第128話 安息の地

「ようこそ、おいでくださいました。

 ここはリューマ様がダンジョン内に作られた村、『精霊樹ドリアードの村』です」


 村人を代表してミィヤの母親のティタが挨拶をした。小柄ながらも、美しい容貌に皆が息を飲む。

 考えたら、殆どの生徒は異種族に会ったことがなく、ミィヤ以外では初めての遭遇となるんだよな。


 ミィヤは、王都にいる間は冒険者の格好をしているので、小柄の女の子としか分かっていない生徒が多数だ。そのせいで、一部からロリコン扱いされているが聞かなかったことにしている。


 さて、タニアが客が大勢来ると伝えておいてくれたので、出迎えの準備をしてくれたようだ。泊まる場所も問題ないらしい。本当にいつも気が利くから助かるよ。


「初めて来られた方々は、あちらに宿を用意していますのでそちらに移動ください。

 以前に来られた、スズカさん、セイカさん、シズクさん、アスカさんの四名は前にお使いの小屋を使えるように掃除しておきましてのでそちらでお願いします」


「わあ、ありがとー!」


「すみません、自分たちが使っていた家なのに掃除して頂いてしまって。ありがとうございます」


 鈴香と星香がティタに向かって、感謝を伝えると瞳月と明日香も『ありがとうございます』と深々とお辞儀をしていた。

 ハーフリングにはお辞儀をする習慣はないが、お礼をしているた分かっているみたいで、笑顔で『いいんですよ、リューマさんのお友達ですから遠慮しないで』と返していた。


 なるほど、友達扱いになるのね。

 17歳の子たちが友達って変な感覚だけど、説明するのが難しいのでそのままにしておいた。

 ハーフリングのティタと並ぶと、皆頭一個分大きいから違和感はないのかもしれないが。


 皆それぞれの家や宿に案内されて、移動の疲れを癒す。

 俺とミィヤはもちろんいつもの小屋だ。

 そろそろちゃんとした家にしようかな。元々、日本ではワンルームに住んでいたし、不便はないんだけどね。

 ミィヤは村長の娘だったわけだし、もう少し広い方が良いんじゃないかなと思っているだけなんたわけどね。


 しかし、本人に聞いてみると。


「リューマと一緒なら、別にどんな家でもいい。

 狭い方がよりくっついていられるし」


 そう言って、身を擦り寄せてくる。


「なぁ、妾の存在を完全に忘れておるよな奥方は」


「大丈夫です、私のこともこうなると意識から外れていますので」


「おわっと。そういや、そうだったな。

 タニアは本体が別だから気にしていなかったけど、シャクティにはベッドくらいは用意しないとだよなぁ」


「シャクティは別の家を用意したら良いんじゃないかな」


 さらっと、そう言うミィヤ。

 それを聞いて本気で驚いた顔になるシャクティは抗議の声を上げる。


「いくら主様の配下とはいえ、元高貴なる妾に対しての扱いが雑なのじゃ!」


「はは、別に雑に扱っているわけじゃないけど、一緒に寝るわけにもいかないだろ?」


「んー、妾は二人の間に寝ても良いのじゃが?」


 えー......、いくら見た目子供でも中身が完全に大人だからなぁ。

 先日の夜も全部見られていたみたいだし......。

 そういや、元々の寝床はどうしているんだ?


「シャクティが元々使っていたベッドとかないのか?」


「んー、前のダンジョンになら昔使っていた妾専用のベッドがあるぞ。

 でも、この家には入らないのじゃ」


「となると、やはり家を大きくしないとだなぁ」


「仕方あるまい。であれば、妾の眷属たちを呼んで建築するのじゃ。

 では、早速タニアと協力して妾と主様の愛の巣を創るとするのじゃ」


「リューマは私の旦那様。シャクティに出番はない」


「ふふふ。そう言ってられるのも今のうちなのじゃよ?

 魔力を取り戻せば、奥方よりも色気のある姿に戻れるのじゃからな?」


 なんか、本人の前で争うのはやめて欲しいもんだ。実際、魔力解放した時の姿は妖艶な姿だったし

冗談になってないかなら。


「まぁ、主様に追い出されても困るので、ちゃんと三人が住める家を用意するのじゃ」


「シャクティ、私の部屋も所望します」


「ほう? なるほどなるほど。

 主様は、魔族を魅了するほどの強者であったな。もちろん、タニアも協力してくれるのだからそれくらいお安い御用なのじゃ」


 こうして、俺たちの家はタニアとシャクティの眷属たちが新しく建てることが決まるのであった。


 こうして、しばらくの間は村に滞在することになった。

 全員の安全を確保したので、俺たちはまず向かわないといけない場所がある。

 約束したからな。


「じゃ、当面の安全は確保出来たし報告しに行くか」


「そうですね、マスター。あの方は約束したことは忘れない方ですから。直ぐに向かった方がいいでしょう」


「妾は、彼奴が苦手なのじゃ」


「じゃあ、留守番するか?

 直ぐに帰ってくるし、休んでてもいいぞ」


「そういう意味では言っておらぬ!

 契約した以上、どこでも一緒にいくのじゃ。

 それに近くにいないと、魔力の回復が遅くなるので良くないのじゃ」


 そうだった。

 シャクティは俺から僅かづつであるが魔力を吸収しているんだよな。

 これはタニアやアビスもそうなのだけど、本体がダンジョンにいるタニアやアビスは殆ど必要としない為、気にしたことがない。


 しかしシャクティは、分身体を持たず生身で活動しているので俺から魔力を供給しないと弱ってしまう。

 一応、食べ物や魔物からも吸収出来るのだけど、一人では戦いに出ようとしない。

 なぜなら......、『面倒なのじゃ』だかららしい。

 シャクティらしい答えだよ。

 ベルフェゴールよりも、怠惰に似合っている気がするんだけど。


 ただ実際な話、俺と一緒にいる方が効率が良かったりする。なんせ、行くところのほとんどに魔物がいるからね。


 そして、今から行く魔王城は魔力が満ちているので、シャクティの回復には持ってこいの場所だ。それもあって、嫌々でも着いてくるのだと思っている。


「よし、タニア頼む」


「承知しました。では、行ってらっしゃませ」


「分身体が一緒にいるから本体に見送られると変な感じだな。

 それじゃ、行ってくる」


 深々とお辞儀をして見送るタニア。最近やたらと人間っぽいんだよな。見た目が綺麗だから、艶っぽくてたまに見蕩れるほどだ。


「着きました、マスター」


「ああ、行こうか」


「いくのじゃー」


「うん」


「ですな!」


 ミィヤと三人の配下を連れて、約束を守るため再び魔王城に訪れる俺たちであった。

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