第129話 タイムリミット

「約束通りやって来たな」


「ああ、そっちも約束守ってくれたからな。

 お陰で、暫くは楽しく暮らせそうだよ」


 ここは、魔王城にある謁見の間。俺たちは今魔王ベルフェゴールに約束通り解呪されていたことを報告した。


 今日は彼の配下らしき黒い騎士や魔導師たちがずらりと並んでいる。

 タニアの『鑑定』によると、どの人物もレベル100越えでステータスもかなり高い。

 タイマンなら俺の勝ちだが、これだけの人数がいると負ける。数は純粋な力だ。

 襲ってこないと分かっていても、これだけ並んでいるだけで潜在的に恐怖を感じる。

 しかも、全員黒いし!


「随分と余裕だな。

 お前が相手にするのは、ここにいる俺の配下たちより強いんだぞ?」


「それなんだけどさ。じゃあ、その配下を貸してくれよ。流石に一人じゃ戦争出来ないぞ」


「それは断る。というか、出来ないのだ」


「え? なんでだよ!」


「魔王が指名出来るのは代表者三名のみ。

 その人物の配下なら問題ないが、ここにいるのは俺直属のものたちだからな」


「なんで、わざわざそんな面倒なルールでやらないといけないんだ?魔王同士の戦いというなら、全勢力で戦えばいいじゃないか」


「はるか昔には、魔王同士が直接戦うような時代があったのだ。その時代は、全ての兵を引き連れて各地で大規模な戦闘が行われていた。

 まさに全面戦争だ。

 その時、お前たち人類はどうなったと思う?」


「......どうなったんだ?」


「各地が焼け野原と化し、人類の半数の命を落とした。まだ、人類の文明がこれほど発達していない時代だったから為す術もない状態だったろうな」


「なるほど、魔王たちが暴れるとそうなってしまうのか」


 人類は今でこそ戦う術を手に入れたが、それでも魔族に比べれば圧倒的に弱者だ。

 魔王が戦うということは、巻き込まれた人間が大量の命を散らすことになる。


「別に人類が滅ぼうが俺たちには知ったことじゃない。だが、この星の神はそれを望んでいなかったようでな、大量の天使を送り込んできやがった。

 天使は無差別に魔族を襲い始めた。結果は、魔族の人口も半分までに激減したのさ」


「うわぁ、天使も容赦ないな」


「だから、俺たち魔王は考えたのさ。

 部下が天使に抹殺されないように戦うにはどうしたらいいかな」


「戦わなければいいじゃないか」


「それは出来ない」


「なんでだ?

 まさか、それも娯楽のためか?」


 娯楽のために戦うなんて、おとぎ話の魔王ならよくあるパターンだよな。

 それに目の前にいるのは、娯楽を愛する『怠惰』の魔王だ。


「馬鹿を言うな。この手で抹殺するならまだしも、勝手に殺されてしまったら興醒めもいいところだ。

 そんなの面白くもなんともない」


「じゃあ、どんな理由なんだ?」


「『厄災の魔王』のせいさ。

 奴のせいで、俺たちは戦うことを義務付けられている」


「んー、その『厄災の魔王』って結局なんなんだ?

 名前だけ聞くけど、そんなに凄い奴なのか?

 魔王たちが手を組めば、倒すことも......」


「無理だな」


「え?」


「あれは、俺たちを生み出した神だ。

 そして、この星を支配する神を唯一殺せる邪神なのさ。

 俺たちは、奴に傷を与えられない。

 出来るのは、何故か異世界から来た勇者だけなのさ」


 ここに来て凄い情報をぶっ込んできたな。まさか、勇者にそんな力があったなんて。


 あれ、それだと俺はどうなんだろ?追い出されて勇者認定されなかったから、除外されるのかな?


「もしかして、勇者を使って『厄災の魔王』を倒そうとしているのか?」


「あー、他のやつは考えていそうだな。

 俺はそれには興味が無いな」


「なんでだ?いなくなった方が都合がいいように聞こえたけど」


「はん! そんな簡単に倒せるなら苦労しねーよ。奴はこの世の理を無視する。

 そんな奴に、蚊や蝿がいくら集っても無駄だろ?」


「それはそうかもしれないが......」


「なんだお前。この世界を救うとか言い出す気か?」


「はぁっ? そんなわけないだろ。

 俺は仲間たちと優雅にのんびり暮らせればいいだけだよ」


「くくく、やはりお前とは気が合いそうだな。

 俺は序列には興味が無い。だが、代理戦争で負けすぎると領地は奪われてしまうからな。

 いわゆる現状維持が最高なのさ。

 そこでだ。勇者でもない、ただの異世界人であるお前には負けない戦争をしてもらう」


 なるほど。面倒な戦争は乗り気ではないけど、負けると今の暮らしも出来なくなると。

 それで、負けないくらいの戦力を用意して現状維持か。

 というか、やはり俺は勇者じゃないらしい。

 いや、いいんだけどね。悔しくなんかないんだよ。


「それで、俺はどうすればいい?」


「お前の他に、俺が選んだ配下を二人用意する。

 そいつらと協力して、ゲームに参加しろ」


「ゲームねぇ。どんなゲームなんだ?」


「簡単なゲームさ。

 参加者は特別なダンジョンに飛ばされる。

 そこで、特殊なオーブをそれぞれ一個手に入れて終わるまで持っていればいい」


「それだけでいいのか?

 なんか簡単そうだけど......」


「オーブはそれぞれの陣営の代表者が持っている。つまりは奪い合いだ。

 つまりは、自分の身を守りつつオーブを一個奪うわけだ。つまり、最終的に俺の陣営に六個保有していればいい」


 げげ、全然簡単じゃなかった。つまりは、ほかの魔王陣営の代表者を一人は倒さないといけないのか。

 当然そいつの部下もいるだろうし、突っ込んでいけば飛んで火に入る夏の虫だ。


「うーん。相手はどのくらい強いんだ?

 流石に魔王と同じとか、無理だと思うぞ?」


 シャクティは弱体化していたから勝てたけど、本来のステータスだったら負けていたかもしれない。

 もちろん、『平均アベレージ』スキルを駆使してステータスは同じに出来るけど、相手のスキル次第では覆される。


 それは自分自身が特殊なスキルを持っているからこそ、実感している。


「そうだな。そこの女バンパイアの本来の能力と同じくらいだろうな。

 最低でそのくらいだな」


「いやいやいや、無理だって!

 そんなの魔王倒すのと一緒じゃないか?!」


「そりゃそうだろ? これは魔王の序列を決める戦いなんだ。相手が弱いわけが無い。

 それに、お前以外の俺の配下もその程度には強いから心配するな。あいつらなら、間違いなく一個は奪取出来る」


「じゃ、じゃあ俺は逃げればいいか?」


「それじゃつまらんだろうが?

 だから、お前にはここから半年間死ぬ気で100レベルまで上げてもらう。契約しているから、お前には拒否権はない」


「嘘だろ......まじかよ......」


「りゅ、リューマ。一緒に頑張ろう?」


「マスターなら半年も掛からずに100レベル上げれますよ」


「妾も元の力を取り戻すのじゃー!」


 タイムリミットは半年間。

 俺たちは、ダンジョンでひたすらレベル上げすることになったのだった。

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