第131話 試練のダンジョン

 レベル上げをすることになった俺は、タニアの勧めもあって『試練のダンジョン』に来た。


 今のレベルが61なので、目標のレベル100までかなり頑張らないといけない。

 のんびり生活するために頑張っている筈が、やたらと戦ってばかりいるな。


 勇者でもないのにダンジョン攻略したり、魔王と戦ったり、響子たちを救出したり、一体どこのヒーローだよ。


 ただ後悔はしていないよ。今はまでは、人の役に立たない人生を送ってきたので、頼られるというのが嬉しく感じてしまう。

 こういう人間をチョロいと言うんだったか?

 まぁ、二回目の人生なんだし精一杯やってみせるさ。


 そんなこんなで、ダンジョンをハイスピードで駆け巡る俺。

 その俺に非難の声をあげる人がいる。


「オッチャン、流石に早すぎっ!」


「リューマ、まだ序盤だからって飛ばしすぎだよ」


 鈴香とミィヤだ。

 その後ろには、息も絶え絶えになっている女子が数人。響子と星香に瞳月と明日香だ。

 散々断ったのに、どうしても着いてくるというので、仕方なく一緒に潜っている。


 ──遡ること一日。


「一人で魔王たちの戦争に行くですって?!」


「そんな無謀なこと、なんで引き受けたんですか?!」


 俺は、みんなを助けるために魔王と取引したことは黙りつつ、約半年後に行われる魔王たちの序列を決める代理戦争に参加する話をした。

 タニアがいたドワンゴ村のダンジョンを創ったのが魔王ベルフェゴールで、攻略した際に目をつけられたことと、断れば命はないということだけ伝えた。


「そんな、理不尽な話があるもんですか!」


「そんな理不尽を言うのが魔王なのさ。

 それに、断れば俺だけじゃなく俺以外の人間も殺すと言われているんだ。

 あの魔王ならやりかねない。いや、確実になるだろうな」


 本当は、俺に関わる人間の命を天秤に掛けられているのだけど、それを言ってしまうと責任を感じてしまうかもしれない。

 ミィヤは一緒に聞いていたから知っているが、その事については口を噤んでいてくれている。


「それは、私たちも入っているんだよね?」


「鈴香......。いや、それはな──」


「じゃ、私も手伝う!

 一緒に戦ってはダメじゃないのでしょ?

 それなら、一人でも多い方がいいにきまっているよ!」


「だ、駄目だっ!!

 えーと、そうだ。お前たちじゃ弱すぎて話にならない。だから、足でまといになる」


 流石にここまで言えば分かってくれるだろう。俺の言葉が効いたのか、みんな黙っている。

 しかし……。


「分かった。じゃあ、もっともっと強くなる!

 半年後なんでしょう?

 それだけあれば、きっと追いついてみせるから!」


 俺の目を見つめて、真剣な表情でそう言い切る鈴香。その真っ直ぐな心に、思わず泣きそうになる。

 なんて良い子なんだ!!

 それに同調して他の子たちもうんうんと頷いている。


「リューマ、これはこの子たちの意思。

 だから、リューマには断る権利がないよ」


「うぐ。でもさ、危険な戦いにこの子たちを連れていくなんて……」


「じゃあ、こうしませんか?

 お兄ちゃん……、じゃなかった。リューマさんのレベルに追いつけなかったら同行するのを諦めます。

 でも追いついたら、一緒に行って戦うのを許してください」


「……それなら、いいよ。ただ、俺は全力で狩りをするから、簡単には追いつかせないぞ?」


「決まりね!

 そうと決まれば、どこでレベルあげしようか?」


「やっぱり難易度的にも、試練のダンジョンじゃないかなー」


 俺を蚊帳の外に置き、早くも次の段取りを始める女子たち。流石、切り替えが早い。

 でも、俺だって手を抜くわけじゃないから追いつかれるとは思えないしなんとかなるかな。

 そう思っていたのだが……。


(マスターは、普通の人より成長が遅いので数倍倒さないと追い抜かれる可能性があります)


 なんだって?!

 そういや前にそんなことを言われた気がする。

 でも、いまさら前言撤回と言っても聞かないだろうし、もうひたすら頑張るしかない。


 こうなったら、先に敵を倒しまくって経験値を取らせないようにしよう。


「それじゃ、ここからは競走だからな?

 ミィヤとはパーティ組むけど、他の人たちはそれぞれでパーティ組んでくれ」


 そこで、思わぬ人物からも声が上がる。


「じゃあ、あたし達もダンジョンに籠るねー。

 鈴香たちだけじゃ、人手足りないでしょ?」


「あー、確かに!

 終わったらケーキ沢山奢ってよね!

 あ、ついでにお菓子に使えそうな素材探そうよ」


 ワイワイと盛り上がって参加してきたのはなんとジャスミンたちだ。

 みんなを救出してからは、やたらとフレンドリーに接してきて、ちょっと戸惑っている。


 きっと元々こういう性格なんだろうけど、今までギャルと交流がなかったから腰が引ける。


「おーし、じゃあ俺らもやろーぜ!」


「んだよ、坂本。俺らも混ぜろよー」


 坂本を中心に男子たちもやる気を見せてきた。多分こっちは女子にいい顔したいだけなんだろうけど、それでもかなり意外な反応だった。


 結局、全員がレベル上げに参加することになった。戦争に参加するかはともかく、王宮の兵士や他の国に狙われたりしても、強くなっておけば少しは安心出来るという面もあるようだ。


 子供とはいえ、色々と自分で考えているんだな。

 殆どが学業での特待生なので、俺なんかの数倍頭がいいんだ。

 きっと色々と計算しているんだろうな。


「マスター、流石にこの人数が固まってダンジョンに籠ると効率が落ちます。

 マスター以外の生徒たちは、私たちのダンジョンでレベル上げするのがいいかと」


「確かにな。それに、俺や響子ちゃんがいない時に何かあったら対応出来ないからな。

 タニアの目が届く、俺たちのダンジョン内でレベル上げするのがいいか」


「はい、それでは準備は私の方でしておきます。

 マスターたちは、私の分身体と一緒に試練のダンジョンへ向かってください」


「分かった。じゃあ、早速だけどいくぞー」


「「はいっ!」」


 そうして『頑張ってねー』と、だるそうに見送れれて俺たちは出発したのだった。



「このくらいで根をあげるなら、帰っていいんだぞ?」


「バスケ特待生を甘くみないでよ?

 このくらい、全然、平気、なんだからっ!!」


 明らかに無理しているのが分かるが、ここで手を抜く訳にもいかない。

 ミィヤと響子には通信用にタニアの分身体を持たせてあるので、置いていっても問題ないようにしてある。


 まぁ、ミィヤを置いていくとか流石に出来ないけどね。だから、今はミィヤをおぶりながら走っている。

 さっきの非難の声は、みんなを気遣っていただけだったみたいだな。


「リューマ、ほらみんなに追いつかれちゃうっ!」


 うん、違ったみたいだ。

 ちょっと疲れただけみたいだな。

 まぁ、可愛いから許す!


「よーし! みんな着いてこい!」


「もう、待ってよおーっ」


 さぁ、レベル上げだっ!!

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