第130話 復活のマリウス

『おはよう、私の可愛いマリウス。

 今日は大切な日でしょ、起きなさい?』


「なんか、どっかで聞いたことあるセリフだな」


『あなたの記憶にあった会話を参考にしたのよ。

 どう、新しい体で蘇った気分は?』


 「悪くないよ。体のサイズが小さくなったこと以外はね。

 それで、ヴァネッサはどこにいるんだい?」


『私は、蘇生に力を使い過ぎたから、暫くあなたの中で休ませてもらうわ』


「そっか、無理させてしまったなぁ。

 ありがとうヴァネッサ」


『いいわよ。私がやりたかったのだし。

 なんとか間に合ってほっとしたわ』


「はは、なんだか人間っぽくなったね。

 それはそうと、あの国はどうなったか分かるか?

 あの愚王は死んだかな?」


『どうやら、トラブルがあって出兵出来ていないみたい。『あの男』が何かやらかしたのかもね』


「あはは、それはありそうだね。

 一部の生徒に好かれていたし、お人好しな感じだったもんな。

 もう僕には使えないから確認できないけど、あの装置を壊したなら勇者は自由に行動出来るようになるからね。

 反乱起こされて王都乗っ取られてたら笑えるんだけどな」


 マリウスは自分は舞台から降りたとばかりに、他人事のように話をしていた。

 今まで自分が画策して戦争を起こそうとしていたのに、その思いは既にない。


 彼自身も、一度死んだことにより呪縛から解き放たれたようだ。


「暫くは、この体を鍛え直さないとだね。

 命は助かったけど、レベルが下がるだなんてなぁ。

 ......あれ、このレベルにしてはステータスが高いな」


『ふふ。マリウスったら当たり前じゃない。

 肉体が魔族になったのだから、基礎ステータスがその分上がっているのよ』


「なるほど。だったら、早く魔族になりたかったなぁ」


『今回は上手くいったけど、毎回上手くいく訳じゃないのよ?

 成功率は半分くらいだし、それに......』


「それに?」


『私の負担が大きいから、余程のことが起こらない限り使うつもりが無かったわ。

 そもそも、あなたが負けるなんて思いもしなかったし』


「それはそうだね。自分でも未だに信じられないよ。奥の手まで使ったのに、それを耐え抜くだなんてさ。

 あの人、色んな意味で面白いな」


『ふふ、お友達にでもなるつもり?』


「あー、それもいいなぁ。

 なんか、恨めない人なんだよな。

 向こうがどう思っているかは分からないけどね」


 そう楽しそうに言うマリウス。そんな彼を優しく見守るヴァネッサ。しかし、リューマを少し妬ましく思っていた。


「まずは元のレベルまで鍛え直そうかな。

 何をするにも、この世界は強さが全てだから。

 だからさ、また協力してくれよ」


『当たり前じゃない。あなたと私は一心同体。

 これからも、ずっと一緒よ。あんな男のことは忘れて、まずはやり直しましょう』


「そうだね。じゃあ行こうか!」


 そう言うと、マリウスはダンジョンの地上階に転送するのだった。



「今までは魔法が主体だったけど、久々に肉体で戦うのも悪くないね。

 体を鍛えていた頃を思い出すよ」


 そしてマリウスは試練のダンジョンに篭ることにした。まずは自分のスキルや魔法がどこまで使えるか試す為だ。


 魔法は魔力が低くなった分、威力が落ちているが下層の雑魚を倒すには過分なダメージを与えるため、全て一撃で倒してしまう。


「直ぐにレベルが上がるのはいいけど、これじゃ肩慣らしにもならないな」


 そう言いながらも、久々のレベル上げに嬉々として戦いに身を置くマリウス。

 魔族に転生したおかげで食事の必要が無くなり、何日でも戦うことが出来る。

 魔物を倒し、そのまま魔素を吸収することで、HPもMPもすぐ回復することが出来た。そして、元々様々なスキルを持っているので睡眠も必要が無い。


 つまりは、負けない限り永遠に戦えるわけだ。


「よし、やっとレベル30だ」


『まだ一日しか経ってないわよ、マリウス。

 少し休んだらどうなの?』


「心配無用さ。力が漲ってきて、じっとしている方が辛いのさ」


 マリウスはレベルが上がるのと同じく、徐々に体が成長していくのが分かった。これなら、元のレベルまで上がれば大人の姿に戻るかもしれない。

 ただ魔族になったので、見た目は随分変わるだろうが。


「そういえばさ、僕はヴァネッサと同じ種族に転生したのかな?」


『どうかな?私は鉱物系悪魔のラピス族。

 だけど、あなたは少し違うみたいね。

 ステータスで見れるんじゃないの?』


「うん、そうなんだけどさ。なんだか、よく分からないんだよね。

 『エクスマキナ』だってさ」


「んー、聞いたことない言葉ね。

 異世界人だからなのかしらね?」


「んー、どうだろう?」


 マリウスは勿論分からないが、ヴァネッサまで分からないとなると不気味で仕方なかった。しかし、気にしても仕方ないと、保留にすることにした。


「まぁ、何になったとしても僕であることには変わらないからね」


『そうね。それでこそマリウスだわ』


 そして、忘れたかのようにまたレベル上げを開始したのだった。


 約1ヶ月後、マリウスは見た目15歳くらいの青年になっていた。そしてレベルは80になっていた。


「やっと元のレベルまで上がったね。これならオッサンにも勝てるかな?」


そう言って、自身のステータスを確認する。

その数値を見て笑ってしまうマリウス。


マリウス

0歳 ♂︎ エクスマキナ、ダンジョンマスター

レベル:80

HP16000/16000 MP16000/16000

力:6400

魔力:6400

体力:3200

知力:3200

敏捷:3200

技量:4000

運:400

スキル:『勇者』、『魔導師 』、『精神耐性』、『毒無効』、『物理耐性』、『魔法吸収』、『召喚』、『自己修復』、etc...


 自身が持つスキルが多すぎて、下位スキルは表示されなくなった。


 そして、未だに『勇者』が自分に残っていることに失笑する。


『勇者』:異世界より現れし強き魂を持つ者。あらゆるスキルを習得することが出来る。また、常人より遥かに高いステータスへ成長が可能。


「強き魂か。強い恨みならあったけどね。

 あのオッサンに『勇者』スキルがあったらあの強さに納得したのに......。

 なんでなかったんだろうか?」


 今更ながら、このスキルを唯一持っていなかったリューマに違和感を感じるマリウス。

 あの強さといい、あの変なスキルといい、何か秘密がありそうだなと考えてにやりと笑う。


「次に会う時は僕が勝たせて貰うよ?

 うん、楽しみにしているからなリューマ」


 そう一人つぶやき、また戦いに戻るマリウスであった。

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