第127話 解放と移動
「よし、これで全員だな」
「はい、マスター。全て破壊しましたので、これで自由に行動が可能なはずです」
「よし、それじゃケーキでも食べるか!
ハンス、出来たかー?」
「ええ、スポンジは焼けましたのであとはデコレーションだけですよ」
「じゃあ、手伝おうか?」
「良いのですか?
流石にこの数だと結構大変ですので、正直助かります」
えーと、焼きあがったスポンジケーキは、10台か。1ホールを四人で分ける感じかな?
「もし良ければ、私も手伝いますわ」
「あ、私もやってみたいかも!」
「星香と明日香は、お料理も上手だもんね!
たまにお菓子とか焼いていたんだよー」
「へー、そうだったのか。
で、鈴香はやらないのか?」
「私は細かいの無理だよオッチャン。
食べる専門で!」
苦笑いしながら、そういう鈴香。彼女らしい答えだなぁ。
ハンスに言ったら、『売り物ではないので、いいですよ』と二つ返事でOKしてくれた。
他にもやりたい生徒を募ったら、主に女子たちが手を挙げた。
意外だったのは、ジャスミンが手を挙げたことだった。
「私だって、お菓子くらい作れるんだから!
彼氏にケーキ作ったことあるし!」
とやる気満々だったので、自分たちの好きなようにやらせることにした。
冷やしておいたフルーツをカットし、ホイップクリームを塗ってから好きにデコレーションしていく。
「リューマさん、私もやっていいかな」
「おう、響子ちゃんも器用そうな手をしているもんな。それじゃ、頼むよ」
「任せて、お兄ちゃん!」
「リューマ、私もやる。
響子には負けられない!」
響子とミィヤも参戦し、何故かだれが1番上手にデコレーション出来るかの勝負になっていた。
男子たちも、ただケーキが食べれるだけな筈が、クラスメイトが作った(デコレーションだけだが)ケーキが食べれるとなって、内心ソワソワしている。
そんな訳で、ケーキ大会となった店内はさっきまでのシリアスなムードから、和気あいあいとしたものになっていった。
「──えー、それでは投票の結果ですが……」
誰が用意したのか、投票箱をもった委員長が皆の投票結果を発表する。
女子たちの表情は、真剣そのものだ。
「12票を獲得した、浜崎桃華の勝利です!」
「「おおーーっ!!」」
桃華って、誰だっけ?
「やったー!あたしってば天才?
って、用務員さーん?
お前誰だみたいな顔しないでよー!
これでも、生徒会役員なんだから!」
「元だろー」
チャチャを入れる男子に『そこ、うるさーい』と返し、ハキハキとした口調で答える女の子は、浜崎桃華。
挨拶をちゃんと返してくれるが、それくらいしか接点がない。どうやら元生徒会役員らしく、頭もいいみたいだな。
屈託なく笑う所とか鈴香に似ているが、鈴香よりは小柄で華奢に感じる。文系タイプなのかな?
デコレーションも綺麗でセンスが感じられるし、手先が器用なんだな。
「二位は、六票のジャスミン!」
「「おー!」」
黒髪ロングなギャルのジャスミンが意外にもセンスを見せた。甘い物が好きなだけあり、飾り付けも上手だな。
色鮮やかさが、ギャルっぽいな。これを映えるといのだろうか?
「三位は──」
三位は、星香と明日香が共に五票と接戦だった。二人とも上品な盛りつけで、育ちの良さを感じさせられた。
意外だったのは、響子だ。
手先が器用だと思っていたのだが......。
「響子は不器用」
「ミィヤ、言わないでっ!
