたのさ。
弱いままだと、この世界は何も出来ないだろ?」
マリウスの言う通り、強さがないと理不尽に蹂躙される世界。ましてや、絶対強者の魔王がいる限り安息の地はないと言える。
「確かにそうだな、俺も身に染みているよ。
それで、レベルいくつになったんだ?」
「今はレベル81だね。サクサク上がるから、楽しくて仕方ないよ」
「うわー、羨ましいな。俺なんか全然上がらないんだぞ。
……そういや、マリウス。このダンジョンに経験値を1.1倍にするアイテムないか?」
どうやら襲ってくる気配はないし、ここは聞きたいことだけ聞いておこう。もし、教えれくれれば御の字だしな。
「はぁ? 随分謙虚な質問だね。普通は二倍とか探さない?」
「まずは入手確率高いのから探すだろ?」
「はは、流石はゲーム好きな日本人だね。もっともここは現実なんだけどね。
んー、教えてもいいよ。というか、プレゼントしてあげてもいい」
『ちょっと、マリウス!
流石に敵だった相手に優しすぎじゃない?』
「ヴァネッサは黙ってて。
それで、その代わりにだけどねもう一度戦って欲しいんだ」
「げっ、またお前と戦うのかよ!
かなり遠慮したいのだけど……」
マリウスとの死闘は、昨日の事のように覚えている。あんな闘いは、もう二度としたくない。
「そう? でもさ、ここって僕のダンジョンなんだよね。だから、今のこの瞬間にそのアイテムだけ回収してしまうことだって出来るんだよ。
その意味は分かるよね?」
「やることがえげつないぞ!
しかも、その自信からしてかなり強くなったんだろう?」
「そうなんだよ! 人間辞めたらさ、凄く強くなったんだ!
だから、半端な相手じゃ実力を試せなくてさ。
あ、ちなみに殺す気はないから。寧ろ、更に強くなった頃にまた戦って欲しいと思っているからね」
今の実力を試したいというのは気持ちが分かるな。最初の頃は俺も自分の実力がイマイチ分からなくて上手く行動出来ていなかった気がするし。
それに最初から俺を殺す気なら、問答無用で口撃してきていた筈だ。その方が確実だからな。
「……分かった。それでどこで戦うんだ?」
「マスター?! 危険です!
約束を守るとは思えません!」
「大丈夫、最初からその気ならこんな回りくどいやり方しないさ。
但し、あの竜たちは無しでやってくれよ?」
「もちろんさ。というか、君に殺られたせいで暫くは召喚出来ないんだよ。まだあの子たちの魔力が回復してないからね」
なるほど。やっぱりまた復活はさせられるのか。
マジでチートなスキルだよな。俺なんか、癖の強いスキルしかないっていうのに。
「それなら良いだろう」
「折角だし、最下層に闘技場を用意しておくよ。
だから、辿り着くまでにいっぱいレベル上げてきてよね」
「その余裕な態度、闘技場で崩してやるから期待しておけよ!」
「ははっ、そう来なくっちゃね!
楽しみに待っているよ、じゃまたね」
そう言うと、光に包まれて消えていった。
やはりダンジョン内では自由に移動出来るみたいだな。
本人がレベル上げてこいというのだから、しっかりレベル上げていこう。
「タニア、マリウスのステータスは見れたか?」
「スキルは隠蔽されていましたが、ステータスは見れました。
今のマリウスは、あの時の暗黒竜シュバルツよりも上です。今のままでは、力負けする可能性が高いです、マスター」
相手のスキルが分からないと俺のスキルが効果あるか不明だよな。
とはいえ、俺のスキルを無効化出来るスキルって想像がつかないけど。
それよりも、ステータスがあのシュバルツよりも上というのが問題だ。
完全に人間辞めてるよなぁ。原因は俺だけどさ。
少しでも追いついておかないと、初手で負ける。いや、それどころか殺すつもりは無いけど俺が死んでしまう可能性すらある。
そんなことになったら、目も当てられない。というか、そこで今世が終わりだ。
「やるしかないか」
「最大限サポートします、マスター!」
よし、そうと決まれば早速……。
「まずは、休憩だな!」
「ええーっ?!」
ちょうどこの周りには魔物がいないみたいだし、今夜はここでキャンプにしよう。
もちろん、周囲の警戒にはタニアとアビスが対応している。
ちなみにシャクティは一部の生徒の訓練のため、ダンジョンに連れて行っている。引率と訓練に付き合ってもらっている。
本当はこっちで暴れる方が魔力回復にはいいのだけど、一緒に来てしまうと俺の効率が落ちるので別れた形だ。
ただ、シャクティが管理するダンジョン内で勇者が魔法を使いまくるとダンジョン内に魔力が供給されるので案外効率は悪くないかもしれない。
なお、タニアを通じて俺とも繋がっているので連絡はいつでも取れるようにしてある。
『さあっ!お前たち妾の奴隷となりたくなければ、バリバリとレベルあげするのじゃーっ!
はーっはっはっはっー!!』
うん、あっちは楽しくやっているみたいだな。
ちなみに行ったのは男子たちだけだ。あのダンジョンの入口は、女子には刺激が強すぎるからな。
女子向けの入口もあるらしいが、嵌ってしまうと困るので行かせるつもりは無い。
男子には耐えきったらご褒美を与えると約束をしてやらせているみたいだ。
異様にテンション高いのはそのせいだろう。
まぁ、たまには色んな意味でガス抜きしないとだね。連れていくつもりは無いけど、本当に戦争なんて異常な環境に置かれれば馬鹿するやつが必ず現れるからな。
そういう意味では、このダンジョンの存在はありがたい。
それと元騎士団員たちも一緒に参加している。彼らの場合は、シャクティと一緒にいるのがご褒美なのでずっとご褒美状態でやばい顔していたな。
あれとは関わらないようにしよう。
「さて、晩飯でも作るか」
「あ、私も手伝いまーす」
「今日はなんですか?」
「トマトバジルソースパスタかな」
エルフの国ミッドガルドで香草が豊富に仕入れ出来たからな、結構本格的なのが作れそうだ。
オリーブに似た香りのするオイルもあったので、それも一緒に買い込んである。
自分の村人に言えばご飯を用意してくれるが、たまには自炊もしないとね。レシピも教えてないし。
「トマトソースに刻んだバジル(に似たもの)を投入。ニンニクと塩を入れて味を整えて完成!
簡単だろ?」
「出来る人は、そうやってなんでも簡単そうにやるんですよねぇ」
と明日香が言ってきた。特待生のくせに何を言っているんだ?と思っていたら、急に響子が横から顔を出して。
「そうそう。お兄ちゃんはもう少し自覚した方がいいよ?」
と、上目遣いで言ってきた。
ぐは、なんだここはゲームの世界なのか?!と一瞬混乱したくらいに動揺しまくった。
「ふふふ、油断大敵ですよー?」
こうして、顔を真っ赤にしながら軽くペロリと舌を出しておどける響子に、してやられたのだった。
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