そういうミィヤだって!」
響子はゼロ票。
ミィヤは一票。
もちろん、ミィヤに入れたのは俺だ。
何故か、ケーキに俺の顔らしきものをデコレーションで作っている。ある意味で一番器用だが、他の人にはウケなかったようだ。
そして、俺が票を入れたと分かっているのでご満悦の表情のミィヤだった。
「リューマの愛があれば、他は要らない」
「う、それはずるいですよ!」
その後、二人がお互いのケーキについてああだこうだと言い出し、キリが無くなりそうなので止めさせた。
「ほらほら、せっかく作ったんだし、美味しいうちに食べような?」
「そうね、見た目は微妙でも味がおかしくなるわけじゃないから」
「私は、リューマが食べてくれればそれでいい」
ケーキ用に作ってもらったナイフで綺麗に切り分けた。流石に失敗するとぐちゃぐちゃになるので、使い慣れている俺とハンスが切ることにした。
「わー、綺麗ね」
「プロが切るとなんでこんなに違うんだろう?」
「剣スキル使えば、私だって!」
「止めて、テーブルまで真っ二つになるから......」
綺麗なピースに切り分けられるケーキを見て、キラキラとした顔で見る生徒たちは、子供そのものだ。
やっぱりケーキって、特別だよな。いつ見てもワクワクする。
「さて、みんな自分の分はあるかー?
余っているケーキは、あとでジャンケンで決めるからなー」
「はーい」
その後、生徒たちは美味しそうにケーキをほおばり、その味を堪能していた。
ふんわりしたスポンジに、口溶けの良いホイップクリーム。
酸味のあるベリーや、程よく甘い果物がバランスよく混ざり合い、美味しさを増していく。
「うん、美味い」
「前よりも美味しくなった」
「言われてみればそうかも。ついこの間まで手伝っていたから、気が付かなかったわ。流石ハンスさんね」
どうやら響子は、ハンスの手伝いしつつケーキの試食もしていたみたいだな。
どんなに美味しくても、毎日食べてしまうと変化を感じにくくなるからな。
美味しいものこそ、たまーに食べるのがいいんだよな。
残りのケーキは、生徒たちがジャンケンで熱い争奪戦を繰り広げていた。
話すと長くなりそうなので省くが、最後は目頭が熱くなったとだけ伝えておこう。
ケーキを食べ満足したみたいだし、移動を開始しよう。
俺たちは丈夫で死なないけど、巻き添い食らったらハンスが死んでしまうからな。
なるべく、隠密に行動してバレないうちに村へ行こう。
「というわけで、一旦俺の村に来てもらう。
食料もあるし、服屋も風呂もあるから生活には困らない筈だ」
「はいはーい!お風呂ってちゃんと男女別ですかー?」
「そうだなー。温泉が湧いているから、男湯と女湯で分けておこうか。
そのうち、一人1軒の家を建てて住んでもらうから、個別の風呂はそこまで我慢なー」
『温泉あるの?!』
『こっちの温泉とか綺麗なのかなー?』
『おい、女湯だって』
『ばか、しー!何も言うな!』
温泉と聞いて反応する所が、やはり日本人だよねー。
温かいご飯、温かい寝所、そして温かい風呂があれば幸せだ。
服?大丈夫、ちゃんと作る人いるから問題ない。
「家建てるのに人手は沢山必要になる。大工スキルとか建築系スキルあるやつは、是非とも協力してくれよな」
「はーい」
「それじゃ、アビス頼んだ」
「はいはい。お待ちいたしましたぞ。
では、皆様に『
そう言うと、店の中にいる生徒全員に魔法を掛けた。すると、ぼやけて誰が誰だかわからなくなる。
「おお、居るのはわかるのに誰だか分からないな」
「周りからの認識を阻害する魔法の一つですぞ。
度合いにより、完全に消えたように見せたり、別人にみせたりと便利な魔法なのですぞ!」
「ほう、妾よりも精度が高いのは感心なのじゃ」
さっきまで静かだったが、どうやらケーキに夢中だったみたいだ。
口にクリームを付けて、子供みたいになっている。
「ほら、口についているぞ」
「むぐぅ、美味しさのあまり気が付かなかったのじゃ!」
ハンカチで拭ってやると、嬉しそうにそう答えた。なんか、自分に子供ができたみたいだな。
相手は、俺より1000歳は上だけど。
「ん、何か良からぬことを考えてのじゃ!」
「いや、気のせいです」
「いくら、お兄ちゃんでも幼女はどうかと......」
「響子ちゃんまで、何いってんの?!」
最後はバタバタしながらも、村へと移動を開始するのだった。
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